第28話:謎の魔法使い
「おお……あのマッチョのじいさんすげぇ……」
つい先ほど、じいさんが森の方から飛んできた光線を弾いて軌道をずらしてたのを確認した俺は感嘆の声をあげていた。
一応と言うか、あの光線が発射された瞬間に着弾予測ポイントの城壁は『分隔』で守っていたんだが……じいさん一人で何とかしてしまった。
あの魔力、とんでもない威力だったと思うんだが、それを『纏い』の強化があるとはいえ身一つでねぇ……
「流石はギルドマスターってところか。いやはや、元とは言え星6つは伊達じゃないな」
きっとアイシャさんとかも同じことができるのだろう。
とはいえ、流石にもう限界なはずだ。
見たところ、ギルドマスターは満身創痍。先ほどの攻撃を防いだからか、体もボロボロに見える。
それでも大剣を杖代わりにして立っているのは流石だな。
「さて、そろそろ動くか。下の人たちも限界だろうし」
討伐されているとはいえ、
これまでは問題なく、順調に事態の収拾できそうだったが、地竜が出てきたとなれば話は別。
先程のブレスの攻撃に怯えてか、冒険者たちの動きが鈍くなっている。
まぁ、あんなのがまた飛んで来たら間違いなく死ぬから当然だが。
チラと森へと目をやれば、自身のブレスを防がれたことに気が付いたのだろう。
咆哮と共に地竜が前進を始めて、森からその姿を現した。
森からボーリスまではそれなりに距離があるのだが、あの速度であれば数分もあればここにたどり着く。
「にしても、地竜とはなぁ……縁があるのかね」
転生した初日。
翼がないからと、ただのでかいトカゲと勘違いしていた魔物だが、ふたを開けてみれば星6つが束になってやっとの相手だということを知った。
おまけに助けたのは国でもトップレベルの冒険者。
いきなりの望んだシチュエーションだったが、倒す相手も助ける相手も俺の予想以上の奴らだった。
そんな状況に思わず初手からやりすぎてしまったのではないかと、あの日、あの時は大いに焦った。
だからこそ、俺は『白亜の剣』相手にもビクビクして過ごしていたわけだ。
だが、やり直しなんてできない以上、あの日のことは諦めるしかない。
それにこれは俺の憧れなのだ。その程度でやめよう、などと思うのであれば中学生で諦めていただろう。
なら逆だ。
一度そんなでかいことをやったのだ。
後で何をしようと、どんなどでかいことをやったとしても、慣れたと思って楽しめばいい。
「よし……いこうか」
さぁ、覚悟しろよ俺。
今日が真に、謎の魔法使いとしてのデビュー戦だ!
大きく深呼吸をして気合を入れなおし、パチンと一度、指を鳴らす。
それだけで今迄東門上空に『固定』していた俺の体は、重力に従って下へと落ちていく。
どんどん加速する視界の中で、俺は『探知』で眼下に広がる魔物の、その首の位置を把握した。
「目立ってなんぼ。いっちょド派手にブチかましてやらぁ!」
空間魔法って炎とかでないから地味なんだけどね!
パチン、ともう一度指を鳴らせば『断裂』によって魔物たちの首が落ちる。
いくらかは多少動かれたことで座標がずれてしまったが、それでも深手は負わせられた。
まだ動けそうな魔物に関してもきっちりと追加の『断裂』でとどめを刺していく。
「な、なんだ……何が起こった!?」
「それより地竜だ! 地竜がこっちに向かって来てやがる……!!」
「早くここから逃げるぞ! 竜種なんて相手にできるか! 俺はまだ死にたくねぇ!」
「どこに逃げるってんだよ!!」
「うーん、余計にパニック!」
突然魔物たちの首が落ちたことに加えて、森の方からものすごい速度で地竜がやってきているこの状況。
当然、何もわからない者たちからすれば困惑するしかないだろう。
実際、眼下の冒険者たちの状況は芳しいとは言えないものだった。
「てめぇらおちつ――ゴフッ!?」
「!? ボールス殿!! クソッ、ポーションが足りていないのか!? お前たち落ち着け!!」
その状況を何とかしようとギルドマスターが何か言いかけるが、その前に血を吐いてダウン。そしてそんなギルドマスターに肩を貸す騎士風の男が代わりに声をあげるが、その命令が聞こえたのは周囲の僅かな者たちだけだった。
まぁ、現在進行形で地竜という最悪最強の魔物が向かってきているんだ。一種の恐慌状態になっていても仕方ないだろう。
そんな冒険者の一人の傍に落下途中で『転移』を使って着地した俺は、ポン、とその肩に手を置いてやる。
「いやはや、大変な状況ですなぁ」
「っ!? だ、誰だ……!?」
「おっと、そんなに警戒すんなよ。これでも味方だぜ? ほら、証拠にピースしてやろう」
軽く、フレンドリーに、ふざけるように。
こんな状況下においてなんでもなさそうな口調で語りかけながら、俺はその冒険者の前の前に回ってピースを突きつける。
チラと胸元を見てみれば、銅の金属板。星4つの冒険者らしい。
「どーもどーも、こちら謎の魔法使い。いやはやすごいねぇこの魔物の数。
ケラケラと、愉快に笑う仮面の男。
そんなのが突然隣に現れれば当然ながら困惑するだろう。
「しかも地竜まで出てきたとなればさぁ大変! このままだと街がヤバい! いったいどうする冒険者諸君!?」
大袈裟に、わざとらしく。
両手を広げる形で目の前の冒険者へと問いかける。
案の定、その冒険者は「え、あ……」と口にするだけで状況が理解できていないらしい。
だがやはりそれでも星4つの冒険者だ。わからないながらも手にしていた剣をこちらへと向け、「ナ、ナニモンだてめぇ!!」と怒鳴った。
その声に、周りの冒険者や兵士たちまでもが俺を見る。
全員が俺を見ている。
あれは誰なんだと、何者なんだと、疑惑の目を向けている。
「(ああ……今の俺、すっごく目立ってる……!)」
きっと仮面がなければこんな状況でもにやけ面を晒していたことだろう。
内心の興奮を何とか抑え付けながら、俺はその剣先にチョンと触れた。
「まぁまぁ、そう怒りなさんな。それに、味方同士で争ってる暇じゃないでしょ?」
「はぁっ!? 誰がお前をみか――っ!? 俺の剣はどこだ!?」
「どこって……鞘の中にあるじゃないか」
「そんなはず――なん……だと……!?」
腰の鞘に収まった剣を見て驚愕を顕わにする冒険者。
その表情にうんうん、と十分に満足した。
「どうした! 何があった!!」
騎士風の男が声をあげる。
冒険者の男が俺のことを伝えようとしたその瞬間、俺は『転移』でその場を離れて騎士風の男の背後へと移動した。
「どうも、魔法使いです」
「っ!? ど、どこから現れた……!?」
「どこって……あなたの背後から?」
やあやあと手を振って答えれば、騎士風の男はギルドマスターを支えるのとは逆の手で剣を抜き、その切っ先を俺へと突きつけてきた。
抜刀から突き付けるまでが速いこと速いこと。
思わずわぁお、と声が零れた。
「怪しい奴め……! この
「待てっ……!」
騎士風の男が言い切る前に、肩で息をするギルドマスターがその剣に手をかけて待ったをかけた。
「ボールス殿!」
「すまねぇガウェン殿。だが……黒のローブの魔法使い。まさか、お前か……?」
俺を見て独り言を呟くギルドマスター。
そして彼は、仮面をつけた俺の目をまっすぐに見る。
「一つ、聞きてぇ。前に『白亜の剣』の奴らが見た、地竜を倒した魔法使いってのは……あんたか?」
「ほーん、聞いてたのかその話。まぁ、二か月ちょっと前の話ならそうだな。俺だ」
「……やっぱり、あんたなのか」
「ボールス殿。まさかこの者が……?」
騎士風の男の言葉に、ギルドマスターは「ああ」と頷いた。
「なんかの魔法が使われたと思ったら、いっきに魔物が死にやがったんだ。普通ならありえねぇが……『白亜の剣』のいう魔法使いがやったてんなら、納得もできる……コフッ」
「ボールス殿。あまり無理は……」
「大丈夫だ。なぁ、魔法使い。あんたが何者かは知らねぇが、一つ聞きたい」
「……答えられるものならどうぞ」
正体とかそう言う話であればノーコメントだが、それ以外の話であればある程度は話す……いや、敢えて何も答えないというのも謎を加速させるエッセンスになるのではなかろうか……!?
さてさてどうしたものかと考えていると、思っていた以上に真剣なまなざしを向けて来るギルドマスター。
思わず、背筋が伸びた。
「今は、味方でいいんだな?」
「……今は、ね。もちろん、そうでなきゃここに出てこないさ」
まあそのくらいのことなら応えてもいいだろうと、仮面をつけたまま、ギルドマスターの目を見て答える。
やがてギルドマスターは「わかった」と息を吐いた。
「ガウェン騎士隊長! もう、地竜がすぐそこまで……!!」
駆け寄ってきた兵士の言葉に、ギルドマスターとガウェンと呼ばれた騎士風……騎士の男が視線を向けた。
つられて俺も見れば、ものすごい迫力で迫りくる地竜の姿。
暴走機関車でもここまでの迫力は出ないだろうに。
地竜をみた多くの冒険者、および兵士が怯えた表情背を向けて逃げ始める。
「……頼んでも、いいのか」
「安心しなって。見返りとか、特に求めてないからさ」
んじゃいくわ、と手をフラフラさせながら踵を返す。
「いったい何が目的なんだ、魔法使い……!」
そんな俺の背後に向けて、騎士が質問を投げかけて来るがそれに対して「別に何も」とだけ答えた。
そして俺は地竜の巨体が迫りくる、その正面へと立った。
「(ただ目立ちたい、とかいえるわけないんだが……まぁ、ようやくおいしい酒が飲めるんだ。いっちょ派手に倒して見せようじゃないの!)」
俺は手のひらを地竜へと向けた。
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