第16話 ニビルの統制官

イナンナが操縦するルクブ・イラニはニビル星のエンガルナム宇宙軍基地に着陸した。


「懐かしい…」






エンガルナム宇宙軍基地はイナンナがニビル軍に所属していた時の太陽系艦隊の基地である。


イナンナは基地にある大型戦艦に目を止めた。大型光速艦ヴィルバーナである。


「あれが欲しい。あれさえあれば…」


ヴィルバーナはイナンナがニビル軍に所属している時に敵の惑星との紛争が発生した時、クルーとして乗艦した事があった。


イナンナがルクブ・イラニのコクピットから降りるとニビル軍の将校が敬礼していた。


イナンナも答礼する。


「お久しぶりです少佐。」


イナンナはその将校を知っていた。イナンナの軍時代の上官である。イナンナの当時の階級は少尉であった。



「イナンナ長官閣下!お久しぶりです。」


少佐は今や自分の階級より遥かに上位に立ったイナンナに敬意を表した。今やイナンナの階級は上級大将である。


「誰もいませんので。」


イナンナは少佐にこっそりと話す。少佐は気をつけの姿勢を崩した。


「レプテリアンが地球を侵略しにきている事は聞いている。我々も心配しているんだ。派兵したいと考えてる。」


少佐はイナンナのエスコート役として隣を歩きながら話した。



「ありがとうございます。少佐。」


イナンナは基地内の広場に入った。


将軍一同がイナンナに敬礼した。イナンナも答礼する。その中に軍服を着用していない男性が敬礼せずに立っていた。


彼がニビルの統制官のオイルビである。


当時のニビルと地球では男性は踝まである上衣を常用していた。




「オイルビ統制官閣下、地球惑星防衛長官兼地球軍上級大将のイナンナです。」


イナンナが敬礼した。



「初めましてイナンナ長官。」


オイルビはイナンナに笑顔で近付き握手した。



「我が地球の神アヌの親書です。」


イナンナは随行の副官に顔を向けた。副官が親書をオイルビに渡した。


「話は聞いていますよ!レプテリアンの奴地球にまで!」


オイルビがアヌからの親書を読みながら眉間にしわを立てた。



「私は神に大変お世話になりました。派兵したいのはやまやまだが……」


オイルビはイナンナの目を見据えた。地球で神の地位にあるアヌはニビルで生活していた頃、一時期アカデミアで教鞭を取っていた。オイルビは当時の教え子であった。


「世論ですね!地球にはニビルからの移住者が大勢います。身近な方の生命が危機に瀕しています。また我が地球はニビルから独立した覚えはありませんよ。」


アヌが移住した頃の地球はニビルの援助に頼っていた。地球に移住するニビル人(アヌンナキ)が増え、生産力が増大するとニビルは地球に干渉しなくなった。その内に地球とニビルは別であると言う認識が双方には広まっていった。


しかし、地球がニビルから独立したと言う法的なものは存在しない。また独立の為の話し合いをしようとした形跡すらないのだ。


ニビルの法律上、地球はニビルの1地方である。



「統制官閣下、イナンナ長官閣下の仰る通りです!議会や世論も派兵に賛同するでしょう。」


少佐もオイルビに訴えかける。


「イナンナ長官、地球を訪問したい。神にもお会いしたい。」


オイルビがイナンナに地球訪問を打診した。


「わかりました。神とエンキに報告いたします!」



「今エンキと…?」


オイルビがイナンナに尋ねる。


「はい。エンキは神の息子のエアの事です。」


「まさか、地質学者のエア君ですか?」



「ご存じですか?」


イナンナは少し驚いた表情を見せた。


「エア君はアカデミアの後輩です。」


「ならば話は早い。統制官閣下を地球に正式にご招待致します!それから閣下、私からお願いがあります!ヴィルバーナを地球に下さい!」


「ヴィルバーナは確か退役のはず…」


ヴィルバーナは新造艦に取って代わられ現在使用されていなかった。


「レプテリアンはヴィルバーナを恐れています。地球にそれがあれば!」


イナンナはオイルビに懇願した。


「わかりました。お譲りします。」


オイルビは快諾した。


直ちにオイルビの地球訪問の準備が開始された。

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