高校1年 遥編 手伝い


私は、目の前にいる男を警戒しながら、一歩下がり、彼から発せられた言葉によって混乱している頭を整理する。


彼が、シンくんのお兄さん?

そんなことがあり得るのだろうか...


だって、シンくんが幼稚園生の時に姿を消したのだから、もし仮に本物だとしたら、10年以上姿を隠してたのに、急に出てきたということになる。しかも、弟本人のところではなく、弟の彼女の前に...


その理由はなんなのだろうか。


そう考えた時、ひとつの可能性が私の脳裏を横切った。いや、多分、可能性ではなく、確信だったと思う。


シンくんがいうには、兄は弟である彼を心の底から恨んでいるらしい。それこそ、あったら殺されるかもと思うぐらいに兄に恨まれている、そう言っていた。


そんな人が彼の前ではなく私の前に現れる理由など、ひとつしかない。それは....


「"復讐"....ですか?」


「.....は?」


勇気を出して、賭けに出た。


結果、彼は反応に遅れた。動揺しているように見えた。私は、もっと話を詰めにいった。


「シンくんは言ってました。兄さんは僕を殺したいほど恨んでるって。お母さんを、お父さんを殺したことを恨んでるって。そんな人が彼女である私の前に出てくるなんて復讐以外あり得ない...私に何をする気ですか?」


「...」


男性は下を向き、何も言わない。

この行動は、私にとっての肯定を意味する。


「それでは、さようなら。」


ヤバい人と一緒にいる理由がないので、私は目の前にいる人に別れを告げた。


「......ふふふ」


私が彼の横を通ろうとした時、不意にその男は笑い始めた。なんだと思い、そちらに視線を向ける。


「ふふふ、ハハハ、ハーッハッハッ!」


彼の笑い声がどんどん大きくなっていき、周りからの視線を集め始めた。


「やめてください!目立ってます!」


「あー、すまない!ついつい面白くて!」


 なんだか居た堪れなくなった私は、目の前にいる男性の肩を掴み、初対面とは思えないほど彼を揺らしながら笑うのを止めた。彼は、謝ってきはしたけど、反省はしてなさそうに思えた。


「あー、笑った笑った!こんなに笑ったのは久しぶりだなぁ!」


「何がおかしいんですか。教えてください。」


私は、人の目線を集めてなお、変わらない彼の態度に呆れながら、疑問に思ってることを聞いた。


この時、すでに呆れやら、周りから見られてるという羞恥心やらで、警戒を解いていた。だからだろう...


「まーまー。そんなに焦らなくても。とりあえず、周りの視線も気になるだろうし...

近くのファミレス、行こっか。」


彼からの誘いを断ろうと思えなかった。



~~~~~午後3時頃~~~~~~


ファミレスにつき、男性の奢りでドリンクバーを頼み、ジュースを入れて、席についた。


ここについてから、だんだんと警戒心が戻ってきて、ここに来たのはまずいと思い初め、何をしているのだと自分の頭をポカポカと叩いた。


そんな時に、彼もジュースを入れ終わって戻ってきたので、私の奇行を見られてしまった。慌てて、手を膝に置き、何もなかったかのように繕った。


さっきの行動を触れてほしくないということを察したのか、彼はそこには触れず、私が座ってる反対側に座り、話を切り出してきた。


「それでは、改めまして。俺は、こういうものです。呼ぶ時は清一さんでいいからね。」


そういうと、彼は名刺を差し出してきた。


その名刺には"井上清一"としっかりと書いてあった。会社名はよくわからかったが、少し調べてみると、まあまあ凄いところっぽいことがわかった。


とはいえ、名刺だけでは本当かどうかはわからない。

本当にこの会社に勤めているのか。

本当に井上誠一なのか。

本当に、シンくんのお兄さんなのか....


ただ、ここで変に疑っても何も意味はない。だから、とりあえずこの名刺は本当だということにして、話を進めることにした。


「では、清一さん。さっきは何がおかしかったんですか。私は何もおかしいことは言ってなかったはずです。」


私がそういうと、清一さんは、また笑い始めた。


「あー、アレね!いやー、真剣そうに遥さんが俺をヤバい奴判定したから、初対面なのにめっちゃ嫌われてるなぁって思うとなんか面白くなっちゃってさぁ!あ、ていうか!遥さんって呼んでよかった?」


何が面白いのかは分からなかったが、ひとつわかったことがある。

それは、清一さんは、シンくんとは真反対の明るい、いわゆる陽キャって奴だ。

でないと、初対面の相手にここまでズバズバ話をできないし、いきなり名前呼びもできないはずだ。


シンくんが話したお兄さんは、どう捉えてもそんな感じではなかった。つまりこの10年くらいで変わったってことだろう。


「あのー。遥さん?もしかして嫌だった?」


清一さんが申し訳なさそうに聞いてきた。


私がどうでもいいことを考えて黙りこくってたのを見て、私が嫌がってると思ったのだろう。相手が怪しい人だったとしても、流石に少し申し訳なくなった。


「すみません。少し考え事してました。呼び方は下の方で読んでくれて大丈夫です。」


「そっか。よかった。」


とりあえず、清一さんを安心させ、新たな疑問を口にする。この時、私は無意識に彼の方へ身を乗り出していた。


「なんで私の名前を知ってたんですか?貴方と私は初対面なはずです。後、なんで私の前に姿を現したんですか?復讐ではないのならば、何が目的なんですか。後、この10年くらいの間何をしてたんですか?シンくんは貴方が彼を見たくないから出ていったと思ってます。それから...」


「ちょちょちょ!待って待って!。俺はそんな一気に処理できないから。」


「ご、ごめんなさい。」


私の質問を、清一さんに止められた。


少し、一気に聞きすぎた。でもしょうがないと思う。それだけ、彼の謎は多い。聞きたいことは山ほどあった。


私が落ち着いたのを確認してから、清一さんは口を開く。


「えーと...まず、遥さんの名前を知ってたかだっけ?それから行こうか。」


「はい。」


彼は、私の了承をしっかりと確認し、爽やかな笑顔を作ってから理由を話し始めた。


「まず、それを話す上で謝らないといけないことがある。」


「なんですか?」


「実は、弟と弟の周りについて、一カ月前からいろいろ調べさせてもらってた。」


「へ?」


急なカミングアウトについまぬけな声を上げる。でも、そんな声をあげてしまうほど驚くことをすんなりと言われた。


シンくんのことを1ヶ月前から調べてる。

インターネットで色々な情報が出るような有名人ならアレだが、シンくんは一般人だ。


だから、調べるとなると、跡をつけるということをしている可能性もある。つまり、調べ方次第ではあるが、犯罪行為をしてる可能性が大いにあるということだ。


まあそれは、別に私は気にしない。


ただ、清一さんは、シンくんの周りのことも調べたといった。

ということは、跡をつけるという調べ方だと、私が夜、シンくんの家に入ってるというのもバレてしまってる可能性があるのだ。流石にそれはまずい。


「どういう感じの調べ方ですか。それによっては警察に通報します。」


とりあえず、調べ方を聞く。私は気にしてないのだが、通報という言葉をちらつかせることで、相手の本当の事を聞き出す作戦だ。


「実はね、君たちが通ってた中学校、俺も母校でね。そこにいる、ある先生とは今でもよくしてもらってるんだよね〜

それで、その先生に『弟ってどこ行きました?』って聞いて。そこからはもう地道に聞き込みだね。その聞き込みで君の名前もゲットしたって感じかなぁ。」


「...」


とりあえず、跡をつけてたわけではないとわかり安心したが、それでも、もう、驚きのあまり、声も出なくなっていた。それだけ驚く点がある。


まず、中学にいる先生だ。私とシンくんが通ってたのは公立中学校。普通なら、教員は6年でどこかへ行くはずだ。清一さんが中学の頃からいたとすれば、その先生は十数年くらい滞在してることになる。


でも、そんな先生聞いたことがない。

つまり、彼は、先生が変わっていくたびにその先生と仲良くなっていたということになる。そんな謎の行動を10年近く続けていたのだろうか。コレだけで頭がおかしくなる。


聞き込みに関しては、メンタルとかいろいろ凄いところがある。私なら、知らない人にいちいち話しかけて、情報を聞き出すなど無理だ。


相手から不審者かもと思われるかもしれないのに、それを続ける気力を私は持っていない。でも、清一さんはそれを1ヶ月の間、やり続けたということになる。


それだけのことをして、私に接触しようとする意味がわからない。しかも、復讐ではないのだ。なおさらわからない。


悩んでいても仕方がないので、直接聞くことにした。


「そこまでして、私と接触した理由ってなんですか?何が目的なんですか?」


「それはね、君に手伝って欲しいことがあるんだ。そのために俺は君に接触した。」


もったいぶる清一さんに、少しイラつく。机をトントンしてイラついてるアピールをしながら、さっさというように促す。



「さっさと言ってください。その手伝って欲しいことってやつを。」


声を低めにし、睨んで圧をかける。でも、彼は怖気つくことはなく、彼のペースを崩さない。なんだか、話の流れをコントロールされているようで気持ちが悪くなる。


そんな流れに、よりイラつきが増し、机を指で叩く速度を上げる。すると、流石にそろそろヤバいと思ったのか、彼が口を開いた。


「単刀直入に言おう。俺が慎二と仲直りするのを手伝って欲しい。」


「はぁ!?」


私の驚きの声がファミレスの店内に響き渡った。






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退屈な話が続いていますが、お許しください。考えてる流れでは、まあまあ大切なので、ちゃんと書いておきたいのです。


男の子が2人になると、"彼"がどっちを指してるのかを表現するってことが難しくて苦戦中。読みづらかったら言ってくれたら頑張って訂正します。誤字とかも言ってくれたら嬉しいです。


とりあえずの目標星300まであと少し!

がんばります!


追記

最初、タイトル付けないで投稿してしまいました。すみません。


追追記

コメント返信顔文字ですることにしました。

感情伝わるし、ネタバレしないしいいかなぁって。煽ってる訳ではないのでムカつかないでくれるとありがたいです。













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