笑顔をつくるな!

「……じゃあ、次はなんですか? わかりました、笑顔の練習ですね! これはもう私、完璧なんです! アイドルになるために磨いてきた武器ですから! 魅力的に見える笑顔には法則があってですね! ……ああ、はい! やりますやります!」


にぱっ!


「……ちょ、いくらなんでも判断が早すぎないですか! まだ私の完璧な笑顔パーフェクトスマイルを見せてないです!」


「……不自然で怖い? ……機械のようだって……そ、そんな、そこまで言わなくても! いいえ! 私のパーフェクトスマイルは絶対の絶対に完璧なはずです!」


「……じゃ、もう一回やってみろって? わかりました! 今度こそ絶対的で完璧なパーフェクトスマイルをお見せします!」


にぱっ!


スマホのシャッター音


「……な、なるほど客観的に見たらどう見えるかということですね。それは納得いく作戦です! 私も鏡の前では練習を重ねてきましたが、どう見られるかまではチェックできませんでした! どれどれ……」


近づく


「……うん、機械ですね。……なんかあの、人形ひとがたAIロボットみたいな、なんか、そうですね。温かみがないというか、人間味が感じられないというか……う〜でもなんでですか〜!? あんなに笑顔の練習頑張ったんですよ! 毎日寝る間も惜しんで6時間は鏡の前で練習してたのに!? これじゃ、あんまりじゃないですか!?」


「……いつも通り真面目キャラでやってみろって? 自然に……そうですか」


少し離れる


「……あの、自然な笑顔ってどうするんでしたっけ? 口は開けるんでしたっけ? 閉じるんでしたっけ? 目は開いてる? 閉じてる? 眉は? 鼻は? 耳は? うわぁぁあああああ! なんだこれ〜! ゲシュタルト崩壊だ〜うぎゃああああああ!?」


「……だぁああ! はっ! また取り乱してしまった! すみません! えっ? なに?

『すみません』はなし!? わ、わかりましたよ。よくわらないですけど!」


「……さっきのお父さんの笑い声ですか? え……マネすればいいですか?」


「はい、じゃあいきますよ! (父親のマネ)『あの竹のようにお前は真っ直ぐにどこまでもどこまでも真っ直ぐに育つんだぞ~ハッハッハッハ』……はい、やりましたけど」


「……それ! こ、これですか? ……そのハッハッハッハをもっとたくさんやってみろと、わかりました!」


「(父親のマネ)『ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ』ーーいや、いつまでやればいいんですか!?」


「……オッケーオッケーって。これじゃあ変な笑い声を出してるだけで、パーフェクトな笑顔なんて……ふぇ? 今度は、ありがとうございますって言ってみなって……」


「……ありがとうございます。 ……もうちょい、語尾を上げて?」


「……ありがとうございますっ。 ……もうちょっと? ……はぁ」


「……ありがとうございます!」


スマホのシャッター音


「……な、なんで今の撮ったんですか? ……わかりました。見ますけど……あっ……」


「……えっ? なんか、いい。自分で言うと恥ずかしいですけど、なんか、自然な笑顔って、感じです。うーん、パーフェクトとは違いますけど」


コツンッ、と軽く頭を叩く音

 

「いった!? えっ? 私、叩かれた? なんで? パワハラ? パワハラを受けているんですか!?」


「……パーフェクトとか、完璧を求めるなっですか? いえ、でも、お言葉ですが完璧を目指さないとダメだと思います! 常に完璧を追及するからこそ! 日々精進できるわけで! もっともっとファンの方に愛されるアイドルになるためには完璧でいないと!」


「……あっ、さっきの機械みたいな写真。これがなにか……はっ!? そうか、そういうことですね! 完璧を求めすぎると機械のようにカチコチに固くなっちゃって、面白みがなくなってしまうと! マネージャーさんはつまり、そう言いたい! ……わけでもなさそうですね」


「……なんだかよくわかりませんが、言われた通りやってみます。パーフェクトを目指すなっ! と」

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