高校1年 遥編 私の運命の人

 私は、小学生の頃から何故か変な噂が絶えなかった。私自身、何も悪いことはしてないと思うし、相手を傷つけるようなことをしたこともないと思う。でも、何故か嫌な噂は絶えなかった。


 そのせいで、私は、お父さんお母さん以外の人と親しくなることはなかった。学校で頑張って話しかけに行こうとしても、みんなから避けられてばかりで仲良くなるなんて無理だった。


 お母さんに、みんなから避けられると話したこともあった。するとお母さんは、


「きっとコレは、神様からの試練なのよ。

いつか、そんな噂を知っても貴方と関わってくれる人が出てくるわ。その人が貴方の運命の人なのよ。だから、頑張って。」


なんて言われた。お父さんは、その話を聞いていて、顔が青ざめていたけれど何も言ってはこなかった。この時の私は、お母さん何言ってるんだろう程度の事しか思わなかった。



 いつ頃だっただろうか。中学のどのくらいかは忘れたけど、その時にようやく分かった。頑張って話しかけるだけ無駄なんだって。簡単に言えば、努力することから逃げた。


 一度割り切ってしまえば意外と楽で、その日からは毎日、本を読んだり屋上で昼寝したりとまあまあ楽しい日々を送ってた。


 そして、いつも通り、昼寝しようと屋上に行った。そして、自殺しようとしてた男の子を見つけた。コレが、私の運命の人、シンくんとの出会いだった。


 シンくんを助けてから、彼はよく屋上に来るようになった。ただ、一緒にいるだけの日もあれば、少し話をする日もあった。


 そうしてしばらく一緒に過ごしているうちに、彼のため込んだものを聞いたり、私の話を聞いてもらったりとお互いに支え合う仲になっていた。でも、噂の話だけは、なんとなく嫌で話せずにいた。話す勇気がなかった。


 ある日。事件は起こった。それは私が廊下を歩いてた時だった。


 朝、私が登校してきて、学校につき、上履きを履き、廊下を歩いて、後は曲がり角を曲がって教室に入るだけという時、誰かの話し声が聞こえた。


その瞬間、片方が誰なのか分かった。いつも話してる声。いつも聞いてたら自然と笑みが溢れるような声。


そう、シンくんだった。そして、彼だと分かった私は、何を話してるのか気になり、隠れて話を聞いてみることにした。


「なあ、お前、新崎遥と関わってるってマジなのか?」


「うん。そうだよ」


どうやら、ちょうど今の話の内容は私についてだった。シンくんが私のことを話してくれてると思うと一瞬嬉しくなった。が、それと同時に、私の頭に最悪な展開が思い浮かんだ。



そして、それは現実でも起こってしまった。





「やめとけよ。あんなやつとなんて。」


「なんで?」


「だってアイツ、クズらしいぜ。陰で悪いやつと絡んで弱いものいじめしてるとかいろんな噂があるんだ。」


「.....」


「まあ、悪いことは言わない。ただ、アイツとだけは関わるのはやめとけ。」


「....」


ほんとの本当に最悪だった。彼に私の噂が伝わってしまったのだ。


 この時の私は、焦りとか後悔の気持ちでいっぱいになっていた。こんなことになるんだったら、変な噂が流れてしまってるってことを話しておけばよかったとか、もう話せないかもという絶望感が襲った。


 でも、この時の私はまだ期待してた。もしかしたら、彼がその噂を信じないでそんなの嘘だって言ってくれるかもしれないって期待してたんだ。


「....分かった。考えとくよ。」


でも、私の期待は簡単に打ち砕かれた。


それから、その日は本当に何もせずに過ごした。。本当に学校の椅子に座ってるだけ。少なくとも、その日は屋上なんか行く気になれなかったし、本を読む気にもなれなかった。

ただただボーっとして学校の時間を過ごした。


 ぼーっとしてる状態から回復したのは、下校時間からだいぶ経った頃だった。気がつくと、最終下校時間前になっていた。


 私は、沈んだ気持ちのまま、戸締りをして、鍵を職員室に出し、校門に向かった。


 向かってる途中、彼ともう話せない、関われないと思うと涙が出てきた。


 以前の私なら、1人であることくらいへっちゃらだった。噂を知られてしまうことなんて、なんとも思わなかった。でも、無理だった。彼は私に優しくしすぎた。そのせいで、彼のぬくもりの心地よさを知ってしまった。もう前に戻れるわけがなかった。


 ポロポロと涙をこぼし、下を向きながら、校門を通り過ぎて、自分の家の方向に向かって歩き出した。もう、学校には行きたくないと思っていた。それだけ、私の心は追い詰められてた。








「新崎さん!」







そんな時だった、彼の声がしたのは。

驚きのあまり、一瞬私の脳がフリーズした。でもすぐに正気に戻り、ものすごい勢いで、その声がする方向へ振り向いた。


そこには、校門にもたれかかっているシンくんがいた。彼の表情は、いつもと同じ、優しくて、温かい、お日様みたいな笑顔だった。


 そのことが嬉しくて、信じられなくて、さっきまでとは違う涙が溢れ出た。そんな私を見て、彼があたふたと慌て始める。そんな彼を見て、私はつい笑ってしまった。


そして、頑張って気持ちを整理して、勇気を出して彼に話しかけた。


「どうして...ここに?」



 さっきまで泣いてたので、少し詰まりながらの質問になってしまった。本当はもっと違うことが聞きたかったけど、とりあえず無難なところから聞いた。


「新崎さん、今日屋上来てくれなかったでしょ?だから新崎さんに会うためにここで待ってたんだ。」


シンくんはニコリと笑ってそう答えた。


すごい当たり前のように言っているが、彼が言っていることはものすごく馬鹿なことだった。終礼が終わるのは4時で、最終下校時刻は6時なのだ。つまり、彼は2時間近く私を待ち続けたということになる。信じられない。普通はやらない。


「どうして?」


でも、私が気にしてるのはもっと違うところだった。


「どうしてって...新崎さんと話したかったから?かなぁ...」


「違う、そうじゃなくて。そうじゃなくてぇ...」


私は、無意識に嬉しいことを返してくる彼に耐えられなくなり、また涙を流し始めた。


「私、のぉ...噂、聞いた、のに...なんで...なんで、私と話して、くれる...の?」


区切り区切りにはなったが、なんとか私の疑問を伝えた。その質問を聞いて、シンくんは少し慌てた表情をした。


「あ、もしかして...新崎さん、僕が朝話してたこと聞いてたの?」


私はこくんと頷いた。すると、彼の顔はみるみる青くなっていった。そして、いつもの彼からは想像のしようのないスピードで経緯を説明してきた。


「本当にごめん!君が聞いてるなんて思ってなかった!実は、朝、登校してきたら、あの子に急に止められて...ほら、ああいうやつってさ、自分の意見を聞いてくれない限り永遠と説得してくるみたいなやつが多いんだ。だからアレは早くお話を終わらせるために適当に答えた返事であって、本音ではないんだ!

僕は新崎さんに救ってもらったんだよ。命も、心も両方救ってくれたんだ。だから、新崎さんさえ良ければ僕は一緒にいたいんだ。

もう一度言う!僕は考えるまでもなく、新崎さんと一緒にいたい!!!」


 その言葉は、他の人が聞いたりしたら恥ずかしい言葉で聞いてられないものだったかもしれない。でも、私にとっては、今までの努力が報われたかのような、救いの言葉だった。


「噂は...信じないの?」


それでも、まだどこか信じられなくて、質問をした。とことん私ってやつは、めんどくさい女だと思う。


「急に話しかけてきた人と、いつも話してる大切な人、どっちを信じるかなんてそんなの答えはひとつしかないでしょ。僕は、新崎さんを信じるよ。」


 でも彼は、嫌な顔せずに答えてくれた。彼の言うことひとつひとつが全部今求めていたものだった。


「...今まで、誰も信じて"くれなかったの"ッ。どんなに頑張って"もッ...みんな私を避けて"ッ、無視して"ッ、コソコソ貶して"きて"ッ...」


「うん。」


気がついたら私は1人で勝手に今までの思いを語り始めていた。きっと彼なら、聞いてくれると心のどこかで思ったからだろう。


実際、彼は真剣な表情で聞いてくれた。


「もういいやって"か"らはぁ...ひ"とりでもぉッ平気だったッ、けど、井上く"んと話すようになってぇッ...た"のしかったのぉッ!

だから、聞か"れたらぁ、離れていっちゃうんじゃないかって怖くて"ぇ...話せ"なくて"ぇ...」


「うん。」


「噂が井上くんに伝わった"時、もう話せ"ないと思うと、辛くて、辛く"て、本当に悲しくてぇッ...だから、だか"らこうしてまた話してくれて、嬉しかった"ぁッ、嬉しかった"んだよぉッ!」


「そう...だったんだね。」


私は言葉にできるすべての感情を吐き出した。醜いところも全て吐き出した。その全てを、彼は何も言わずに聞いてくれた。そんな気遣いが、本当に嬉しかった。


私が話し終わり、泣いていると、彼がそっと頭を撫でてくれた。


「ごめんね。新崎さんの気持ち、分かってなかった。僕は救ってもらったのに、君のことを救えてなかった。本当にごめん。今まで、よく頑張った。新崎さんはすごい人だよ。本当に凄い人だ。」


そういうと、彼は優しく私に抱きついてきた。


違う。私は確かに救われてたんだ。でも勘違いして、逃げちゃって...それを君が追いかけてきてくれたんだよ。


そう思ったけど、今は彼の優しさに浸ることにした。温かく、お日様の匂いがする彼の腕の中で、私の負の感情たちはドロリと溶けていって幸せだけが残った....










~~~~~~~~~~~~~


その後、いろいろあって、後日、彼から告白してきてくれて、付き合うことになった。付き合ってからの彼と過ごす日々は、今までのとはどこか違っていて、そういう面でもとても楽しいものだった。


シンくんと付き合った今なら、お母さんが言ってたことがわかる気がする。


"そんな噂を知っても貴方と関わってくれる人が出てくる。その人が貴方の運命の人。"



つまりだ。

噂を知ってなお、信じ続けてくれたシンくんこそが、私の運命の人なんだ....











--------------------------------------






「追記」

サポーターの方へ

 サポ限の近況ノートに「嘘をついた罰」のifルートを書いて出そうと思ってたのですが、消してしまい、最初からになってしまいました。もう一回書くのは次の土日になると思います。すみません。


「追追記」

誤字とか、矛盾してる設定とかあったら教えてもらえると嬉しいです。










 


 


 




 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る