楽しそうにするな

浅賀ソルト

楽しそうにするな

昔から女の笑い声が嫌いだった。

俺は美容室から聞こえてくる女の笑い声を聞くとイライラして、あそこをなんとかしてやりたいと思っていた。

美容室閉鎖命令が出たときは心が踊った。

会議は定期的に開かれる。議題は常に次は何をするかだった。

「そもそも女の立ち話とか禁止したらどうですか?」

「そうだな。案としてメモしておこう」グラームは俺の進言を聞き入れた。

他の案も出てきた。

「女が三人以上で会話するの禁止ですね」

「笑うの禁止だよ。俺はあの声が我慢ならない」

「分かる」

「BL禁止したが、普通っぽい誤魔化しをしたBLが出てきているらしい」

「女が本を書くのを禁止しても、闇に出るとどうしようもないな」

「闇市場の取り締まりは継続するしかないね」

「闇になると逆に過激化するから、微妙にガス抜きできるラインを決めた方が制御しやすい」アヴドゥルが言う。

これにはグラームが釘を刺した。「何を言ってるんだ、アヴドゥル」

「え? いや、全部禁止すると闇市場が育って、どうせ犯罪だからってことで闇市場は過激になっていくんですよ」

「その闇市場を徹底的に狩れという話だ。逸脱を許すな。法をなんだと思っている」

「すいません。そうでした。間違いました」

「女が騒がしいというと結婚式もそうだな」

一同から同意の声が漏れる。

「あんなもん、とっととやってとっとと終わればいいんだ」

「女の祭りだろ、そもそも」

「男も手伝わなくちゃならんしな」

とはいえ、俺も含めてだが結婚式の飯は好きだ。みんなでわいわいやるのは伝統だからな。男に関係ないことといえば、「服と音楽だな」

「服と音楽か」

「あの着飾るのはいらんな」

「花嫁衣装も来賓の衣装もそそるけどなあ」誰かが小声でぼそっと言う。

「結婚式で嫁をみつけるからな。あの服はいるか?」

「しかしやたら着飾ってキャッキャッ言ってる女も多いだろう」

「そうだな」

「お互いの服の品評会を禁止するか?」

会議にいた何人かが笑った。「そりゃいい」

もちろんどうやって禁止するか分からないのでこれは冗談である。

「音楽は禁止だな」

「異議なし」

「楽器をすべて処分しよう」

「結婚式の音楽がよくない。あの選曲が好きじゃない」

「女が選ぶからなあ」

「女の演奏家もクビになってから部屋で演奏会やってるからな、楽器を狩らないと解決にならんだろう」

「はしゃいでる女といえば、コスプレはどうする?」

「法には反してないが、あまりはしゃぐようならそのうち規制しよう」

「異議なし」

「水くみ場での雑談も最近、過剰になってきたんだが」

「あれも気にはなるな。なんとか人数制限できればいいんだが」

俺は他に女が楽しそうにしているところはないかと考えてみた。思いつかない。

「女の監視を強めてどこで笑っているのか調査する必要がある」俺は言った。「根本的に」

「どういうことだ?」

「調査観察の機関が必要じゃないか? なんなら俺がやってもいい」

「女の尻を追い掛けるのか?」

「違う。そうじゃない。監視や盗聴が必要だ。機械を設置する必要がある」

「なるほど。分かった。あとで詳細を説明してくれ。今日はこれで解散」


※参考文献 名字由来net

https://myoji-yurai.net/worldRanking.htm?countryCd=AF

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

楽しそうにするな 浅賀ソルト @asaga-salt

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ