第36話:開拓村
ある日のこと
「勝負だ『
「また今度なぁー」
その次の日
「勝負だ『
「依頼優先するから無理」
そしてまた次の日
「勝負だ『
「今日はリップちゃんとお買い物だから無理。ねー!」
「ねー!」
「そんな子供は放っておいてこの僕と……な、なんだお前は……! やめろ手をはな――何故血涙を!?」
「……テンシ、タノシミウバウヤツ、コロス」
「何かヤバそうなのが来たぞ!?」
そしてあくる日。
「きょ、今日こそ受けてもらうぞ『
「お前本当に飽きないな」
いつにもましてボロボロになっているヴィーヴルヴァイゼンに、流石の俺も同情が勝る。
心なしか、きれいに整えられていたはずの銀髪がぼさぼさになり、マリーンと同じ真っ白なローブもところどころ汚れが目立つようになっていた。
あ、裾の方破けてんじゃん。
「ぼ、僕はお前との勝負に勝つまで、諦めるつもりはない……!」
「でも勝手に依頼についてきては魔物討伐の勝負してるじゃん。全部俺が勝ってるけど」
「フグゥィッ……!? そ、それは魔物討伐の勝負だ! この僕が言ってるのは一対一の決闘だ……! そ、それに討伐で負けているのは貴様が卑怯な手を使っているからだろう!?」
「魔力ソナーを卑怯って……マリーンに教えてもらった方法だぞ?」
「なんだそれは羨ましい……!! 許すしかないじゃないか……!?」
「情緒不安定かよお前……」
実際は『探知』の方なのだが、そう言ってやるとヴィーヴルヴァイゼンは拳で地面を殴りつけていた。
毎回のように俺に勝負を挑んでくるのだが、あの村での一件以来、俺が村への遠征依頼を受ける度に付いてくるようにもなっていた。
そしてその度に依頼にある魔物をどちらが先に片付けるか勝負を挑んでくる。
もちろん依頼は俺がソロで受注しているため、万が一にもこいつが倒したところで報酬を受け取るのは俺だ。
いや、野営があるときは夜番の分くらいは出してやってるけれども。
そして彼の行動についてだが、反省はしているのか最初程の邪魔はしないようにはなっている。
だがついてくるのはやめないため、その件についてはエリーゼさんを通じてギルドに報告はしているのだが、実害がない以上各自冒険者の判断に任せるとのことだった。
「それで? 今日も俺は依頼で外の村にいくんだが……なんなのお前、今日もついてくる気か? 友達いないの?」
「っ……そ、そんなわけないだろう……」
「……なんかごめんね?」
「黙れ喋るな憐れむな……!! き、貴様は知らんだろうが、この僕には付き従う配下がいるんだよ! 百人もな!!」
「そうか……で、どこにいるの?」
「……べ、別の街に……」
「だめじゃん」
予想通り過ぎる反応に言葉を返せば、気まずそうにそっぽを向いたヴィーヴルヴァイゼン。
なんでそうすぐばれる嘘を吐くのかとも思うが、これこそ彼のもう一つの通り名の由来なのだろう。
『口だけ』ヴィー
それがこいつのもう一つの通り名だ。
ここ最近、不本意ながら一緒にいたことで、彼に関連した話を聞くようになったのだ。
その通り名についての話はその中の一つ。
俺の『
「……で? 俺もう行きたいんだけど……今日もついてくるのか?」
「っ、もちろん行くぞ! 貴様との決闘でないことは残念だが勝負は勝負! 今日こそ勝たせてもらうぞ!!」
「……そーかい」
準備するから待ってろ! と踵を返して駆けていくヴィーヴルヴァイゼンの後ろ姿を見送りながら、俺は一人ため息を吐いた。
「鬱陶しいのは確かなんだが、嫌いにはなれないんだよなぁ……」
俺ほどではないが、ヴィーヴルヴァイゼンもギルドの中では嫌われているまではいかなくとも、それほど良い目で見られているわけではない。
その理由として、普段から偉そうで身勝手な上に、できないことを然もできるかのように発言することが挙げられる。
魔法使いが希少でかつ物珍しい彼の魔法に興味を持って声をかけたパーティは、彼の大言壮語によって少々危ない目にあったり、別のパーティでは彼の独断専行によって軽くではあるが被害を被ったという話もある。距離を置かれる理由としては十分だろう。
希少な魔法使いとはいえ、限度と言うものがある。
幸いどれもこれもそこまで大きな問題になってはいないのだが、ギルド内部でも彼の素行については問題視されている部分があるのだとか。
それでもソロの魔法使いであのボッチにはキツイ昇格試験をクリアし、星3つとなっているのだからそれなりに実力はあることは確か。
「(おまけに、この間の道中の野営であれを見たらなぁ……)」
ここ最近依頼についてくるようになったためその道中の野営や夜番を手伝わせていたのだが、その際に見た光景を思い浮かべた。
決して悪い奴ではない、というのは今日まででもよくわかってはいる。
もっとも、これは俺が命にかかわるような被害を受けていないから、と言うだけかもしれないが。
「ふっふっふ、待たせたな! この僕が今日も貴様のためについて行ってやろう! 強力な魔法使いがついてやるんだ、感謝するといいさ!」
「……はぁぁぁ」
「な、何故そこでがっかりするんだ貴様は!?」
「自分で考えろそれくらい」
悪い奴、ではないんだけどなぁ……
俺は後ろで文句を垂れているヴィーヴルヴァイゼンを無視して西門へと向かう。
……あ、でも空間魔法使えないのは被害だわ。
俺は踵を返すとその銀髪頭にチョップを叩き込むのだった。
◇
「それで? 依頼の場所はどこなんだ?」
頭にたんこぶを作ったヴィーヴルヴァイゼンが、隣を歩きながら聞いてくる。
当然のことだが、依頼内容は俺しか把握していない。
そのためどこに何をしに行くのかを全く知らないヴィーヴルヴァイゼンは、いつも道中に依頼内容を尋ねて来る。
お前それも知らずに準備するとか言ってたのかよ、とは言ってはいけない。
過去にも同じことを言ってるけど無駄だったのだから。
「ボーリスから北上した先にある開拓村だよ。ここ最近魔物の……特にゴブリンの被害が増えてるから、周辺の魔物を討伐してほしいんだそうだ」
「開拓村か。だが、そう言う場所には国や領主から兵士が派遣されているだろう?」
その言葉にまぁなと頷く。
実際の話、開拓村は国の領土を広げるためにも重要な立場にあるため、魔物によって村がダメにならないように国や領主から兵士が派遣されるのだ。
普段はその兵士たちが魔物の討伐や警備などを担当することになる。
「だがこうして依頼が来るってことは、手が足りていないんだろうよ。ゴブリン程度じゃ冒険者を雇った方が速いって判断だと思うが、エリーゼさん曰く、依頼が出されたのは一週間以上も前らしい。できるだけ急ぐ」
「わ、わかった。ボーリスからどのくらいで村に着くんだ?」
「歩けば急いでも二日はかかる。が、既にギルドで近くまで向かう荷車を確保してくれているらしい。途中までは護衛も兼ねて乗せてもらうことになっている。明日の昼には着くはずだ」
なお、俺一人の場合はもっと早い。
荷車を降りた後連続で短距離の『転移』を使用するからだ。
その後、近くまで送ってくれるという商人と落ち合った俺たちはそのままプロプトホーフの荷車に揺られて進む。
途中で野営をし、そして次の日の午前には荷車を降りると昼過ぎには目的地のである開拓村に到着した。
んだが……
「『
開拓村と言うだけあってか、簡易なものではあるが丈夫そうな木の柵で囲まれた村。
そんな村の入り口に立つヴィーヴルヴァイゼンがこちらを振り向いた。
「俺も開拓村は初めてだしなぁ……依頼で行く村はもうちょっと人の声とかあるはずなんだが」
とりあえず村長さんのところに行くか、と村へと入ろうとするとそんな俺のことを押しのけてヴィーヴルヴァイゼンが駆け出した。
「ふははは! 先に村長殿へあいさつするのはこの僕だ! 貴様ではなく、この僕こそがリーダーであると村長殿の魂に刻み付けてやろう!」
「刻み付けてどうすんだよそんなこと……」
まぁいいや、と元気よく走る背中を見送りながら周囲を見回した。
一見何の変哲もない普通の村だ。
柵があるため、依頼で訪れたことのある村よりは防衛力が高そう、と思う程度だろう。
だがしかし、人の姿が全くないのは気がかりだ。
見える範囲には、中央の一回り大きい家に向かうヴィーヴルヴァイゼンくらいしか人がいない。
こんな真昼間から、全員屋内に閉じこもっているのか? と俺は確認のために『探知』で村の中を探った。
だから気付けた。
「っ……!? おい、止まれ!! 美術館!!」
「ヴィーヴルヴァイゼンだ! ふははは! 何だ『
「この村全部が罠だ! すぐに引け!!」
そう俺が叫んだ瞬間、今まで閉ざされていたすべての家の扉が勢いよく開いた。
「……はへ?」
まるで待ち構えていた獲物が罠にかかったことを喜ぶように、手に斧を持ったそいつらは嬉しそうな鳴き声を上げる。
『Gyagyagya!!』
それはもちろん、ヴィーヴルヴァイゼンが今しがた到着した村長宅も例外ではない。
開かれた扉から現れたそいつを……ゴブリンを目にしたヴィーヴルヴァイゼンの呆けた声が耳に届いた気がした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
作者の岳鳥翁です。
サポート限定ではありますが、白亜の剣の設定資料をできる限りおいておきます。
あ、トーリ君のは限定から一般公開に変更していますの良ければどうぞ。
第2章終わりには、限定記事にしている分も含めて登場主要キャラのキャラシートを乗せたいですね。
https://kakuyomu.jp/users/nishura726/news
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