「延」

 路地裏の水道で、震える手を押さえつけるようにひたすらに手を洗っていた。手と手を擦る力は、手の甲が赤くなるほどだった…

「これで、これでいい。大丈夫……あとはもう……大丈夫……やることは……やった……」

 刃物の入った黒いビニール袋を鞄に押し込んで、その人物は、その場を去った。

 七月二七日。夏休みを前にした、初夏だった。

 街頭に集まる虫と、鳴き続ける蝉。目撃者は、彼らだけだった。

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