第3話 ロゼリアナ王国

 英雄、遥香、小夜の三人の召喚はロゼリアナ王国の王室と王国の高位貴族そしてロマンダル教の一部の枢機卿と彼らの配下の神官たちにより行われた。 


 ロマンダル教はこの世界で一番信者数の多い宗教であるとされ、その総本山はこの王国にある。


 世界といってもこの大陸の西方の地域だけをさすがロゼリアナ王国のあるあたりの人々の認識は大海や大山脈や大砂漠の向こうにも世界がある認識は無くこのエリアが世界という認識である。


 ロマンダル教はこの王国に総本山の大神殿はあるもののロゼリアナ王国からは独立しており、この国はロゼリアナ王、ロマンダル教の教皇の2人の指導者がおり、しばしば対立もしている。 


 今回の召喚には教皇と聖女には知らされておらず、召還に必要な宝具は神殿内で管理されており、今回の召喚は行えないはずであった。 


 なにより強力な力を持つ勇者の召喚には通例で多くの国に利益がある場合に限られ一国の利益の為にされることは無い。


 儀式は各国にあるロマンダル教の代表神殿に国が依頼し各国の神殿を通じて各国の意志を確認する。反対する国は必ずいるため過半数の賛成を元に時の教皇が決定する。


 前回は多くの国で魔物氾濫スタンピードが頻発しその元凶となったドラゴン討伐の為に儀式を行い勇者パーティーを召喚した。


 こうして各国から承認されて召還された勇者は尊敬もされるし優遇もされる。前回の勇者パーティーは見事にドラゴン討伐に成功した。


 勇者たちがどこかの国に肩入れすると力の均衡が崩れることからドラゴン討伐後はどこの国にも属さない独立した組織である冒険者ギルドに所属し冒険者として活動した。


 天災や魔物氾濫などがあればどの国であれ駆けつけた為彼らは大陸中から尊敬を集め、引退した後も尊敬は続いた。


 この十年ぐらいはメンバーが年齢のために1人また1人と亡くなっていったが亡くなるたびに世界中が悲しみにくれ喪に服すのであった。

 

 メンバーの最後の1人が亡くなったのはほんの数年前である。その時も世界中が喪に服した。


 今回の召喚はそもそも各国への打診すらなされていない。


 ところが王国から懐柔された枢機卿が宝具を持ち出し儀式を他国へはおろか教皇や聖女にも秘密裏に実行した。


 儀式は国王臨席のもと一部の枢機卿とその息のかかった神官達の手により行われた。


 この宝具は魔力を長年溜め込み召喚儀式を行うもので、一度行うと魔力が満ちて再度儀式が行えるまでに50年程かかるが前回の召喚の儀式から70年経過する為、魔力は十分満ちていたはずであった。


 ところが、召喚された3人を鑑定したところ、魔力容量やスキルは先代勇者たちを大きく超えていたが、魔力は容量の半分も満たされていなかった。


 そのせいもあるのか、先代勇者達には備わっていた言語理解等のスキルなどは備わっていても発動されず、召喚の場にいるものたちと話が通じなかった。


 召喚としては成功とは言えない状況でる。


 そんな状況であるが事情が分からない玉座のロゼリアナ国王フォベルト17世は側に控える宰相サミリオ・ドルンクルに尋ねる。


「召喚は成功したのであろう、ただちに我が臣下に加えるべく契約を」


 他国や教皇たちに知られず勇者の力を占有したいフォベルトはなかなか、勇者たちを王の元につれてこない枢機卿どもに少しいらだった様子でいた。


 その様子を見てドルンクルは

「はて?何か枢機卿どもがあわだたしく動いておりますな、どうなっておるか聞いてみましょう」


 と王へ答え、近くにいる従者に向かって

「おい、だれか枢機卿かその配下のものに事情説明をさせろ」

 と命じた。


 枢機卿の1人が事情説明の為やってくると、

「どうなっておる、勇者は召喚できたのであろう?早く臣下の契約をさせぬか」

 と王の苛立ちを代弁するかのようにドルンクルが問いただす。


 枢機卿は顔色を失いながらも懸命に状況の説明をする


「それが、召喚が不十分な様子でごさいます。本来ならば別の世界からこちらの世界へやってくる時に体が作り直されてこちらの人間のように魔素を扱えるようになっておるはずなのですが、全く魔素が体を巡っておりません。それゆえ、一切の魔法干渉を受け入れない為、魔術による契約や隷属の魔道具の類も効果が見込めず。逃げられたりされぬよう取り急ぎ騎士たちに囲ませております。魔素の道は体内にできている様子ゆえ、魔素が体内に満ちれば流れ始めると推察されます。」


 その説明を聞き


「そのような事過去にあったのか?」


 とドルンクルが改めて問うと枢機卿は


「過去の文献には、召喚魔道具に魔素が十分に溜まる前に召喚をしたときに魔素を満たさない勇者たちが召喚されたと記載がごさいます。」


「誰か過去に召喚を密かに実施し魔道具の魔素が溜まっていなかったということか?」


「そのようなことはございません。召喚前に魔道具への魔素が満たされていたことは確認しておりましたゆえ、間違いございません。」


「ではなぜこのような事になっておる。」


「それは不明でございますが、過去の通りでございますと、この様な状態になった時に世界の魔素が著しく薄くなったとの記載がごさいます。」


「それが、どうしたとゆうのだ?」


「今現在の世界での様子は分かりませんがこの一帯の魔素は著しく低下し通常の1/8程です。前例ですと元に戻るまで3年ほど。勇者の魔力もそのぐらいで満たされて本来の力を発揮できるようです。」


 ここまで枢機卿と話したドルンクルははたと思ってフォベルトに向かい。


「陛下、世界中の魔素が薄くなったのであれば前例を調べ疑われるのは神殿でしょう。神殿しか召喚の儀式は行えないのですから。王国に非難が及ばぬよう証拠となるおそれのある、勇者どもを処分するのがよろしいかと。責任はすべてあの教皇に押しつけてしまいましょう」


 日頃のこの国の有り様ではそんなに都合よく世界の目をロゼリアナ王国がかわせるわけは無いが、ドルンクルはそうフォベルトに進言する。


「うむ、そうであるな、3年で力が発揮できるのなら、処分してしまうのは惜しいが、急ぎそのものどもを人目のつかない地下牢へ連れて行け。そして扱いが決まるまで誰も近づけぬよう監視させろ」


 と命ずるフォベルトであった。

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