第16話 東西ガルリア帝国
「ロゼリアナ王国は討伐に失敗したのか。勇者はどうしたのだ。」
「それは、全く分かりません。」
「それで魔王はなにか要求しておるのか?」
「投降せよと。」
「わしは罪人として処刑されるのであろうな。魔王の力を見誤ったわ。一戦交えて皇宮を枕に討ち果てようか。」
「それでは何一つ残りますまい。恭順を示しペルーリ様の皇位継承を願うのがよろしいのではないかと。」
「そんな弱腰では話にならない!」
ランドルと宰相が話しているのを遮り武官と思われる思われる男が割り込み抗戦を主張してきた。
突然現れて抗戦を訴える武官に向かって、
「いや、そんな戦力どこにあるのだ?塔の上から見てみなされ。軍隊の駐屯地と分断されているだろう。どうやって戦うのだ?近衛しかおらぬぞ。」
と宰相は訴えかける。
「む…それは…」
「それに、僅かな王都守備の軍が気づき駐屯地の軍を呼びに行ったようだが一蹴されたようじゃぞ。貴様、軍を預かる身でありながらその事を知らぬのか?」
「知っておる。知っておるが、何もせず軍門に下るのは帝国兵としての矜持に関わる。」
「何もさせてもらえんだろう。軍が近寄らせて貰えないのだ。」
「あのような大軍勢、兵糧はどうするのだ?籠城すれば良いでは無いか?」
「籠城するか?されどこちらの兵糧もたいしてないぞ。食糧庫はあの囲みの外側ですからな。」
食糧が必要なのは櫂渡とフェリルだけだし食糧などは収納に大量に入っている。だから、籠城してもいっこうに意味の無いことではあるのだが皇宮内ではそんな事は知る由も無い。
それでも、宰相の判断に軍配があがったようでランドルが決断を下した。
「投降しよう。」
投降してきたランドルを見て、櫂渡はヤーレイの父親の死に関わりのある皇帝なんだよなと思ってみていた。
「鑑定のできる者はおるか?」
フェリルが尋ねる。
「これに連れて参ります。」
と宰相が言うと、独りの鑑定スキル持ちが連れてこられた。おもむろにフェリルが一本の剣をだす。
あれ、いつの間にと櫂渡が思っているとフェリルがこの剣を鑑定せよと言う。
鑑定師が鑑定を行い目を見開いて驚く。
「こ、こ、この剣はガルリア皇帝の証でございます。」
「なんと、一体どういう事だ?」
「ほれ、そのほう、持ってみるが良い。」
とフェリルがランドルに渡すが、何もおこるはずもなく、再びフェリルが受け取ると櫂渡にまた投げて寄越す。
「だから、乱暴にしないの。って、またこのパターンじゃないか…」
フェリルに収納の封印庫アクセスできるようにしたままだったなと思い出した櫂渡。
今度も剣は真っ赤に輝くのであった。それを見た、ランドル以下ガルリア帝国のみなみなが、櫂渡に恭順の姿勢をとるのであった。
何はともあれ、西ガルリア帝国を屈服させた為、東ガルリア帝国も屈服させて戦争を終わらせる事にした。
手順は西ガルリア帝国と全く同じだった。
皇帝の証が真っ赤に輝くのを見て東ガルリア帝国の皇帝ルンダイも西ガルリア帝国皇帝のランドルと同様に平伏し恭順の姿勢を示したのであった。
魔王討伐として立ったのはロマンダル教を旗頭にロゼリアナ王国。
西ガルリア帝国、東ガルリア帝国はその機会を捉え版図を広げようとした。両帝国はロマダル教は信仰していない。皇帝こそが世界を治める絶対の者という考えに立っている。
討伐しようとした男がガルリア帝国悲願のガルリア皇帝の証の剣を赤く輝かせる男であったことでどちらも櫂渡にすっかり服従してしまった。
しかも、皇帝として崇める人が現れたのである。一切の戦意を失った。
一旦、魔王戦役と言うべき物かどうかはさておき、戦争は終結した。
そのあとは、戦後の話し合いである。
話し合いの場所はロゼリアナ王国。今回はロマンダリ教も糾弾される側ではあるが、ロマンダル教は通常、各国に公平に接する立場の為、ロマンダル教の本部内部に国際会議を開催する場所が設けてある。
各国を迎える為の宿屋などの設備の面でも普段から会議が行われているロマンダリノープルが充実している。
他の場所は大勢の王族が泊まれる施設が整っていないし、受入に不慣れである。
これらの事情のため、通例通り場所は変わらずロマンダル教の本部の大会議室を使う事になった。
櫂渡は宿泊の定宿が無いため、ファラント王国の定宿に部屋をとってもらった。
会議のたびに転移してきても良かったが、各国と会談を持つこともあるからと思いロマンダリノープルに宿泊する事にした。
今回メインで裁判されるのは、櫂渡を魔王として討伐しようとしたサンホゼーロ、メルザン、ゴウヨの三名、直接軍を送ったロゼリアナ王国のフォベルト、魔王討伐の機に乗じて他国へ攻め込もうとした西ガルリア帝国のランドルと、東ガルリア帝国の皇帝ルンダイである。
西ガルリア帝国のランドルと、東ガルリア帝国の皇帝ルンダイは櫂渡に恭順の意を示し、行ったことの事実を認めている。
二人とも国ごと差し出す勢いで自らの立場の保証や身の安全は何も求めず、投降するときに願うつもりであった子への継承も求めることもしなかった。
彼らからすると、櫂渡こそが国の国どころか世界の主であるから、自分の子にと願うことは愚かな事であった。
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