高校1年 遥編 ダメな子


 いつも卑屈で、意見も言えないダメダメな僕でも、純粋無垢で、自分が1番輝いていると思っていた時期があった。それが幼稚園時代だ。


 その頃の僕には、最高の母親と父親がいた。母は、いつも明るくて、優しくて、悪いことした時はきちんと怒ってくれて、その上で最後には優しく抱きしめて許してくれる人だった。父さんは、いつも僕が頼めば、できる限り答えてくれる人で、一緒に走って遊んだり、キャッチボールをしたりしてくれた。


 今思えば、それらは本当にありがたいことなのだが、小さい僕には、そのありがたさが分からず、怒られたら母親に向かって嫌いと言ってしまったり、父親にお願いを聞いてもらえなかったら、駄々をこねたりしていた。それでも、母も父も、いつも僕に愛情を注いでくれていた。


 そのおかげもあって、僕は幼稚園での生活では、明るかったり、喧嘩してる子がいたら、すぐに駆けつけて仲直りさせたりと結構いい子だった。幼稚園の先生たちからもよく褒められて、僕は凄いんだってずっと思ってた。


 

でも、そういうふうに調子に乗ってしまった結果、僕は最悪の事態を招いてしまった。



 それは、ある日の夕方、両親が僕を迎えに来てくれた時のことだった。その日、僕は、幼稚園で「けんけんぱ」を習ったのもあって、けんけんぱをしながら帰り道を進んでいた。母に注意されても、僕なら平気と思い込んでいうことを聞かなかった。


 けんけんぱをしていると、当然だが、普段より速度が落ちる。そうすると、どうしても両親との距離も離れていってしまう。だから、距離がある程度開いたら急いで走って、近づいたら、またけんけんぱをするという行動を繰り返してた。


 最初は全然問題もなく、普通に帰れていた。でも、小さい僕の体力は少なくて、途中で走るのが難しくなってくる。


 両親はというと、最初の方は心配してくれて、ずっと見てくれていたが、何回も追いつき、遅れてを繰り返してるうちに、どちらも平気だろうと思ったのか、たまにしか振り向かなくなった。もしかしたら、いつも迷惑かけていたから、疲れてたのかもしれない。


 そして、ある程度進んで、ある横断歩道に着いた時のことだ。そこで事件は起きた。その時の僕は、完全に走る気力を無くし、下を向きながらとぼとぼと歩いていた。だから、信号が変わりかけてることにも全く気づかなかった。信号が赤になる。この時すでに、事態は最悪になっていた。


 両親は、信号を渡り切って少ししたところで、いつもなら追いついてくる僕がいつまでもこないことを不思議に思い、振り向いて確認した。そして、両親が見た光景、それが、赤信号の中横断歩道の真ん中あたりでゆっくり歩いている僕だった。


 ちょうどその頃、トラックが僕に近づいてきていた。でも僕は気づかない。なんなら、そこでまた、けんけんぱを始めていた。


 何か音が近づいてきてると気づいた時には遅かった。トラックは僕の目の前まできていた。あまりにも不意な自分の危機に、足が止まる。ただただ近づいてくるトラックを見ていることしかできなかった。


 そして、後少しでぶつかるという時だった。僕の背を、2つの手が押して、僕を押し飛ばした。いきなりの衝撃に意識が一瞬飛んだ。地面がコンクリートだったのもあり、足を擦りむいた。痛くて涙目になりながら、なにが起こったのか確認するために、さっきまで僕が立っていたところを見た。


 そこには、元人間だとは思えないほどグチャリと潰れている何かと、道路にくっついている大量の血があった。その光景を僕は理解できなかった。それでも、なんだか怖くなり、泣き喚き、父と母をひたすら呼んだ。でも両親はきてくれない。きてくれるはずがなかった。


 誰かの通報で、救急車が到着した時、その場は、父と母を呼びながら泣き叫んでいる僕の声と、電柱にぶつかってブーッブーッとなっている血だらけのトラックの音だけが支配していた。



 その後、僕は、いつのまにか寝てしまったらしくて、気づいたら病院にいた。検査したところ、足を擦りむいただけで、特に重症にはなっていなかった。でも、念のために、1日だけ入院させられた。


 体は何事もなかったが、あの光景は目に焼き付いてしまい、離れなくなっていた。再びあの光景を思い出し、怖くて泣き叫ぶ僕を、お医者さんがなだめてくれたのを覚えてる。


 泣き疲れて泣くのをやめた後、警察の人が3人きて、僕に色々な質問をしてきた。どんな質問だったか、どういうふうに答えたかは覚えていないが、質問されている間ずっと思っていたことは今でも覚えている。


(お母さん、お父さん、どこにいるの?)


 この時の僕は、とりあえず両親に会って安心がしたかった。次からは気をつけてねと優しく叱って欲しかった。大丈夫と抱きしめて欲しかった。


 でもいつまで経っても両親は来てくれなかった。質問が終わった時に、警察の人にお母さんとお父さんはどこかと聞いてみた。でも彼らは、帽子のつばを少し下げて、下の方を向いてから、僕の頭をポンポンと叩き、君は悪くないとだけ言って出ていってしまった。


 結局何もわからないまま、僕は退院する日を迎えた。僕は、迎えにくるのはきっと父、母だろうと思い、やっと会えるとワクワクしていた。でも来たのは、当時高校3年だった兄だった。


 兄との思い出は、本当に何もない。僕が物心ついた時から、ほとんど会話をしてないし、遊んだりもしてなかった。きっと年の差もあり、僕に構うのがだるかったのだろう。 


 僕も、兄はなんだか怖く感じて、近づきはしなかった。お互いに近づくことないから、一緒にいるなんてことは一度もなかった。だから、迎えに来たのが兄であることに驚いたのを覚えている。


 病院を出た後、兄は何も言わずに僕を連れて家に帰った。お母さんやお父さんがどこなのかと聞きたかったが、兄と話すのは怖かったので黙っていた。それに、家には流石にいると思っていたから、少し我慢するだけと思っていた。



でも、家には誰もいなかった...



 なんの気配も感じない僕の家を不思議に思い、勇気を出して、兄に聞いた。


「お父さんとお母さんは?」と...



 でも、兄はギロリと僕を睨むだけで、答えてはくれなかった。そして、どこかに行ったかと思うと、バッと服をこちらに投げてきて


「これを着ろ。」


と言ってきた。いうことを聞かないといけない気がした僕は、素直に服を着替えた。その服は、黒かった...普通ならここで気づくだろうが、その頃の僕は、着替えるのめんどくさいくらいにしか思ってなかった。



着替え終わってから少し経った頃、僕はまた、兄に連れられて外に出ることになった。そして、見たこともない車に乗せられて、ある場所に連れられてきた。


 その場所につき、僕が中に入った時には、すでに沢山の人がいた。そして僕を見ながら、コソコソと何かを話している。そんな状況を不思議に思いながらも、やはり両親のことが気になって、そっちのことばかりを考えていた。


 お腹壊しちゃったのかな、風邪をひいちゃったのかな、もしかして喧嘩しちゃったのかなとか、今思えば馬鹿馬鹿しい考えばかりだ。でもその頃の僕は、そういうことぐらいしか想像できなかったんだ。


でも、僕の考えつくものすべてをもってしても、ずっと会えない理由は見つからなかった。 気になって気になって仕方がなくなり、僕は大きな声で叫んだ。


「お父さんとお母さんがどこにいるか、知ってる人いませんかーー!!!」と。

 

 それでも、みんな目を逸らすばかりで誰も答えてくれなかった。まぁ、今考えればそうなるのはわかるけど、その頃の僕にとっては疑問でしかなかった。だから、何度も何度も聞き続けたんだ。



 16回目くらいの質問をしようとした時、兄が僕に向かって怒鳴ってきた。


「うるさいんだよ!!いい加減にしろ!!」


その言葉に僕は一瞬ビビったけど、なんとか勇気を出して反論した。今かんがえれば、この行為も許されることではない。


「だって、誰も答えてくれないんだ!僕はただお父さんとお母さんに会いたいだけなのに!おまわりさんも、お医者さんもみんな無視すんだ!黙って欲しかったら教えてよ!」


 この言葉に、また周りの人がざわつき始めた。すると、兄は僕の顔のところへ自分の顔を近づけてきて、僕の目を睨みながら、また怒鳴ってきた。


「じゃあ教えてやるよ!俺の両親は、お前のお母さん、お父さんはなぁ、死んだんだ!

ぐちゃぐちゃになって跡形もなく潰れて死んだ。しかも、お前のせいでだ!!!!!」


 その言葉に、僕の頭はパニックになった。その時、僕の頭に、あの事故現場での光景が不意に思い浮かんだ。少しの間、僕は頭を抱え込んでいた。そしてやっと気づいた。あの肉塊は、僕の両親だと...


「ぇ..ぁあ...ふぇえ?..ぃや...そんな...」


 信じたくなくて、嘘であって欲しくて、周りを見渡して、救いを求めた。でも、みんな目を逸らすだけで何もしてくれない。


 流石のお気楽な僕でも、この状況から、兄の言ったことは本当なのだと気づき、絶望する。そんな僕に追い打ちをかけるように、兄は僕の首元を掴んでこう言った。


「お前が...お前さえいなければぁ!!!俺は今でも、父さん、母さんと楽しく暮らせてた!お前さえいなければぁ!!!!!」


そして、その言葉にまた周りの人がざわつき始める。そのざわつきは、さっきまでより大きくて、彼らが言ってることが僕の耳にも入ってきた。




「お兄さんかわいそうね...」



「なんであんな子助けたんだ...」



「空気も読めない最悪な子供だな...」



「どうしてこんな奴のために私の娘が...」....






...もしかしたら、僕が勝手にフィルターをかけて、悪い言葉だけを拾ったのかもしれない。でも、少なくとも僕を擁護する人よりも、僕を貶す人の方が多かった。


 

それらの言葉を耳にしたら、どんな奴でも自分がダメな奴だってわかる。途方もない絶望感に、ただただ僕は泣いていた。大人たちからの罵倒や軽蔑の目は、僕の自信を奪うには十分なものだった。そこに兄の言葉がトドメを刺す。






「お前なんか、生まれてこなければよかったんだ...この疫病神め...」









ようやくここで僕は全てを理解したんだ。




僕は誰かを不幸にするだけのどうしようもない"ダメな子"なんだって....





~~~~~~~~~~~~


「....それから、兄はどこかに姿を消したよ。もしかしたら、僕を見たくなくて、親戚のところに泊めてもらってたのかもね...両親を引いたトラックの運転手は居眠りをしてたらしい。だから避けることができずに両親を引いた。でもそんなの関係ない。悪いのは僕なんだから....


...僕は、親の遺産でなんとか今まで生活してきた。でももう疲れたんだ。人を不幸にしないように、せめて嫌な気持ちにしないように、本当の自分を隠して取り繕うのも、この重い重い後悔を背負い続けるのも...

だから、止めないでくれ、僕を死なせてくれ。頼む...」


私に頼みをする彼の姿は、本当に必死だった。彼はきっと、悲しくて、辛くて、悔しくて仕方がなかったはずだ。そんな気持ちを誰にも話さずずっと抱え込んできた。そんな重荷を幼稚園から中学生になるまで背負い続けていたという事実に私は驚愕した。


 きっと、彼の辛さは私が分かるものではない。もしかしたら、私が彼を止める資格なんてないかもしれない。でも、それでも、彼をここで死なせる理由にはならない。


だから私は彼をそっと抱きしめてこう言った。



「大変....だったんだね。よく頑張った....」



その言葉に、彼はびくりと肩を動かした。



「...うぅ......うぁぁ......ううぅッ....」


彼の泣く声を聞きながら頭を撫でる。その度に、彼の泣いている声は大きくなる。でも、自然と嫌な感じはしなかった。





それからしばらくの間、私は彼の頭を撫でながら、彼の嗚咽をただただ黙って聞いていた....









      


      ー遥編 開幕ー












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今回は、主人公の過去に触れつつ、シンジと遥の出会いの場面を書いてみました。マジで文章書くのむずいっすね...語彙力上げないと...


これからどう展開進めるかを考えるのめちゃくちゃ大変そう....まあ、考えるのは楽しいので、なんとかそれを言葉にできるよう頑張ります。


誤字とか、おかしな設定とか、矛盾してる所あったら教えてくれるとありがたいです。


最後に、星の数が200を超えてすんごい驚いてます。作品フォロー数も500いってました(投稿した時は...)。本当にありがたい限りです。これからも、不定期にはなりますが、投稿できるよう頑張ります。応援よろしくお願いします。














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