第3話 一悶着

大聖堂に入ると、空気がグッと重くなる感じがした。「あそこでは、呼吸をすることにさえ気を配るようになる。疲れる所さ。」と父が言っていた通りだ。


「うわーっ!初めて来たっすけど、広いな〜!」

「あっ、声は抑えないと…」


大聖堂は声が響く。エストの発した声は聖堂内に響き、注目を集めてしまった。


「あっ!…す、すんません!」


視線が痛い。まあ、これはエストが悪い。ちょっと脇に移動しようとエストの腕を引っ張った。


その時、海が割れるように人が避けていき、そうしてできた道の真ん中を歩いて背の高い銀髪の少女が現れた。


「おい、あの御方はもしかして…」

「レイ・フライハイト様だ!」

「フライハイトって、代々一族が騎士団に入団しているっていう、あの?」

「入団してるってだけじゃない。今年からは騎士団長に当主のライオット様が就任されてるし、長男のリンドバーグ様も次長に就いている!レイ様は生まれた時から能力スキルを既にお持ちだとかで、千年に一度の『神の子』と呼び声高い。今、宮廷で最も力を持つ一族だぞ!」


「騎士団」とは国軍と双璧をなす部隊で、国軍が国防や応戦を担当するのに対し、主に宮廷や大聖堂の警備をしている。一人ひとりの身体能力が高く、強い権力を持っている。一人でも入ればその一族には爵位が与えられ、未来永劫の繁栄を約束されるらしい。


その、レイと呼ばれた少女は腰に剣を携え、堂々たる様子で歩いてくる。そして僕らの目の前に立ち、


「…!」


いきなりその剣を振るってきた。というか、速すぎて見えな…


「危ないっす!」


振り抜かれた刀身が僕に当たる前にエストが服を掴み、僕ごと後ろに放った。


「ちょっ…力強っ…」


体勢を立て直して見上げると、


「ぐぅっ…」

「エスト!」


剣を受け止めたエストの右腕は半分ほど切られ、血が滲んでいた。


「…貴様のような木偶に止められるとは、私の剣技もまだまだだな。」


少女は一歩も引かないまま、冷たい目でエストを見下ろす。


「防御の型を心得ております…ここで使うとは思いませんでしたが。」

「なるほど…その心意気に免じて、先程の無礼は見逃してやろう。」


少女は剣を腕から引き抜き、血を拭き取って鞘に納めた。そして目を僕に向けた。


「サリオン神に感謝するんだな。ここが大聖堂でなければ…二人とも首を飛ばして殺していたところだ。」


少女は身を翻す。爵位を示す紋章がキラリと光った。


「…っっはーっ!危なかったぁ。」

「エスト、腕は!」

「大丈夫っす!傷は浅いし、治りは早い方なんで!」


歯を見せて笑うエストに感謝を述べ、いいと言うのを押し切って応急処置をする。


「手慣れてるっすね。」

「昔から怪我が多かったから…どう?動かしにくくない?」

「バッチリっす!ありがとうっす!」


周りはまだ少しざわついていた。


「なんだあの剣技…速すぎて見えないぞ。あれ能力スキル使ってなかったよな…」

「それより、あれを受け止めたあの男何者だ…?」


一息つくと、大聖堂に鐘の音が鳴り響いた。


「皆様、今日はお集まりいただきありがとう。私が、国王のカーヴァ20世である。」


現れたのは国王。そして…


「騎士団長様と国軍総統閣下だ!」

「御三方が並ぶと迫力が違う…!」


国王を挟むようにして、純白のサーコートに身を包んだ騎士団長ライオット・フライハイトと漆黒の軍服に身を包んだ国軍総統ジャック・エルギスが現れた。


「これより、『能力スキル』下賜の儀式を行う。」


運命をかけた選別が、今、始まる。

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