第10話 フェリルと聖女

 櫂渡と遥香、英雄、小夜、ソフィアがなごやかにわいわいやっているところへヨーセルとフェリルがやってきて、フェリルが


「カイトーわらわにもおにぎりあるか?」


「ああ、あるぞ。お疲れ様だったな。」


「あのぐらい、わらわにかかればなんでも無い事だ。」


「さすがフェリルだな。」


 と櫂渡がおだてると誇らしげに慎ましやかな胸をはっていた。


 ソフィアはそんなフェリルをじっと驚愕の目で見ていた。


 ソフィアはそーっとフェリルに近づき、耳元でフェリルにだけ聞こえる様に、


「フェリル様はお使い様だった、ステアビスウルフじゃ無いですか?」


 フェリルは驚愕した顔をし、聖女をみんなの輪から離れた場所へ連れて行く。そして、小声で会話を続け、


「聖女の目はごまかせんか。みんなには黙っていてくれ。」


「もちろん承知しています。フェリル様はしかもお使い様では無くて神そのものの気配がするのですが、気のせいでしょうか?」


「それも黙っておいてくれるかの。聖女にはごまかしたとて、ばればれだろうから伝えておくがの。」


「承知いたしております。それにしても、そのお姿はどうなっているのですか?かわいい生まれたてのステアビスウルフだったのに。」


「カイトが人化の魔法を使える様になったからな人の姿にしてもらった。ステアビスウルフの名残で獣人だが。ステアビスウルフの姿ではお使い様だと気づく奴がでてくるからの。」


「カイトさんの眷属ですよね。神様を眷属にする者って人なんですか?」


「魔王なんじゃないか?」


 と笑いながら答えるフェリル


「そうでしたね。魔王でしたね。ステアビスウルフの神様もすごく可愛くて、たくさんモフモフさせていただきましたが、今のそのお姿もかわいいですね。」


「もうモフモフはさせてやらんぞ」


「しませんよ。モフモフ。もしかしてさせてくれるんですか?ふりですか?それにしてもカイトさんはとんでもないですね。魔王でも善なる者であればよこしま教皇サンホゼーロや王よりだいぶいいですね。」


「そなたは、歴代の聖女と比べても優秀だの。我々の神託を正しく拾う。教皇なんぞは何も我々の声を聞けない。」


「光栄でございます。」


「そういえば、神託を拾えるって事はカイトの言うことも拾えるかもしれぬなぁ。」


「どういう事でございますか?」


「カイトはガルディッシュイーグルに神託を与えられるんだ。あれは本当は神しか与えられないハズなんだがなぁ。」


「え、、神託送れるって事はもはや神?!」


「ちょっと試してみるかの?」


 そういってフェリルは櫂渡にだけ伝わるように話す。


『カイト、神託を聖女さんにしてみてくれるか?』


 櫂渡はフェリルの方を振り返り首を傾げたが、とりあえず、


『ソフィアさん?聞こえますか?』


 とソフィアに向かって送ってみると、ソフィアが両手で大きく丸を作った。


「すごいですね。伝わってきました。」


「本当にできるとはなぁ…」


「これお祈りにすればこちらのしゃべる事がカイト様に伝わりますかね。」


「やってみたらいい。」


 おもむろにソフィアは祈りを始める。すると櫂渡の頭の中にリンゴンリンゴンと何か響くものがあり、それに内心で応答すると、


「カイト様私の言うことが聞こえますか?」


 なんとソフィアの言うことが聞こえて来た。


 今度は櫂渡がソフィアに向かって両手で大きな丸を作った。


「本来は受付の神に伝わり、そのあと必要な神に伝えられるのだが、知っている神、カイトは神ではないが、であれば直接伝えられるのかもしれぬな。わらわにも直接に祈りが伝わるかもしれぬな。」


 そんなことを小声で言い合っていたら、櫂渡が近づいて来た。


「すごいけど、これで良くない?」


 って通信の機械を渡す。


「何ですかこれ?」


もう、小声ではなく普通の声でソフィアが不思議な物を見るように聞いてくる。


「日本人の記憶があるんだよな。携帯電話のようなものだよ。」


「ええ?これが携帯電話?私は二つ折でもっと小さいの持っていましたよ。」


 とびっくりしたのか大声で言った後、スマホタイプの通信機を怪訝そうに見ている。


「ははは、シルビアと同じことを言っているな。そういえばソフィアも英雄たちと同い年だったっけ?シルビアの一つ違いかな?だいたい二十年前の日本を知っているのかな?」


「はい。二十年前なのかな?おそらくそうなりますね。」


「今度、ファラント王国のシルビアを紹介するよ。同年代だから話が合うんじゃないかな。」


「ファラント王国の第一王女様…ですね。確かかなりの変わり者と聞きましたが…」


「こっちの価値観では変わり者なのかも知れないね。とてもすてきな女性だよ。」


「カイトはそのシルビアと結婚するんだ。」


「結婚決まってるんだ…シルビア王女殿下、うまいことやったな…」


 最初の結婚の部分を大声であとは消え入りそうな声で言う。最初のは少し離れた遥香。小夜、英雄にも聞こえたようでこちらを見ていた。


「ああ、結婚する。ん?その後聞き取れなかったが?」


「いえいえ、なんでもありません。結婚なさるんですね。おめでとうございます。」


「ありがとう。また今度紹介するよ。」


 なんて話をしていたら、


「櫂渡さーん」


 と呼ぶ英雄の大声が聞こえた。






 

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