第2話 過去

夢を見ていた。自分がまだ小さい子どもだった時の夢だ。小さく生まれた僕は、優しい父と母に育てられた。5歳になると元国軍の父の教えで武術を学んだ。父は、


「強くなって、いい『能力スキル』を賜るんだぞ。」


と毎日のように僕に言った。母も傷だらけの僕の体を拭きながら、


「強くて偉い人になって、父さんと母さんを楽させてね。」


と毎日言った。母がその後に「父さんは『能力スキル』に恵まれなかったからね…」と続けるのもお決まりだった。


能力スキル」というのは、この国「神国サリオン」で16歳になると「絶対神サリオン」から下賜される力だ。人々は身体能力や人格などによって素質を見極められ、見合った能力スキルが与えられる。与えられた能力スキルによって、その後就く職も決まってくる。武術系や魔術系なら軍、みたいに。


父さんのスキルは武術系「隠密ハイド」。スパイや暗殺を簡単に行える能力スキルだ。もっとも、その能力スキルの特性上役に立つことはあっても出世は厳しかったらしい。

母さんのスキルは魔術系「稲妻ライトニング」。強力だが、強すぎるあまりコントロールが難しかったようだ。


10年にも及ぶ長い鍛錬を積み、背が伸びて少し体つきも良くなったが、父さんは満足いってなかったようだ。能力スキル下賜の日まで心配しっぱなしだった。


「頑張れよ!お前なら絶対にいい能力スキルが貰えるぞ!」

「カイト!結果楽しみにしてるわね!」


両親の期待を一心に背負い、誇らしい気持ちで僕は中央にある大聖堂に向かった。




大聖堂に着くと、それはもうたくさんの人がいた。この全員が能力スキルを賜りに来てるんだと思うと気分が高ぶった。空高くそびえる大聖堂を見上げていると後ろから何かがぶつかってきた。


「うおっ!すいません!」

「いや、こちらもボーッとしていたので…」


振り返ると随分体の大きい少年が立っていた。しかし、大柄な体の割に所作が丁寧で、ただ者ではない感じがする。


「僕はカイト。君は?」

「あ、俺はエストって言います。16っす。」

「僕も16だ。君も能力スキルを?」

「そうっす!軍人の息子として、ぜひとも良い能力スキルを賜ってこいと父に送り出されてここへ来ました!」


なるほど、道理でしっかりしていると思った。


「僕も同じだよ。今日はお互い良い日になるといいね。」

「そうっすね!…あ!そろそろ集まるみたいっすよ!」


気がつくと大聖堂の門が開き、少年少女がぞろぞろと入っていっていた。


「(いよいよか…)」


期待に胸を膨らませ、僕は一歩を踏み出した。



―この先に待つ、悲劇も知らずに。

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