高校1年 遥編 明確な殺意


目の前の光景は、到底信じられないもので...


(は?なにして?...え?シンくん?ここはシンくんの部屋?分からない、なにも分からない...)


私がパニクっていると、"私"がこちらに気づいたようで、ため息をついた。


「あちゃー、起きたのかぁ、私。」 


彼女は、私が起きたと分かると、すぐにシンくんから離れた。


(なにしてるの?そういうことはしないって...こういうの犯罪だよ。ダメだよ。ねぇ、ねぇ!?)


混乱する頭を必死に落ち着かせ、"私"に問う。

落ち着こうと必死に耐えても、醜い感情が自分自身に向けて放たれていく。


認めたくない。私以外の人に、しかもこんな形でシンくんが汚される。こんな現実間違ってる。なんでこんな事ができる。理解ができない。シンくんの気持ちはどうなる。こんなものが私の別の人格なのか。


いろんな思いが頭に混ざる。その全てが"私"に向けてのもので、どれも真っ黒だった。だから普通、混ざった全体の色も真っ黒のはずなのに、なぜかその色は血のような色になっていた。


"私"は、私の問いかけになにも答えない。ただ、めんどくさそうに黙って聞いているだけなのだろう。その事で、さらに私の感情はドス黒い赤色に染まっていく。


(許さない、私はお前を許さない。)

多分、シンくんは気づかない。衣服の乱れも、きっと寝相が悪かったとか、幽霊のせいとか思うのだろう。でも、そんなの関係ない。バレなきゃ犯罪じゃないなんてことはない。


「...」


(....してやる。)

きっとコイツは裁かれない。私がこのまま体の主導権を握れなければ、コイツはコレから先も悪びれずコレからも同じことをやるかもしれない。だから、


(殺してやる)


私がコイツを裁く。コイツから体の制御権を奪って、私ごと死んでやる。私の体が死ねば、お前も死ぬんだ。


さっきまで無言だった"私"はその決意を鼻で笑い、見下した。


「やれるものならやってみろ、偽善者が。」



〜〜〜〜〜


私は、それからずっと意識を保つ事にした。

"私"が、シンくんの家に毎日行くのも、私のふりをして私の友達と話してるのも、全部見続けた。どんだけ大変でも、辛くても、ずっと見続けた。全ては、一瞬の隙を狙うために。

チャンスを逃さないために。


しかし、どんなに頑張っても、体を奪えなかった。状況は停滞し、私の"私"に対する殺意だけがドンドン膨らんでいった。


そして、私の殺意がMAXの9割近くまで上がっていた頃、"私"はシンくんと接触していた。その目的はやはり復縁だった。


でも、私は知ってる。シンくんは復縁なんてしないって、一度決めたことは貫くって...


だから、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせ、痛む心を抑えながら、そのやりとりを見守った。


そのやり取りの中で、シンくんが抱えていた想いが分かり、悲しくなった。


変わっていく私に対して、劣等感を抱いていて、だから周りから比べられるのが怖くて...

そういったシンくんの辛い状況をわかってあげられなかった事を後悔した。 


きっと、彼は、私といると、コレから先、悪いことばかりが頭によぎるのだと思う。私といると幸せになれない。


だから、彼が私を忘れようとしてると言った時は安心した。コレでシンくんが幸せになれるって、私なんかに縛られなくて済むって。


でも、"私"はそれを許さなかった。


今まで、優しくシンくんを説得していた彼女は、シンくんの忘れる宣言を受けた瞬間、凶変した。


「こんなこと、本当はしたくなかったんだ。君が傷つくところを見るのは嫌だから。でも、君が私から離れていくなら、もうやるしかない。本当に残念だよ。」


そう言うと、"私"は鍵を取り、教室の扉を開けて、廊下を渡り、学校の外へ出た。


~~~~~~~~~~~~~


モニターに映る映像が、私の家を写し込んだ。もうすぐ彼女がいっていた何かが起きてしまう。その事に、私は焦りを感じる。


なにをする気かは分からないが、彼が傷つく事だと言う事は、"私"が言ってたから間違いない。彼を傷つけても、やり直せるはずがないのに、意味がわからない。


...とりあえず、止めなくてはならない。


でも手段がなかった。必死に訴えても彼女が辞めるわけがない。どうやったら体の主導権を得られるかも分からない。この一ヶ月間で、得られたものなんてなかった。


(なにをする気?)


なんとか時間稼ぎをするために、質問をする。いつもなら、少し考えてから答えるから、きっと時間が増えると思った。でも、彼女はなぜかスラスラと答えた。


「お母さんにアドバイスもらったでしょ?アレを実行するのよ。そしたら、シンくんは1人になる。」


それを聞き、私は絶望した。


お母さんが言ってた事。それを実行したら、確実にシンくんは精神的に死ぬ事になる。


『...もし別れちゃった時に、もう一度やり直せる方法を教えてあげる。それは、

 

  相手を無理やり"孤立"にさせるの。


方法はどんなでもいい。周りがその子に近づかないように誘導するの。そしたら、貴方以外にその子に近づく人はいないから、必然的に結ばれる。ね?素晴らしいでしょ?』


まずい、まずいまずいまずい....

この家には、流せばシンくんが孤立するような音声がひとつある。置いてる場所も、普通に押し入れだからすぐに見つかる。


(変われ、変われ変われ変われ!)


何度も、何度も何度も何度も必死にそう念じるが、私は暗い空間から抜け出せない。映像が、だんだんとゴールに近づいていく。


止めなきゃいけないのに、止めれない。そんな自分の無力さを呪う。くやしさのあまり、視界が歪む。体がないのだから、涙は出るわけないのに、視界がぼやけている。


「あった。コレを...」


とうとう、"私"はゴールへの鍵を手に入れてしまった。もう詰みだった。


(あ、ぁ...あぁ...ぁああ....)


私と彼が別れた時の音声が、流された。

しかも、彼が私を貶しているところだけ。


私が、録音なんて残さなければ...

私が、そもそも録音をしなければ...

私が、あの時嘘をつかなければ.........

私が、シンくんと付き合わなければ.....


色々な後悔が、私の頭の半分を支配した。

もう半分は、"私"に対する怒りだった。


「コレで、コレでシンくんは私だけのもの!あはは、最高!」


(お前が、お前さえいなければ!)


嬉しそうな声をあげるその喉を今すぐに締めてやりたいと思った。パシパシと合わせてる手を今すぐ切り落としてやりたいと思った。

でも、何かが邪魔をする。"私"を殺すために、それを外してしまいたいけど、外してしまうと、人ではなくなる気がして外せなかった。


それに、それが外れたとしても、今は体がない。シンくんが今、傷ついているかもしれないのに、助けられない。その自分の無力さをひしひしと感じた。


私が苦しんでる間も、"私"はただ楽しそうに笑っていた....






~~~~~~~~~~~~~~~


深夜2時ごろ、停滞状態の私に異変が起こった。


「アレ?私、戻ってる?」


なぜか、私は体を動かす事ができた。もしかしたら、"私"が眠っているからかもしれない。でも、今まで、彼女が寝てる時も変われなかったから、それだけが理由ではないと思う。


まあ、理由なんてどうでもいい。私にはしなきゃいけない事があるのだから...


今すぐ殺してやりたいコイツが私の中にいるのは気に食わないが、まずしなければいけないことは、シンくんの安否確認だ。


彼は、人の悪意に触れたら確実に壊れてしまう。だからこそ、彼が、どういう状況かを把握しないといけない。


 この時間に、連絡は意味がない。なので、私は、ダッシュで家を出てシンくんの家に向かった。久しぶりに体を動かすからか、息切れが早い。すぐに疲れてしまう。直接見る街灯が眩しく感じる。妙に重く感じる胸が鬱陶しい。それでも、私は止まらずに走り続けた。


 「ハァ、ハァ、ハァ」


シンくんの家の近くまでついた時、私はその辺りが騒がしいのに気がついた。そして、騒がしい音のひとつに聞き覚えがあった。それを発しているものが、もし私の思った通りだとしたら、最悪の事態が起きている事になる。


心臓がバクバクとうるさくなる。私は、恐る恐る、そこに向かって近づいていったそして、私が目にしたのは....


ストレッチャーの上に乗っているシンくんだった。



ピキピキと私の中で音がする。

(大切な人が死ぬかもしれない。そんなふうになるまでアイツは私の大切な人を傷つけた。)


パキパキと私の中で音がする。

(それなのに、反省してないどころか、喜んでいた。手を叩いて喜んでいた。)


何かが崩れる音が私の中でした。




~~~~~~~~~~~~~~~


あれから、私はゆっくりゆっくりと歩いて私の家に帰ってきた。そして、私は迷いなく、キッチンに向かう。その後、私の部屋にいった。


もう、人に対して殺意をもつ事に違和感を感じなくなっていた。

もう、人に対して殺そうとする勇気を持つ事に違和感を感じなくっていた。


それでも、前はストッパーがあった。私が人間である事ができるように...

でも、それもさっき見た光景で壊れてしまった。だから....










もう、人を殺す事に抵抗をもたなくなっていた。







「死ね。」

グサリと自分のお腹にキッチンから持ってきたものを刺す。そして抜く。私の中からドバドバと血液が溢れ出てくる。


「死ね、死ね、死ね。」

何度も刺して抜いて刺して抜いてを繰り返した。不思議な事に、痛みなんて感じなかった。感じていたのは、シンくんを傷つけたやつを殺している事に対する喜びだけだ。


「死ね死ね死ね死ね死ね。」


だんだんと意識が遠のいていく。それでも、包丁を手放さずにお腹に刺し続けた。なるべく"私"が苦しむようになるべく多く刺した。


そして、ついに私の意識は完全に消えていった....




_________________________________________

Error Error

ゲームキャラクター「新崎 遥」に異常が発生。正常に戻します。

✖️✖️✖️

失敗しました。この先、「新崎 遥」は出てくる事ができません。ストーリーのエンドには支障はありません。

続きを実行しますか?


▶︎はい

 いいえ






















































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