第4話 兄 妹

ある日の学校帰り友達と別れた後の事だった。




「やだ!辞めて下さい!離して下さい!」

「抱っこしてあげるから遊び行こうよ」

「嫌です!私これから塾なんです!」

「そんなのサボって、サボって」

「困ります!」



そういう声がし私は目に止まる。


すると、そこには3人の不良っぽい男の子達が女の子を囲んでいた。



良く見ると────



「あれ…あの子…」



私は記憶にある女の子に気付き駆け寄る。




「ちょっと!辞めなさいよ!」

「あ?何だよ!」

「彼女の手を離しなさいよ!」

「お前に用はねーんだよ!俺達は彼女に用事あんの!」

「そういう事ー」

「さあさあ、こんな奴、無視して行こう、行こう」




ドンッ



私は体当たりや押し退けたりして彼女から車椅子を押し足早に彼らから離し逃げる。




「この女…何す…女っ!待ちやがれっ!」

「逃げてんじゃねーぞ!」



「すみませんっ!通して下さいっ!」


「女、待てーーっ!」



追って来る彼ら。


「あっ!すみませんっ!これ下さいっ!」

「えっ!?」

「あっ!」



私は近くにいる人の飲み物を貰い




バシャ




バシャ




コツン





彼ら目掛けて飲み物を、ぶっかけるとカップを投げつけ再び逃げた。




「あっ!ここで大丈夫です」



私達は逃げ切った事を確認し足を止めた。






「すみません…ありがとうございます。二回目…ですよね…」

「あ、うん。ごめんね…大丈夫だった?」

「はい…あの、お姉さんの方は大丈夫ですか?」

「うん!私は大丈夫だよ」



「あの…」

「ん?何?」

「名前、教えて下さい!」

「えっ?」

「お姉さんの名前…あっ!すみません…突然尋ねてしまって…」

「やだ…お姉さんって…照れる。良いよ。悠魅。小西 悠魅」


「小西 悠魅さん?私、綾歌(あやか)。成宮 綾歌です。それじゃ…本当にありがとうございました」


「あ、うん…」



去り始める彼女。



「…成宮…クラスメイトにもいる…まさかね……」




私は帰ろうとした時だった。



「おいっ!女」



ビクッ



「さっきはよくも」



振り返る私。



「テメーのせいで制服ビショ濡れじゃねーか」

「あんた達が悪いんじゃん!」

「何だと?」

「女子中学生相手に何してるわけ?」

「この女…」

「悠魅さんっ!」

「来たら駄目!」


「こっちは大丈夫だから塾に行って!彼女に手を出したら許さないから!つーか、一体何?言いたい事あるならハッキリ…」




グイッと片手を引き上げられた。



「…っ…」

「悠魅さん!」

「弁償してくれよな!」

「はあぁ~!?」

「クリーニング代よこせっつってんの!」



「そんなの自業自得じゃん!自分の親に言ったら?ママー、悪い事したから制服濡れちゃったーーって」


「なっ…!」


「まあ、その前に母親が悲しむか…家の子がって…」


「マジムカつくっ!」

「頭っきた!ボコボコにしてやる!」

「だったら病院代貰うから!」

「マジ許さねー!」




殴りかかる男の子。



「悠魅さんっ!辞めてーー!」




私は目を閉じた。



《…あれ…?》




ドカッ バキッ


鈍い音が聞こえてきた。



私はゆっくりと目を開ける。


すると倒れ込んでいる3人の姿があった。




「…お兄ちゃん…」

「…お、お兄…ちゃん…?」

「綾歌、塾遅れるから行きな。こっちは大丈夫!心配するな」

「…うん…」




そう言うと綾歌ちゃんは去って行く。



《誰…?お兄ちゃん…?》

《まさかね…》



私はそう思うも確認は取れず




「妹にも手を出すわ、命の恩人にも手を出すわで。あんたら良い度胸してんのな」




「………………」




「もっと痛い目に遭わせた方が良いみたいだから場所移動しようぜ?つーか、その前に暴力事件だから少年院行きか…既に警察(さつ)来てるかも?」



3人は慌てて逃げた。




「全く」




振り返る人影。



ドキッ




「…お、お兄ちゃんって…」

「俺」



そこには紛れもなくクラスメイトの成宮 遼助の姿があった。




「…………………」




「何だよ!御不満かよ?俺じゃない方が良かった?」

「…いや…えっと…」




私は "まさか" と思った相手が


本当に目の前に現れたのに驚くも


若干パニックになっている。






グイッ ドキッ


肩を抱き寄せられ胸が大きく跳ねた。




「スッゲー、根性してんのなー。お前…でも…サンキューな」




ドキン



「いやー、でも美人寄りの可愛い系の顔がグチャグチャにならなくて良かったな?婿の貰い手いなくなるぞ!あー、でも整形して世の男性を虜にして独り占め…」



「ちょ、ちょっと!遼助っ!あのねー!」




逃げる遼助。




「あっ!ちょっと!逃げるな!」

「逃げてねーよ!帰ってるだけだし」

「逃げてんじゃん!」



後を追う私。



「あっ!」



突然、足を止める遼助。



ドンッ


遼助の背中にぶつかる。



「痛っ!」と、遼助。


「私だって!第一、急に止まる…」




ドキッ


振り返る遼助。


至近距離にある顔に胸が大きく跳ねる。



「近っ…!」

「キス寸前!」



ドキッ


再び大きく胸が跳ねた。



「ば、馬鹿っ!」



私は押し離す。




「悠魅、さっきジュース代払っておいたから」

「えっ…?ジュ、ジュース…代…?何の事?」

「彼らにぶっかけたジュースを御詫びに渡しておいたから」


「あー…確かに…ぶっかけたね。えっ?あっ、ジュース代返して欲しいって?だったら…今から返…」




グイッ


後頭部を押されたかと思うとキスされた。




ドキーーッ

突然の出来事に胸が大きく跳ねた。



「これでチャラにしといてやるよ」




ドキン


至近距離で言われ再び胸が大きく跳ねた。




「………………」



スッと離れ帰って行き始める遼助。



「悠魅?」


足を止め振り返る遼助。



「あっ、ごめん…ていうか、遼助、人前でキスすんの辞めて!誰が見てるか分かんないのに!」



私は話をしながら歩み寄り私達は肩を並べて歩き始める。



「えっ?俺、人の目気にしねーし」


「いやいや…そこは気にして!ていうか私達は別に付き合ってるとかじゃないし」


「あー、そういえばそうだな?いやー、イヴの時から付き合ってる感があるから。俺」


「あのねー」


「じゃあ、次の恋人の候補として俺予約!」



ドキッ



「えっ…?」


「なーんて」


「もうっ!からかうな!」




クスクス笑う遼助。



ドキン



《確かに遼助の事は嫌いじゃないけど…》

《付き合ったら楽しいだろうな…》

《妹の綾歌ちゃんは可愛いし》





一人っ子の私にしてみれば


この家族の一人になりたい



彼の事は まだ


同級生であって


男友達?


お互い あのイヴの失恋の流れで


こうして仲良く過ごしてる


キス止まりな関係




そして 三度目のキス


友達みたいな恋人


恋人みたいな友達


微妙な関係の私達



でも



その微妙さが居心地良かったりする





─── だけど ───




ほんの束の間の幸せだった


本当の幸せは


私達には訪れなかった




─── だって ───






スッ


道に落ちている生徒手帳を拾う人影




「…小西 悠魅…塾に通う妹…そして…その妹の兄・成宮 遼助…」






3人の運命は


真っ暗闇に包まれていたのだから────




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