第4話:地竜遭遇 裏
「うっわぁ……なーんじゃありゃ……」
草木の陰からそっと顔を覗かせてみれば、そこにいたのは小さいビルくらいはあるのではないかと思うほどの巨大な魔物。
トカゲのようにも見えるが、あんな巨大なトカゲ前世の地球にいたらたまったものではない。
「クマさんに出会った、の規模がとんでもないな」
俺の知るクマを100頭
あんなのが常日頃から跋扈してるとは流石異世界。いくつ命があっても足りる気がしない。
本当に、くじとは言え対抗できる力を貰っていてよかった。
「そんで、あのトカゲと対峙してるのが俺が初めて出会う現地人なわけだ」
目に見える範囲に四人。全員が女性ではあるものの、前世ではウィッグなどでしか見たことがない髪色だった。
倒れている赤と青と白。そしてトカゲの前に立って折れた剣を構える金髪の女性。
よく見れば、ボロボロではあるものの鎧を纏っている。ファンタジー的に言えば騎士職か何かなのだろうか。
倒れてはいるが、青い髪の女性も杖とローブの如何にも魔法使い然とした姿だ。
「うーん、流石異世界。コスプレでしか見れない光景だぁ」
……
…………
さて、そろそろ真面目にやろう。
無理やりにテンションをあげて誤魔化しては見たものの、まだ若干の震えが残る脚を拳で二度三度と軽く殴りつける。
どう考えても女性たちのピンチのこの状況で、見捨てるなんて選択肢はなしだ。
「大丈夫。俺には無理でも、俺ならできる」
意識を切り替える。
「さあ、憧れに向けた第一歩だ」
パンパン、と2回。自分の頬を軽く叩く。
それだけでいつも通りだ。既に不安も怯えもない。震えだって今の俺なら止められる。
だって俺は最強なのだから。
「……よし」
背負い袋にしまっていた黒いローブを取り出して身に纏う。
本当なら顔を隠す仮面が欲しいところなのだが、少し前に転生したばかりで用意ができていない。
顔バレはもっとも避けるべき事故であるため、絶対に顔を見られないようにフードをめいいっぱい深くまで被った。
今度仮面を買うか、作ることにしよう。
準備はできた、と背負い袋を『拡張』で広げたローブのポケットにしまい込む。
「ドラゴンでもない、ただのでかいトカゲモドキが相手だ。ここで躓いてちゃ話にならねぇよ」
そしてあわよくば、あの金髪の騎士が俺の活躍を吹聴してくれることを願う。
「うまい酒を飲ませてくれよ! 『転移』!」
◇
「(トカゲでもはか○こうせんみたいなのが出せるのか……異世界こっわ)」
ドスゥン! とすぐ傍に落ちてきたでかいトカゲの頭を見た俺は内心で思わず身震いして息を吐く。
空間ごと対象を引き裂いてしまう『断裂』が強いことはもちろんそうなのだが、とっさに『分隔』でトカゲの口を覆って口内爆発させていなければ女性騎士やその後ろの仲間達がヤバかっただろう。
せっかくの俺の噂を吹聴してくれる宣伝担当なんだ。そう簡単にお亡くなりされては困るのである。
「(しっかしでかいトカゲでこれじゃあ、ドラゴンなんてどうなるんだ? 飛行するうえにこれ以上の攻撃だろ? やっば、この世界の人たちよく無事だな)」
このでかいトカゲも、その大きさに見合う程度には強力な魔物なのだろう。
現状の俺でも難なく倒すことはできたが、ファンタジー世界における最強の存在、ドラゴンが相手だとどうなるのか見当がつかない。
「(そのためには、もっと空間魔法を上達させなきゃだ。正体不明の最強の実力者なら、ドラゴンが相手でも余裕で勝たなきゃならねぇ)」
『サルでもわかる楽しい空間魔法』に記載されてる空間魔法は他にもあるが、サルでもわかるだけあって記載されている魔法の数は少ない。
だが、まずは書かれている魔法を全て身に着けるのが最優先だろう。もしかしたら、自分でオリジナルの魔法なんてのも開発できるかもしれない。
「あの……」
「(胸が高鳴るな……新しく創るとしたらどんな魔法がいいか……本を読んでる限り、空間魔法は強力なんだが見た目が地味っぽいんだよなぁ……)」
「あの、少しよろしいかしら?」
「(でも基本四属性はカスみたいな出力だし、どうにか空間魔法のみで派手にしないとだし……ちょっとこれは難しいか?)」
「ちょっと、あなた……」
「(でもなんとか派手にしたい……! そんで「な、なんだあの魔法の威力は……!」とか、「あんな凄い魔法使いがいるなんて……!」みたいな話を聞きたい! 端っこで!)」
「少しは反応してくださらない!?」
「……ん?」
思考の海に潜っていた俺だが、こちらに向けて呼びかける声に気付いてそちらを向く。
その際、フードが目深になっていることをこっそりと確認した。
フード確認、ヨシッ。
「やっとこちらを向いてくれましたわ……」
はぁ、とため息を吐いたのは先程でかいトカゲと対峙していた金髪騎士の女性。
もともとは結っていたのだろうが、土で汚れて解けたセミロングの髪がゆらりと揺れている。
「助けていただいたこと、感謝いたします。ご存じかもしれませんが、
「いや、違う……」
少しだけ、いつもよりも低い声になるよう静かに答える。
地声だと、万が一にでも剣士モードで会話する機会が会った時に勘づかれかねない。
できるだけ表の俺と結びつかないようにするために、この場はあまりしゃべらず立ち去ることにしよう。
「違う……? ならあなたはいったい……竜種を単独で狩れるなんて……まさか勇者? いえ、そんな話はまだ聞いたことがありませんが……」
ぶつぶつと一人で考え事を始めたアイシャと名乗った女性騎士。
そんな彼女を見た俺は、とりあえず、とローブのポケットに手を突っ込んだ。
取り出したのは、背負い袋の中にしまい込んでいたポーションらしきものが入った小瓶。
見たところ後ろで倒れている彼女の仲間であろう女性陣には必要だろうと、未だ一人でぶつぶつ言っている彼女にそれを四つ全て差し出した。
「っ、もらっていいんですの?」
目を見開いた彼女の言葉に肯定の意を返せば、それを受け取った彼女は「感謝いたしますわ!」とすごい勢いで頭を下げて仲間たちの元へと走っていった。
片腕を怪我しているのだから先に自分で使えばいいと思うのだが、彼女にとっては自身よりも優先すべき大切な仲間たちなのだろう。
「(自分が有名人だと思っているちょっと痛い人かと思ったけど……なんだ、めちゃくちゃいい人じゃん)」
「マリーン! サラン! リリタン!」と仲間達であろう名を呼びながら小瓶の中身を振りかけているその様子を眺める。
使い方を見るに、あの小瓶の中身はちゃんとポーションだったらしい。毒薬とかじゃなくて本当に良かった。
そしてこれで、彼女は顔もわからない正体不明の魔法使いを認識したことだろう。
助けられた上に仲間たちの治療用のポーションまでもらったのだ。すぐに忘れる、なんてことにはならないはずだ。
「(んんん! まさか、転生して早々に俺の望んだシチュエーションが巡ってくるとは……後は彼女たちが俺という謎の魔法使いの存在を吹聴してくれればそれで完了! その噂を、隅っこで聞かせてもらおうか)」
ギルド、と彼女たちが言っていたため、恐らくここから近い街にファンタジーでお馴染みの冒険者が集まる場所があるはずだ。
あとはそのギルドとやらで彼女たちが帰ってくるのを待ち、謎の魔法使いの噂が流れるのを見届ければいい。
すぐにでもうまい酒が飲めそうだ。
「『転移』」
内心で狂喜乱舞しながら、仲間たちの名前を呼ぶアイシャと名乗った女性騎士に気付かれないよう小さな声で魔法を発動させる。
名も告げず、お礼を要求することもなく、一瞬でその場から消えたようにいなくなる魔法使い。
やだもう最高に謎って感じでかっこいいぞ俺。
転生した場所まで『転移』で戻った俺は、その後なんとか森を抜けて街までたどり着く。
ただ、街に入るために森に一番近い門から入ってしまうと魔法使いが俺だという証拠につながる危険性もある。
また街へ向かうのならばどこで人が見ているかわからない。そのため非常に面倒くさいことではあるが、駆け足でぐるっと迂回して別の門から街へと入ったのだった。
事実を知って頭を抱えることになる、少し前の出来事である。
◇
「ウッ……こ、こは……」
「リリタン!!」
「ッ!? そうだ地竜! すまねぇアイシャ! 気を失っちまってた!」
目を覚ましたリリタンは、気を失う前のことを思い出してすぐさま立ち上がると自身の得物である『龍狩り』を構えて辺りを見回した。
先ほどの尾の一撃を防いだためか、ひびが入って重心のずれてしまった槍に内心で悪態を吐く。
「リリタン、大丈夫ですわ。地竜はもう討伐されたわ」
「……は?」
一瞬パーティのリーダーであるアイシャの言葉の意味を理解できなかったリリタンは、警戒はしながらもう一度辺りを見回した。
そして見つけた。
首が落ちた地竜の姿を。
「……アイシャ、何があった」
「その話は後ですわ。ポーションで応急措置をしたとはいえ、マリーンとサランはまだ目を覚ましていません。ウィーネと合流してすぐに教会に向かいます」
「……わかった。ならマリーンはオレが背負う。道中で聞かせてくれ」
「わかっています……とはいえ、この目で見た
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はじめましての方ははじめまして。
そうでない方はお久しぶりです。
作者の岳鳥翁です。
今回は異世界ファンタジー……ハイファンタジーを書いてみました。
「面白い」「続きが楽しみ」と思っていただけましたら、是非レビューやフォロー、応援コメントをよろしくお願いします。
本日は4話一挙公開しています。
また、明日の8時過ぎにも3話分を公開予定です。
よろしくお願いします。
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