第4話 ブリストルわんにゃん店


「ウェーイ!領主様と繋がりができたぞー!」


お店に帰るなりブリストルは猫担当店員のタマに飼育道具一式の用意を指示する。


「やりましたねオーナー!消耗品と餌を定期的に購入してもらえれば売り上げが安定しますね!」


「タマにも苦労をかけたね、領主様御用達にしてもらってこれからバンバン売って行こうね!」


「はいっ、オーナー!」

っと、女2人抱き合い涙ながらに喜んでいる。今までの苦労な日々…市井ではペットを飼う余裕のある家は少なく裕福な商家ぐらいなものだった…思い起こしているのだろう。


隣には冷ややかに犬担当店員のポチが「はいはい」と納品に向けて黙々と用意している。


一旦帰ってきた三毛猫の仔猫は事の成り行きを伺って、声を掛けてみた。


『オーナー!俺は売られるのか?にゃ?』

そう、俺は日本語で問い掛けてみたのだ、思いのほかオッサン声だったので可愛く『にゃ』も入れてみた。

部屋は一瞬で静まり返り、オーナーにタマにポチと女3人姦しい中でのオッサンの声に3人と目が合う…


「「「ぎゃー!」」」


タマとポチはそのまま気絶してしまった。流石はオーナーだ!驚いた様だが近寄ってきた。


『日本語?』


っん?


『オーナー!日本語知ってるの?ちょっと教えてほしいんですけど…ここは日本なんですか?海外でしたらどこの国ですか?あと、えー、今日の日付けを教えてもらいたいのです。』

日本語を知っている人が居て興奮したのか早口で捲し立てて聞いてしまった。

オーナーはアワアワしながら挙動不審者並の反応をしている、まぁいきなり三毛猫が日本語を話したら驚くよね!英語でもヒンディー語でも驚くけど、落ち着くまで待つ事にする。


3分程すると落ち着いたのか呆れたのか動き出した。


『貴方はだれ?』


どうやら尋問する様だ。めっちゃ疑ってる!そりゃそうだ見た目が仔猫で人の言葉で話し掛けているのだから


『見ての通り三毛猫の仔猫だよ、いつもメイドのタマさんが世話してくれていたよ。』

キャットゲージの中で香箱座りで、今度はゆっくりと話しだす。オーナーは店の部屋をキョロキョロと見廻す。


『ほんとに貴方が話しているの?』


『俺も夢なら早く覚めてほしいくらいだよ。ここは何処の田舎なの?電気ガス水道も無さそうだけど…』


『そうよねここはファンタジー…ファンタジーなの…なんでもありよね…』ぶつぶつオーナーが独り言を呟いている。


『オーナー!喉が渇いたから水が飲みたいのと、ゲージから出してほしいのだけど。』

オーナーの独り言を止めないと話しが進まない。


『あぁーそうね、先ず初めに貴方は日本人だったの?いろいろ聞きたい事がありすぎるわね、状況…を把握していかないとね。』


それからオーナーと2人…1人と1匹で現状のすり合わせをして状況整理をしていく。


俺は仔猫になる前日迄の記憶が朧げにある事、自身のパーソナルデータの記憶が無い事を話し、オーナーの話しを聞く時にやっとゲージから出してもらえた、少しは安心したのかな?



オーナーはブリストルさんと言い前世は日本人で記憶持ちだそうです、不慮の事故で亡くなり生まれ変わってから生活様式の違いで苦労されたそうだ、なまじ記憶があると埋められないギャップが有る、なので周りからは変人扱いされているそうだ。


ブリストル女史の話では、5歳になると教会に行き子供の才能を見出す儀式を行うそうだ、その時に前世の記憶が蘇り剣技の才を授かり冒険者として細々と活動していたが老後を考えて冒険者で貯めた元手でペットショップを始めたそうだ。



前世では若くして亡くなられた様で食事もインスタント食品の調理しかしてないので前世の料理が再現出来ない、調味料も揃ってないからね。


年齢に関する事は女性にはタブーだが、亡くなった西暦だけと言うことで2019年だと聞き出した、俺が2022年の記憶があるので3年しか変わらない時間軸が違うのか?時間の単位が違うかもしれない。


3年でブリストル女史のワガママボディには無理がある。肌のシミなど…  ゴンっ!


ブリストル女史に無言でどつかれた…心を読まれたのだろうか…これ以上の詮索は生死に関わるのでなしだ。永遠のハイティーンなのだ!  ゴンっ!


す、少し若すぎた様だ。また、無言でどつかれた…猫の身体にも容赦ない…星が見えたよ。



俺は妻子持ちの記憶があると言ったら驚かれた。老衰ではなく突然死か?朝起きたら仔猫だから。


ここはファンタジーな異世界なので地球では無いらしい、あと夢では無いので諦めて身の振り方を決めて欲しいとお願いされた。


それと、メイドだと思っていた2人はお店の店員さんで3人で力を合わせてペットを広めているそうだ。

ちなみに、この3人で冒険者のパーティを組んでいて永い付き合いらしい。


オーナーのブリストル女史は領主様に俺を売る話しをしていたが、売られるのが嫌ならば断ると言ってくれた、嘘でも嬉しい!気の良い人だ。

まぁ、無理そうなので売られるのは仕方がないとして、売られた後の飼育方法など相談する事になった。




先ず衣食住についてだ!最優先事項である。


衣は毛皮があるから心配は無い。


食だ!身体は猫だが、味覚は人のままの様で味が薄いのだ。

果物や野菜は生でも良い、問題は肉と魚だ!狩などした事も無いし獲れる気がしないのだ、未だに毛繕いでケロケロしちゃうくらい慣れない、生肉生魚など寄生虫が怖くて食べる気にならない、この世界にどんな危険な細菌がいるかわからないし常温だし。

加熱調理してもらいたい、牛肉ならまだ詮無いが豚肉鶏肉はチキンと…キチンと加熱しないと腹をこわす。って、ばあちゃんから教えてもらったからね。

魚や肉の中心温度など計れないしそもそも温度の概念が無いので時間だけでも計ろう。

砂時計なら作れるかな10分位が使いやすいだろうか。


『猫の食事レシピを渡してもらおうかな、ハンバーグは牛肉で合い挽き不可・ウインナーはシャウ○ッセン希望、無ければハーブ入りの粗挽き肉のウインナーで・ハムは生ハムで枝付きね、無い時はロースハム薄切りで・ステーキはA3ぐらいのサシの少ない赤身でお願い・それから…』

なにやらブリストル女史の肩が震えてる……

『や、やだなぁ、三毛猫ジョークじゃん……』

ゴンっ!

さっきより、星が多く見えたよ…

ペットが増えたら動物愛護団体を作って訴えてやるぞ!


食はブリストル女史にお任せに、魚や肉は加熱処理だけお願いしておいた、強火の遠火か、ボイルで。


住は領主邸なのでまぁ問題は無いだろう。


最大の問題である、話せる事と猫らしく無い行動をどうするか?

そう、転生してからは猫らしい行動が出来ないのであまり動かないようにしていた、落ち着いてる訳ではなくバレない為の処置だったのだ。


話し相手がほいしそうなので丁度良いじゃない、っと投げやりな意見が出た頃、タマさんとポチさんが起きてきた。


何処まで話して良いのやら。






オーナーと話し合うテーブルにタマさんとポチさんが恐る恐る近づいてくる。


「三毛猫って言葉を話す品種なんですか?」って言ってくる。


「まぁねぁー」と、この世界の言語で軽く返事してみる。何故かこの世界の言語を理解し話せるようだ。


「まだまだ変わった品種がいるもんですね!ビックリしました!」

って、ポチさんはケロッとしている、天然系なのかな?

落ち着いててクールビューティ系に見えていたよ、人は見かけによらないとは彼女の為の言葉かもしれない。


タマさんは「そんなはずは……」っと常識人的に驚いている。


そう、あるはず無いのだ。話す猫など。


そんな中オーナーにコソッと聞いてみた

(2人は転生について話して無いよね?)

(話して無いわよ。)

(じゃあ話しを合わせてよ。)


「2人ともテーブルに集まってくれ!緊急会議を始める!」


緊急会議と称してこちらのペースに乗せてしまい、その通りに動けばそれが真実になるだろう。知らんけど。


「また猫が話して……」

「シャーーラップ!良いですかな、お嬢様方は最重要機密に触れてしまったのです。もう後戻りは出来ません!これから話す事!もちろん三毛猫の私の事!他言無用!許可無く話したら……」


「「許可無く話したら…」」



「……マタタビ大王様の逆鱗に触れる事になり昼夜問わず猫種から襲撃で揉みくちゃにされるだろう! よろしいかな?」少し興奮しすぎたのか、気がつけば後脚で立ち前脚で身振り手振りで話していた。



「「…揉みくちゃなら…」」光悦した表情のふたり…

「……。」



コソッとオーナーが、

(今のは脅しなの?それとも、新喜○的な?)

(ちょっと、脅し過ぎたか?)フンッフフッン

(……。どちらかと言えば、)

(どちらかと言えば?)

(彼女たちには、…ご褒美かしらね!)

(…変態か!)

ーーー


まったく話しが進まず、天然系で変態揃いだが裏表の無い人の良いブリストル女史と仲間達。2日後には仔猫を領主邸に何事もなく納品できるのか?

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