第9話 決着

 小夜は最後の力を振り絞り遥香と英雄の援護をする為に櫂渡に向けて攻撃魔法を放ち、残ったありったけの魔力を使い二人にバフをかける。


 そして、完全に魔力切れで動けなくなる。


 もともと二人にバフをかけている上に自分のメイスからだけでなく、遺跡に仕込んだ魔道具からも攻撃魔法を放つ大技をつかっていた為に魔力を相当消費していた所へ櫂渡からの腹への打撃を受け攻撃用に練っていた魔法が霧散し、腹へ魔力を込めて防御しないとならなくなり、一気に蓄えてある魔素を消費してしまった。


 それでも最後に残った魔素を自分の意識と引き換えにメイスと遺跡から櫂渡へ攻撃し遥香と英雄にバフをかけたのであった。


 そんな、小夜からの攻撃を受けながらも、櫂渡は英雄の持つ剣の違和感を確認した。


「なる程…そういう剣か…」


 そうこうしてかわしているうちに遥香の剣が襲ってくる。バフが強くかかっているためさっきまでよりもさらに早い。かわしたところへ、英雄の剣が櫂渡を襲う。


 櫂渡はそれを指でつかんで止めたハズだったが、手も切れていないのに櫂渡の体に突き刺さっている。


 この剣は障害物関係なく狙ったところまで届く剣だ。剣は長くなったりしないから、あくまでも届くのは剣の長さの範囲だ。


 今回櫂渡は指先で剣をつかんだが英雄は関係なく剣を振るえた。手のひらや腕もあるはずだが、そこに引っかかる事もなく櫂渡の体の中に到達した。


 イメージは通常は実態のない剣だが、狙ったところで実体化する剣。盾や魔法のシールドも役に立たない。


 櫂渡に剣が刺さったのを見て思わず遥香が


「櫂渡さん」


 と叫びながら涙目で近寄ってくる。


「ダメだぞ!とどめを刺すまでは油断しちゃ」


 と櫂渡は言いながら蹴りで遥香の腕と骨盤を折る。そして呆然としている英雄の左右の大腿骨を折り立ち上がれないようにした。


「なんで、その剣を受けて櫂渡さん無事なんですか?」


「ああ、剣を分析したら次元を越える剣みたいだったから受けて次元を超えて来たところをもう一度別次元に飛ばしたのさ。」


「何言ってるか全然分からない。」


「感覚的な物だからな…説明が難しい。」


「降参だ!お願いがあります。降参しますから、お願いしますからソフィアを助けて下さい!!」


「お願いします!」


「助けてください。」


 いつの間にか、完全魔素切れで意識を失っていたはずの小夜も近くに這って来ていて一緒にお願いをしている。すごい執念だ。


「ソフィアってのはあれか?」


 空に向かって指さすと遠くのそこにはオウに乗った女性がいた。


「え、あれ?ソフィア?」


 と小夜が言う。英雄と遥香はソフィアの顔を見たら自分達の骨が砕かれているのをようやく思い出したのか痛みで顔をしかめた。


「ああ、悪いな。ちちんぷいぷい痛いの痛いの飛んでけー」


 櫂渡は魔法はイメージだから、この痛いの痛いの飛んでけーでも治るんじゃないかと思っていて高校生なら笑ってくれるだろうとこのくだらない構想を今日まであたためておいた。


 結果は…治りました。


 英雄と遥香は治った事で唖然としている。


 魔力切れの小夜へは魔素を注入してやる。注入してやるとやはり少し前よりも魔素容量が増えたようだ。


 そこまでした後に、櫂渡の治療の呪文がおかしかった事に気づき大笑いをする三人。


「なにー?さっき怪我を治してくれたときの呪文は?バカすぎない?」


「魔法はイメージって言うからな、ちょっと笑ってもらおうかと思ってね。」


「ああ、笑ったよ。苦笑いだけどな!」


 と笑顔で答えるの英雄。そうこうしているうちにオウがソフィアを連れて到着し、櫂渡と向かい合う。


「はじめまして。ソフィアといいます。助けていただきありがとうございます。」


「「「ソフィア!」」」


「ダメじゃない、私のことは気にせず自由にしなさいって言ったのに。」


「だって、ほっておける訳ないでしょ」


 と小夜


「私たちを牢屋から出してくれたでしょ。そのお返しよ」


 と遥香


 ソフィアを人質にとられて戦えと言われたようだ。それを把握していた櫂渡はオウに救出に向かわせたのだった。


「ソフィアを助け出したなら、言ってくれれば…むっちゃ痛かったんだから。」


 と遥香。


「いや、だって魔王になってしまったんですね。櫂渡さんを倒さなきゃいけない。私、勇者だからってキメ顔で言われたら相手するしかなかったじゃないか?」


「わーやめて、恥ずかしい。だけど、キメ顔で魔王になってしまったんですね、て言ったのは小夜よ。」


「なんのこと?」


「とぼけるなー!そして英雄は脳筋なセリフはいてたよね。」


「ああ、確かに一番頭悪そうだったな。」


「え、ちょっとそれは、ヒドくないですか~?櫂渡さん。」


「賑やかですね~」


 とソフィア。


 そんなこんなで、言い合っている間に、ヨーセルとフェリルが周りにいて投降してきたロゼリアナ王国兵を移動陣使って収容所へ送っていた。


「みんなお腹すいたろ?」


 といって、おにぎりセットを出してやる。


「やった!おにぎり!」


 英雄は言うが早いか口に入れていた。


「うまい!米食べたかったんだよ~ずっと。具は焼きたらこ♪」


 ソフィアもおにぎりを頬張る。


「私、前世の記憶がありまして、日本人だったのでとても懐かしくて美味しいです。」


「お味噌汁も嬉しいです。」


 と小夜。


「あは、中身おにぎりは昆布の佃煮だ。」


 と遥香も嬉しそうに話し、さっきまで生きるか死ぬかの覚悟で戦っていたのが嘘のようになごやかな時間になった。

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