第6話 領主アレックスの威厳
♦︎♦︎♦︎領主邸食堂
アレックスは憂鬱だった。
もちろんアリスの事である。あれだけ喜んだ顔は物心が付いてから見た事が無かった、部屋での会話が気になり過ぎて午後の仕事が手に付かなかったくらいだ。
しかし、あまりにかまってアリスに嫌われたく無い。そう思うと聞くに聴けない、もどかしい。
どの世界も父親は娘に甘く嫌われたく無いのだ。
夕食時がアリスに聞くチャンスだ!今日は夕食には顔を出すだろうか?
アレックスが食堂に着くとそこにはアリスが座って居る思わず『えっ』声が出てしまう。
「お父様、今日はありがとうございました。少しはしゃぎ過ぎてしまいお腹が減ってしまいました。後でマイケル…仔猫の事で相談がございます、お時間を作ってくださいますか?」普段のアリスからは考えられない事である。
「喜んでくれたようで父さんも嬉しいよ!そうだな、食事の後にでもゆっくり話そう。」アレックスは屈託のない年相応のアリスの笑顔がとても嬉しく心が満たされる思いだった。
家族が食堂に集まりだすと皆がアリスの笑顔に気付く。
すぐに長女のアンティスが声を掛ける。
「アリス!機嫌が良さそうね!何かいい事あった?」
「はいアン姉様、お父様から誕生日に頂いたプレゼントがすごく素敵で可愛いのです。」
アリスは屋敷の部屋の中で生き物を飼う事に少しばかり後悔していた、鳴き声や匂いで家族の誰かが嫌な思いをするかも知れない事に気付いたからだ。
「良かったわね!う〜ん、そうね私が何か当ててあげるわ!お父様は黙っててね!」
アレックスは「あっ、」と言うまもなくアンティスに発言を遮られた。
「ドレスや靴はアリスは喜ばないし、、帽子じゃないかしら!散歩の時に日差しが和らぐから気持ちいいわ!アリス!帽子よね!」
「アン姉様、散歩には良いかもしれませんが、帽子ではありませんわ。」
食事が始まるとマナーの練習もかねて静かに食べている。
食べ終え歓談の時にアンティスから提案があった。
「アリス!分からないわ、降参!答えは見せてもらえるかしら。すごく興味があるわ!」
「アン姉様、お父様とお話しの後でいいですか?」
「そうなの?じゃあお父様とのお話しが終わった頃にアリスの部屋に行くわね!」アンティスもアリスがにこやかなので嬉しそうに自室に戻って行く。
「アリス、執務室で話そうか!セバス、執務室にお茶の用意を。」
アレックスは妻のマリアンヌとアリスを連れて執務室のソファで食後のお茶を飲みながら話しを聴く。
「アリス、ペットの仔猫の事だろう?何か困った事でもあったのかい?」
「お父様、まだ困った事ではないのですが、部屋で飼うことになると鳴き声や匂いの問題もあります、屋敷の母屋にはお客様も来られますので、使われてない離れにマイケル…仔猫と生活したいのです。メリーはお父様が承知するならと構わない、と確認しています。」
「そう、寂しいわね親離れには少し早いけどアリスは決めたのね?」母のマリアンヌは真剣な表情で話す我が子の成長に感心していた。
「はい、お母様。」
「わかったわ。アリスが生活しやすい様に少し改装しないといけないわね、希望はあるの?メリーアンも良いのかしら?仕事が増えるわよ。」
「はい奥様。承知して頂けるなら今まで通りアリス様にお仕えしたいと思います。」
「そう、アリスのわがままを許します。その代わりに、アリスにも領主家としての責任の一端をお願いするわ。まだ子供としての参加だから大した事ではないわ。何かは考えておきます。」
「はい、ありがとうございます、お母様。」
マリアンヌはアリスをギュッと抱きしめ「良い顔になったわ!」と目頭を熱くしていた。
その時、一緒に居たはずのアレックスは不貞腐れていた。せっかく娘に父親の威厳を見せたかったのに妻に良いところを持っていかれたのだ、そのギュッとするのは俺の役目で「パパ大好き!」なんて言われたいのだ。
しかし、拗ねたおっさんほど見苦しいものは無い。なのでウンウン良かったとうなずいておく。心で泣いていてもだ。
それから少し、離れの改装や飼育に必要な物などを話し合った。
アリスが自室に戻る時、アレックスに抱きつき
「お父様ありがとう!」って!
これよ!これっ!
父…陥落。
アリスにとっては父親にお願いをする事すら非日常であり、知らず知らずのうちに成長し自身の世界を広げていく。
♦︎♦︎♦︎双子
アリスが乗る車椅子をメリーアンがゆっくり進めると、部屋の前に人影が…
「やっと戻ってきたわね、アリス!」と、アンティス。
「僕も気になってね。アンに付いて来たんだ!」と、マルティス。
「アン姉様、マル兄様!お待たせしましたか?直ぐに用意しますので少しお待ちください。」
双子の兄姉と言葉を交わすアリスと、部屋に入りマイケルを探すメリーアン。
「アリスお嬢様、マイケルは寝ています。起こしましょうか?」
「メリー、マイケルが寝ているなら起こさなくていいわ私の膝に乗せてちょうだい、兄様達を部屋に案内して」
メリーアンは、ササっと部屋を片すと双子に「お待たせしました」と招き「静かにお話し下さいませ」とお辞儀している。双子は「「ん?」」と不思議顔だ。
「アリス〜!何か荷物が増えたわね。あっ!かわいい〜!」アリスの元にアンティスが駆け寄って来た。
「ねぇ、アリス!プレゼントって仔猫なの?いーな〜いーなー!寝てるの?起こしてもいいかな?➖➖ 」
アンティスのハイテンションマシンガントークは止まらない。
「「……」」
マルティスもアリスも空いた口がふさがらなず、テンションの高いアンティスに驚いている。
マルティスはそんな驚いているアリスを見て、アンティスに話しかける。
「アン、アリスが驚いているよ!少し落ち着こうか。仔猫も驚いて起きちゃうよ。」
「あっ、そ、そうね。ちょっと、つい…、ゴメンね。アリス」
メリーアンから「お茶が入りましたよ。」と、合いの手が入るとアンティスも少し落ち着いてソファーに腰掛ける。
「そう言えば、最近市井の方では小動物をペットとして飼育するのが流行っていると執事長が話していたね。」と、マルティス。
「えっ、そうなの?」とは、アンティス。
「さすがマルティス坊っちゃま。良く知ってらっしゃる。」メリーアンは市井にも目を向けて情報を得ているマルティスに感心していた。次期領主に向けての自覚が出て来たのかと嬉しく思い微笑んでる。
「それはそうと、仔猫はアリスの部屋で飼うのかしら?」
アンティスは気になる事を聞いてみた。
「その事で先程お父様とお話ししていました、本邸にはお客様もいらっしゃるので離れを改装して其方に移る許可を頂いたのです。」
「「えっ!」」双子は突然の事で驚き声をあげてしまう。
「「屋敷を出るの?まだ5歳になったばかりだよ!」」流石は双子ちゃん!息はピッタリのようだ。
「まぁ、出ると言っても同じ敷地内ですしメリーもいますので、一緒にマイケルの世話をお願いしたのです。あぁ、マイケルは仔猫の名前です。離れの件は先程決まりましたので明日から用意を始めます。」
なんとも淡々と語るアリスである。
「「……」」
普段は俯き加減で申し訳なく話すアリスしか知らない双子ちゃんは3つ歳下のアリスがやけに大人に感じて返す言葉が見つからなかった…。
しばらく歓談して、アリスの部屋を後にした双子ちゃんは、
「アリスはなんか変わったね…。」「うん…。」と、どちらとなく頷き、
「負けてられないね!」「だよね!」と、お互い鼓舞し合いながら自室に戻って行った。
〜その時マイケルは〜
何か騒がしいと思い薄目を開けると、アリスに似た女の子が覗き込んでいた。まぁアリスに抱かれているので大丈夫と思い知らんぷりして狸寝入りをかます事にした。猫だけど。
話しからすると女の子は姉さんか、ソファーに座って居るのは兄さんの様だ。まだ1日も経っていないのにどんどん状況が進んでいく。1週間のお試しのはずが、父親との話し合いで本邸から別れて離れでの生活を勝ち取った様だ。とても5歳児とは思えない。
「それでアリスお嬢、離れに移るのですか?」
「あらっ、マイケルやっぱり起きてたのね。何か寝ている時の気配が変わったのに起きてこないから。」
「そりゃ、頭の上で騒がれれば起きますよ。でも起きると長引くでしょ!なので狸寝入りしてました。しかし、アリスお嬢は気配に敏感ですね?」
「うーん、目が見えないからかな?音とか気配とか?雰囲気?なんでか解らないけど知っている気配なら誰か分かるよ。」
「アリスお嬢、お嬢は本当に俺でも良いの?こんな喋る猫だよ、俺自身も解ってないから…これからどうなるか…今ならブリストルに話して普通の仔猫を探してもらうよ?」
「マイケルは私が嫌い?」
「嫌いじゃないよ。お嬢からは…その…優しいと言うか、心地よいと言うか、そんな感じだからね。」
「マイケルはお父様からのプレゼントなのは分かっているわ。いくら私が子供でも喋る猫が普通じゃないのは解っているつもり。家族も屋敷の皆んなも優しいし助けてくれるけど何か違うの…、そんな時にマイケルに巡り会えたのは神様の思し召しに思えたの。
…ぁぁ、メリーはね、気を悪くしないでね、本当の母親の様に勝手に思ってゴメンなさい。」
「アリスお嬢様っ!」
メリーアン、アリスの手を取り号泣。
マイケルは1人…1匹思う。アリスは絶対5歳児じゃねぇ。
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