高校1年 慎二編 雨




(なんで....なんでこんなところにあるんだよ!)



何度も何度も、最初から音声を聞き直す。



 きっとコレは間違いで、今僕が聞いてるのは幻聴なんだと思いたくて、最初から聞き直せば、もしかしたら違うものに変わるかもしれないと願って、何度も何度も聞き直す。  



 それでも聞こえてくるものはなにも変わらなかった。当たり前だ。だってコレは幻なんかじゃないのだから....この音声は、実際にあったものなのだから....


過去は、変わることはないのだから...



(変われ。変われ変われ変われ。変われよ!

変わって....くれ....頼む....)

 


 何度も聞き直す度に、どんどん頭が混乱していく。本当は、変わるわけないのを頭の中で分かっていても、わからないふりをして何度も現実逃避を繰り返す。



ピコンッ



でも、現実は僕を逃してはくれなかった。


 新しい通知音に、無理やり現実に戻される。それは、さっきの人からのメッセージだった。なにを言われるか分からなくて怖い。それでも、恐る恐るメッセージを開いた。



『この声、お前と新崎さんだよな?』



そのメッセージは、もう逃げれないぞと言う最後の通知だった。頭がパニックになる。バレてしまった。聞いた時から元々気づいていたのかもしれない。でも確証はなかったはずだ。だからさっきまでならまだ終わりではなかった。



でも、既読をつけた状態で無視をしているこの状況は、悪いことをしたと、この音声は僕だと認めるのと同義だった。さっさと返信してしまえればよかったが、返そうと思ってスマホを持っても、手が震えて字が打てなかった。



今の僕は、なにを言われるのかを考えて、怯えているだけだった。返信を打とうとも思えなかった。そんな僕を待つ気が失せたのか、




『もういいよ。お前のことがよーく分かった。本当に新崎さんが可哀想だ。俺はお前を許さない。彼女を傷つけたこと後悔しろ。』と言うメッセージが届いた。



 このメッセージを見て、なんでここまで言われなくてはならないのか不思議に思えてくる。そういうふうに思えてくると、なんだか怒れてきた。


 なんで無関係のやつにここまで首を突っ込まれなくてはならないのだろう。確かに、僕は悪いことをした。嫌なことから逃げて、遥の未来を奪いたくないとかいいながら遥を傷つけた。


 でもこれは、僕たちの問題であって、他人にとやかく言われる理由はないと思う。それをコイツは、ズカズカと入ってきては行けない領域まで入ってきたんだ。


僕がしたことも許されないかもしれないけど、コイツがしたのも許されない。そうだ。きっとそうに違いない...


 相手が1人なのもあって、強気になっていたのだろう。個人の問題に首を突っ込まれたことに腹が立ち、名前もわからないやつだが、とりあえず文句を言ってやろうと、再びスマホを手に取った。そして電源を入れて、メッセージを送るためにパスワードを打ち終わらせた、その時だった。



ピコンッ



 新たなメッセージが届いた。さっきのやつだと思い、文句を言おうと通知を見る。でも、僕のそんな考えを、現実は最悪の形で裏切ってきた。


ピコンッピコンッ



通知オンが連続して鳴る。



ピコンッピコンッピコンッ



どんどん新しい通知が増えていく。




ピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッ

ピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッ..........




 ものすごい高いところから落ちてくる滝のように、どんどん上から通知が流れていく。その量は、到底数えられるものではなかった。こんな状況になったことなどあるはずはなく、ただただ頭が混乱した。


 なんでこんなことになっているのか訳が分からなくなる。いや、もしかしたら分かりたくないだけなのかもしれない。


 本当は、冷静に考えてみれば、たどり着く答えが1つあるのだ。でもたどり着いた答え通りなら、僕の学校生活はもう終焉を迎えると言っても過言ではないから逃げてるのかもしれない。


 

 もし、嫌な予感が当たっていたら、僕は学校に行く気力も無くなるだろうし、それこそ本当に耐えられなくなるかもしれない。



 (きっと違う。僕は悪い方向に考えすぎてしまう癖があるんだ。だから、これは、きっと違う何かで....)



 きっと何かの間違いだと、そう自分を説得するが、どうしても頭で嫌なことを考えてしまう。この状況を変えるには、もうメッセージを見てみるしかなかった。


 ガタガタと震えながら、すがるようにスマホを抱え、通知のメッセージをタッチして1人のメッセージへと飛ぶ。


















『お前みたいなクズ、もう学校へ来るな。』









それは、また知らない人からのメッセージだった。



つまりだ。




救いなんて、あるはずがなかった。



(あぁ..あぁぁ...ア"ア"ア"ア"ア")



きっと、さっきのやつが音声ファイルと僕のアカウントの情報をばら撒いたのだろう。この行為は、さっきもいったとおり、僕の学校生活の終了を意味する。


予想をしてたとしても、実際なった時のダメージは大きい。終わりだとわかった瞬間、僕の中の何かが壊れる。飢えた獣が餌を必死で探すみたいに指が勝手に動いて、どんどん他のメッセージを確認させられる。


優しい言葉なんてあるはずないのに...

見てたらより辛くなるだけなのに...


それでも、一筋の光を求めて指は勝手に動き続けた。



『人間ってここまでやばいやつになれるのな。病院行ったほうがいいかもよ?』


『泣いてる女の子をさらに痛めつけるとか、どんだけ頭おかしいんだよ。生きてる価値ない。』


『今までどうやって生きてきたの?人を嫌な気持ちにさせちゃいけないなんて、幼稚園生でも知ってると思うよ?いっそのこと幼稚園からやり直せばいいんじゃない?』



(もう...やめてくれ....)


そう願っても、僕の体は言うことを聞かない。


『死ね』『消えろ』『社会のゴミ』

『社会不適合者』『クズ』....


(やめて...やめてくれ....もういい。もういいから。)



『ブス』『取り柄なし』『キモい』

『低身長』『酸素の無駄使い』....



(分かった...もう分かったから......)



『生きる価値ない』『学校来んな』

『DV野郎』『クソ野郎』『ゴキブリ未満』...



(もう、やめて....やめてください.....)



メンタルが完全に弱くなっていた僕にとって、どんな悪口も磨いた包丁で切り裂かれたかのようなダメージを与えてきた。



 


何百件ものメッセージを確認した頃、僕の心からの願いがやっと届いたのか、僕の手が止まった。自分を守るために、急いで布団の中に逃げ込む。


 



 でも、もう遅かった。どんどん目に入ってきた僕への悪口に、僕の心はボロボロになっていた。ただでさえ色褪せていた僕の心は、今ではもう完全に灰になっていた。



 布団にこもって、さっさと夢の中に逃げようとするが、通知によるスマホの振動が布団越しにも伝わってくる。そしてその度に、見てしまった悪口が全てフラッシュバックし、ガタガタと体が震えだす。



 人々の悪口は、ひとつひとつに刃物みたいな鋭さがある。それは、分かってるつもりではいた。その上で、誹謗中傷で自殺してしまう人とかをニュースで見ながら、なんでそんなことするんだろうと不思議に思っていた。



 結局僕は、分かったつもりになっていただけで、言葉の本当の恐ろしさを全く知らなかったのだと思う。それを今になって嫌というほど思い知らされる。



 頭の中に、遥と別れた時のことを思い出す。

僕はあの時、嫌われるためにたくさんの悪口をいった。無意識に彼女は浮気をする人ではないと分かっていながら、それを行なった。


 

 今更になって、その罪の重さを思い知った。全く知り合いでもなんでもない人達からの悪口ひとつひとつが刃物ぐらいのダメージを与えるのなら、思いを寄せている人からの貶しの言葉のダメージなど、到底想像できる気がしない。



 そんだけの辛い気持ちを、僕は遥にさせてしまった。遥のためにとか言っておいて、1番

彼女を傷つけたということを思い知る。そして、このような状況に陥らないと、好きだった人の気持ちにすら気づくことすらできない僕の不甲斐なさに涙が溢れ出てきた。



長い間、僕はただただ泣き続けた。僕の気持ちと同調したのか、外からパラパラという音が鳴り始める。なぜか、やたら外が気になり始める。


 すると、なにを思ったのか、雨が降っていると分かっているにも関わらず、僕は布団から這い出て、ベランダに向かい始めた。



床を這いずりながら、ベランダの扉を開けて外に出た。雨は、さっきのパラパラ音からザーザー音に変化していた。




 髪が、服が、体がびしょびしょに濡れる。




普段なら、濡れることは絶対に嫌だし、風邪も引くから絶対にこんなことしない。でもなぜか、今はこうしていると気持ちが楽になっていく。そんな謎の感情のまま、数分雨に打たれ続けて、やっと分かった。





(あぁ、ようやく今の僕がなにしたいのかが分かったよ。)






 この惨めさと情けなさに浸りながら、流れて排水口に消えていく雨水達と共に、こんな僕も消えてなくなりたかったんだ....













~~~~~~~~~~~~~~~


2023年3月16日 町内新聞にて


2023年3月15日、夜頃、1人の男子高校生が自宅のベランダから飛び降りるという事件が発生した....

      

        という記事が載っていた...







_________________________________________

Error Error

プログラムにないストーリーが起きています。

原因を調べるために、ゲームキャラクター「新崎 遥」視点をロードします。


▶︎OK

 NO


ピッ


遥視点をロード中...成功しました。

















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