高校1年 慎二編 嘘をついた罰
突然だが、僕は「主人公が付き合っていた幼馴染に裏切られる」といった小説を読むと、死ぬんじゃないかと思うくらい心が痛む。
だって、主人公は生きている半分以上の時間をその子と過ごしてきていて、それはかけがえのない思い出のはずで、だからこそ幼馴染は大切な存在で、信頼できる存在であるはずなのに、捨てられる。
そんなのは酷すぎると思う。裏切られることで、大切だった思い出も全て汚されるし、主人公の心はきっと想像もできないくらいにボロボロになってるはずだ。それこそ、もう立ち直ることができなくなるくらいに....
だから、裏切った幼馴染は許されるべきではないと思ってる。特に、浮気をするという裏切り行為をした幼馴染。
大体の浮気をする人は、"どこかに心の迷いがあって、不安になり、彼氏には心配かけたくないからと別の人のところへ行き、最終的に裏切る"という経緯がある。
だから、彼氏のことが好きのままだったりして、浮気がバレた瞬間謝り続けて復縁を迫ってくるなんて場合もよくみる。
到底許される行為ではない。コレを幼馴染にやられたら、僕だったらただただ絶望でしかない。長年一緒に過ごしてきたのに、相談すらしてくれない事も悲しいし、好きなのに裏切るという行為自体理解できないし、謝って復縁しようとするおめでたい頭にも腹が立つ。
本当に好きならば、裏切ってしまったのだから潔く主人公から離れて、主人公の幸せを願うべきではないかと思う。
長々と語ったが、つまり、僕が言いたいことは1つだ。
「裏切ったのなら救いを求めるな」
コレは、つきあってる頃は信頼してる人同士だったなら、なおさら言える事だと僕は思っている。
~~~~~~~~~~~~
「は?今...なんて...言った...」
遥が発したその言葉は予想のできないものであり、僕の怒りのゲージをMAXまで一気に上げるものでもあった。そのため、僕の声は自然に低くなる。
「何って。つ•ま•り!復縁してまた一緒に登下校とかしよ?って事だよ!ね!?いいよね?ダメなわけないよね!?」
しかし、僕が怒っているにも関わらず、彼女は驚きも怯えもせずに明るいまま、大きな声で返答してきた。
僕の方も、さっきまで彼女の狂気っぷりに怯えていたはずなのに、怒りのせいか恐怖心は一切無くなっていた。ただただ彼女への苛立ちが積もっていた。
「やり直すわけねぇだろ。ふざけんな。」
声を荒げないために、なるべく淡々と話した。もしかしたら、まだ残ってる生徒がいるかもしれないし、先生が近くにいるかもしれない。何事かと駆けつけられたら嫌だった。
「えー。なんでー!いいじゃん。私たち絶対いいカップルだったんだし!もう一度付き合って、クレープ食べに行ったり、一緒に買い物に行ったりしようよ!」
「....やめろ。」
だというのに...
「他にもさ、互いの家に行ったりして、お家デートとかどうかな?一緒に1つのソファーに並んで座って、映画を見るの!きっと楽しいよ!あーでもでも!もし、シンくんが寝ちゃって、シンくんの頭が私の肩に乗っかってきたりしたら...私、幸せすぎて死んじゃうかも!」
「やめろって言ってるだろ...」
コイツは喋るのをやめない。
「それとさ、今までシンくんが嫌だと思って学校では一緒にいなかったけど、コレからは一緒にいようよ!休み時間はシンくんのお膝に乗って一緒に過ごそ!そしたらきっと私たちが付き合ってるってみんなわかってくれるよ!学校の生徒全員からの公認カップルになっちゃったりして!キャーーーッ!幸せ!」
「.....ぃ加減に...」
コイツのテンションはどんどん高くなっていく。それと比例するかのように、僕の怒りゲージも上限を忘れてどんどん増加していく。
「ねぇねぇ!2年生になってからはさ、シンくんの分のお弁当作ってきてもいいかな!?ちゃんとシンくんの好みは把握してるし、栄養バランスもしっかりと考えて作るから!飽きないように、いろんな種類の料理作れるようになっといたからきっと悪い気分にはさせないから!ね!?高校2年生初のお弁当は何がいいかな!ハンバーグ!?唐揚げ!?それともコロッ「いい加減にしろ!」
我慢の限界など、とっくのとうに超えていた。
彼女の声を遮って止める。
「何勝手なことを言ってるんだ!馬鹿かお前は!誰がお前なんかとやり直すか!ふざけんな!」
さっきまで必死に我慢して貯めていたものが一気に溢れ出る。
「お前なんかと一緒にクレープを食べることなんてねぇよ!クレープが不味くなる!買い物にも行かねぇし、家なんか入れるわけねぇだろ!お前なんかと一緒の空気を吸いたくねぇ!一緒にいても、虫唾が走るだけだ!お前が作った弁当なんかを食べるくらいなら、そこらの雑草を食べる方がマシだ!」
「えーー?そんなぁ...」
遥は、僕からの言葉に一瞬顔を曇らせる様子を見せたが、すぐにまたあの笑顔に戻った。
そんな彼女の態度にさらに苛立ちが増す。
「そんなぁ....じゃねえよ!まずなんでやり直せると思ったんだ!お前は!俺を!裏切っただろ!あの日、しっかりと見たから間違いってことはねぇならな!その上!お前は俺に嘘をついた!真実を隠した!もう俺がお前を信じるなんてことは一度もねぇし、付き合うなんてことは死んでもねぇ!今までずっと信じてた!確かに高校入ってから明らかすれ違ってたさ!一緒にいるのが辛かったのもわかる!でもな!好きだという気持ちは一緒だって信じてた!またいつか中学の頃みたいな感じに戻れるって信じてた!だから!登下校は一緒に帰ってたんだ!毎日離れてくお前に劣等感を抱いて、辛くて、悲しくて...
それでも!俺は!お前を!好きだったから!一緒にいたんだ!なのに!お前は!
お前は.......」
「....」
「...ハァ、ハァ....」
一通り言い終わった後、ふと冷静に戻った。
大量の怒りの感情が爆発してしまったせいで、口調だけでなく、一人称までもが変わってしまった。一気に言ったため、息も上がっていた。
遥を見てみると、下を向いて何かを考えているような様子だった。流石の彼女でも、僕の言葉に思うことがあったのだろう。僕の魂の叫びに対してなんの返答もない。
今の僕にとって、黙ってくれたのは好都合だった。息を整え、別れの挨拶をする。
「それじゃあ、要件はコレで終わりってことで。僕は帰るよ。じゃあね、新崎さん。」
とだけいい、閉められた扉に向かって歩みを進めた。少しの間、コツコツと、僕の上履きが奏でる音だけが教室内で響きわたっていた。
そして、その音も止まり、しばしの沈黙が訪れた。もう一度、深呼吸をする。そして、扉の鍵に手を伸ばしたその時だった。
「ちょっと待って。」
不意に遥から止められた。その声はさっきまでのちゃらんぽらんなものではなく、いつものものだった。
まだ何かあるのかと少し呆れながら、彼女の方へ目線を向ける。そして彼女の変化に驚く。そこにあった彼女の表情は、さっきまでの笑顔ではなく、前のあの状態だったのだ。
遥は、瞬きもせず、ずっと僕を真剣に見ていた。彼女の目は、別れ話をした時と同じ瞳をしていた。光が全く感じない彼女の瞳を見ていると、瞳の闇の中に吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥った。
怒りが落ち着いたのもあり、彼女への恐怖心が戻ってきていた。そんな時に彼女のあの表情を見てしまった。
「...ぁ...ん...だ...?」
何だ?と聞き返そうとしても、口声が上手く出ない。完全に彼女への恐怖心を思い出したため、今の彼女に対して何かを言う勇気など持っていなかった。彼女への恐怖心に頭を支配され、この場から逃げるという選択肢が思い浮かぶこともなかった。
彼女は、僕が出て行こうとするのをやめたと分かるとニコリと笑った。
「ありがとう。シンくんはやっぱり優しいね。そんなところも大好きだよ。」
でもこの笑顔は、どこか悲しみの感情を含んでいるように思えた。どんぐらい時がたっただろうか。沈黙の時間は永遠の時のようにも思えて、一瞬のようにも感じた。
僕が何も言わないと察したのか、彼女はゆっくりと口を開いた。
「誤解を...解きたいの。」
彼女は真剣な眼差しで僕をみる。こんなに何かに真剣になってる彼女を、僕は見たことがなかった。だから頑張って声を発する。彼女の真剣な表情を見ると、自然と勇気が湧いてきた。...多分僕はまだ彼女のことを好きなのだと思う。
「誤解って、何だ...」
弱々しい声だったが、何とか口に出すことができた。その声は、なんとか彼女の耳にも届くことができたみたいで、彼女は少し微笑みながら答えた。
「浮気ってところ。私、そんなことしてないし、そんなこと死んでもしない。昔から今まで好きなのはシンくんだけ。」
「そんなこと、信じられるわけ...」
「言葉だけじゃ信用できないの分かってる。嘘ついた人の言葉なんて信用できないよね。だから証拠を見せたいの。私の家に来て欲しい。そこに浮気してないって証拠があるから。それで証明できたら、もう私の告白断る理由もないでしょ?」
(証拠?)
あの状況を動画に取っていたとでも言うのだろうか。そんなことはありえない。ボイスレコーダーで録音してたなんてことも普通はない。つまり、証拠というのは嘘ということになる。
でも彼女は真面目な表情を崩さず、僕をじっと見ていた。嘘をついてるようには思えない。こんな顔をしていて、嘘をついているなんてことはあの不器用な遥にはできないはずだ。
今回だけは、信じてみてもいいのではないか。もし仮に、家に行って証拠がなかったことがわかっても、さっさと帰ってしまえば平気なはずだ。もし家で何か仕掛けてきても、彼女は女性だ。僕が負けるわけない。
彼女のいう通りにしても、何も問題はない...
....でも、
「...もし仮に遥の言ってることが本当で、浮気なんてしてないとしよう。それでも、僕は、君と、もう、付き合うつもりは.....ない...」
「......」
僕の思いを、途切れ途切れになりながら彼女に伝えた。彼女は何も言わない。
僕は、もう彼女とやり直してはいけないと思ってる。
確かに、もしやり直したら、もし前の関係に戻れたなら、それはきっといいことばかりだと思う。好きな女の子と付き合えるなんて嬉しいに決まってるし、もう1人で抱え込むなんてことも無くなって気が楽になるし、デートなんかすれば青春を謳歌できると思う。本当にいいことだらけだと思う。でもダメだ。
彼女は変わってしまった。誰もが目を引くような、高嶺の花になってしまった。きっと新しいクラスでも彼女を好きになる人が多いだろう。
そんだけ完璧なんだ。気遣いできるし、悩んでることを察してくれるし、どんな人にも優しく接してるし、勉強できるし、可愛いし、もう本当にいいところだらけだ。欠点と言えるのは運動が少しできないくらいだろう。でもそんなの目立たないくらい他が完璧になった。本当にすごいと思う。でも...
「遥と付き合うなんてことしたら、きっと周りから比べられる。『なんで彼女の彼氏があんなの何だ』とか『釣り合ってない』とか言われると思う。」
「...そんなの気にしなければいい。私たち以外の人なんて、気にする必要ない。」
遥は、普通の人には到底できそうにないことを言って僕の付き合えない理由を否定する。
言葉では言えても、常人なら少しは周りの目を気にしてしまうはずだ。でもきっと彼女なら、宣言通り本当に気にせず僕に接してくれるのだろう。本当に彼女は強い。
「無理だよ。僕にはそんなのできない。人の視線に人一倍敏感で、臆病で、何の取り柄もない。それが僕なんだ。だから、遥と比べられたりしたら、恥ずかしくて死んでしまいたくなる。もし周りからの視線がなかったとしても、どうしても自分で比べてしまう。僕なんかが釣り合うはずがないって、そう思ってしまうと思う。」
「そんなことない。シンくんにはいいところがたくさんあるよ。周りの人やシンくん自身が気づいてないだけで、いいところは山ほどあるんだよ!?」
遥は、僕の自虐を聞いてすぐに否定してくれた。僕なんかに優しくしてくれる。本当に嬉しい。こんなに優しい人とは、もう2度と出会えないかもしれない。でもだからこそ、僕なんかが縛ってはいけない。彼女はどこまでも飛び立てるはずだ。僕と一緒にいたら、その可能性がなくなってしまう。やりたいことが僕のせいで出来ないなんてことになったら僕は申し訳なくて顔を合わせられない。
だから...
「...本当はどこか気づいてた。君が浮気なんてするはずないって。でも君を僕の手から解放できるいいチャンスだと思ったんだ。君にはもっと僕よりいい人がいるはずだってずっと思ってた。だから別れるきっかけに食いついたんだ。君は何も悪いことなんてないって知っておきながら別れるために君を傷つけた。僕はそんなクズ野郎なんだよ...だから、君とやり直すなんて資格はない....」
自分のクズっぷりを全面に出す。思ってたこと、心のどこかで分かってたこと、全ての醜い部分を曝け出す。全てを吐き出す時、自分自身でも気づかなかったことまで発していた。
こうすることで、遥が幻滅してくれる、僕から離れていってくれると、そう信じて...
「...そう...だったのね。でも気にしなくていい。シンくんは私のために考えてやったことなんでしょ?ならいいから。何なら少し嬉しいし。シンくんはこんなにも私のこと大事なんだなぁって思えて心がポカポカする。でも1つだけ、私はコレから先を君と過ごせないのが1番不幸なの。だから離れていこうとしないで。私のそばにいて欲しい。」
なのに彼女は、僕を受け入れてくる。クズなところも含めて好きといってくれる。
あぁ、やめてくれ。本当に。
「やめてくれ。僕に優しくなんてしないでくれ。決意を曲げさせないでくれ。もう少し、あと少しなんだ。あと少しなんだよ...」
あと少しあればきっと...
「...あと少しで君を諦められる。君を好きだって気持ちを忘れられるんだ。だから」
僕が彼女にすがるように弱々しく言葉を発した、その時だった。
「ハァ"????」
驚くほどドスの効いた遥の声が教室に響き渡った。そしてその瞬間、教室の空気が一気に重くなる。
「ねぇ?今忘れるって言ったよね?ねぇ!」
彼女は、先ほどまで優しい声で話していたとは思えないほど豹変していた。頭を掻きむしりながら、怒鳴っている時のような声で僕へ話しかけてくる。こうなった理由は1つ。何か地雷を踏んでしまったのだろう。
「....」
こんなに怒った遥もまた、僕は一度も見たことがなかった。真剣な表情の時はなんとか話すことはできた。でも今は無理だ。こうして口を動かしても全く声が出ない。なんなら体も金縛りになったかのようにぴくりとも動かない。
「私たちの思い出とかも全部忘れてなかったことにするの!?ダメ、そんなの絶対にダメだから!私たちはコレからもずっと死ぬまで一緒なの!一回拗れはしたけど、私たちは運命の赤い糸で繋がってるんだから!運命ってものは変えちゃいけないの!神様が決めたことなんだから!だから忘れるなんて言わないで!そんなことしたらもう結ばれることがなくなるじゃない!?もーダメだなシンくんは!すぐ卑屈になって自分を過小評価して、自分から不幸への道へ進もうとしてる!やっぱり私がついてないとだね!私が一緒にいて君をサポートしないと君はダメになっちゃう!だから私たちはやり直すの!お互いのために!好きって気持ちを忘れるなんてダメ!分かった!?」
ものすごい早さと声量で僕へ圧をかけてくる。もう何を言われてるかもわからなくなってきた。ただただ今の彼女が怖い。
何か返事をしないといけない。でも声が出ない。口をぱくぱくと動かすだけ。首を動かすこともできない。目線も遥の方を向いて離れない。逃げたいのに逃げることもできない。
「分かったかって聞いてるの!」
何も答えない僕に痺れを切らしたのか、彼女は大声で僕に聞き返す。でも僕は何もできなかった。
「もしかして、分かってくれないの?」
黙り続けている僕をみて、遥は、僕が自分の言ってることを分かってくれていないのだと思ったのだろう。急に声が弱々しくなり、頭を抱えている。
「...ダメ。そんなの絶対ダメ...」
「ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメッ」....
遥は、頭を抱えながら、弱々しい声で何かを繰り返し言っていた。その声は、僕の耳には届くことはなかった。だけど、今の彼女のヤバさは嫌というほど分かった。僕はただただ怯えながら、嵐が過ぎ去るのを待った。
どれだけ時間が経っただろうか。遥の動き続けていた口は急にぴたりと止まった。そして、急に首がグワンと動き、瞳が僕をギロリと睨みつけてきた。
「こんなこと、本当はしたくなかったんだ。君が傷つくところを見るのは嫌だから。でも、君が私から離れていくなら、もうやるしかない。本当に残念だよ。」
遥は、薄気味悪い笑みを浮かべながら、不気味なことを言うと、ゆっくりと扉の前にいる僕のところへ、一歩、また一歩と近づいてきた。
(まずい!)
危険を察知した僕は、逃げろと頭に命じても、僕の体はいうことを聞かず、全く動かなかった。逃げないとヤバいのに、逃げることができない。こんな地獄でしかない状況に、僕の瞳から思わず涙が出てきた。
体がガタガタと震え出す。みっともないから止まって欲しいけど、もちろんいうことを聞いてくれない。
彼女はもう、すぐそこまできていた。それでもまだ動かない足に、手に、口にただただ失望する。
(あぁ、もう、終わりだ...)
自分の最後を悟り、目を瞑った。こんな時だけ言うことを聞く体に頭の中で文句を言いながら、自分の終わるその瞬間を待った。
ガチャリと音がした。ガラガラと扉が開く音がした。何とか恐怖に抗って、恐る恐る瞼を開く。
遥はもう、この教室にはいなかった。
バタリッ
危機がさったことに安心したせいか、不安やら恐怖からの疲れがドッと溢れ出た。そのせいで、立っている力もなくなり、その場に膝から崩れて落ちた。
遥がこの場からいなくなっても、あの狂気に満ち溢れた表情のひとつひとつが全て頭の中から離れることはなかった....
~~~~~~~~~~~~~~~~~
それから、どうやって家に帰ってきたかは覚えてない。覚えていることといえば、外はすっかり暗くなっていたということだけだった。
ベッドに倒れ込む。目を瞑るが、遥が頭の中に出てきて眠れない。疲れていて、すぐにでも眠ってしまいたいのに眠れない。このじれったさに少し腹を立てる。でも、ただ怒ってるだけでも意味がないので、他のことをすることにした。
風呂でリラックスし、夕ご飯を作って食べた。その後、恐怖心を間際らせるためにテレビでバラエティ番組を見た。当たり前のことをすることで、なんとか自分の気持ちを落ちつかせた。
夜11次頃。だいぶ気持ちが落ち着いて来たので、そろそろ寝ようと思い、テレビを消した、その時だった。
ピコンッとスマホが鳴った。
僕は、友達がいない。連絡先を交換していたのは、遥くらいだった。スマホを取り出し、通知を見てみる。そこには、知らない誰かからのメッセージが表示されていた。
『お前、最低だな。おとなしいやつだと思ってたけど、裏ではこんなんだったんだな。』
その表示を見て、僕の心は飛び跳ねた。
わけがわからない。僕を知ってると言うことは僕のクラスメイトだろうけど、連絡先を交換したことなど誰1人としてなかった。しかも、僕を最低なやつだと思い込んでる。クラスメイトにクズだと思われるようなことは何ひとつやってないので誤解だ。
誤解を解くために、僕は慌ててメッセージを送った。
『人違いだと思うよ。僕は何もしてない。』
すると、すぐに既読がつき、新たなメッセージが送られてきた。
『しらばっくれるのか、とことんゴミなんだな。なんでお前なんかを新崎さんは好きになったんだ。意味がわからん。』
このメッセージを見てギョッとした。遥が僕のことを好きだなんて誰も知らないはずだ。そんなそぶりを学校で見せたことがない。
頭がパニックになる。その時、遥のある言葉がチラリと頭をよぎる。
(こんなこと、本当はしたくなかったんだ。君が傷つくところを見るのは嫌だから。でも、君が私から離れていくなら、もうやるしかない。本当に残念だよ。)
首を振り、悪い考えを否定する。
(僕は、何もされなかったんだ。きっと諦めてくれただけだ。何もされてるはずはない。)
自分を必死に説得し、落ち着かせる。これ以上、悪い"妄想"が膨らまないように、メッセージを打つことに頭を専念させた。
『君の言ってることがわからない。僕が何をしたって言うのか教えてくれ。後、新崎さんは関係ないだろ。話に出さないでくれ。』
そう送って、返信を待つ。1分も経たずに新たな通知オンがなった。急いで開いて送られてきたものを確認する。するとそこには、
『コレを聞いても同じことが言えるのか?』
と言うメッセージと共に、音声ファイルが送られてきていた。
なんだかものすごい嫌な予感がする。この音声ファイルは開いてはいけない気がする。開いたらきっと後悔すると頭が訴えてくる。
でも、開かないと話が進まない。僕は思い切って、そのファイルを開いた。
そこには、30分弱くらいの録音されたものが入っていた。それが、別に変なものじゃなかったらどれほど良かっただろうか。でもそんな希望は打ち砕かれた。
(なんだ...コレ.....)
その音声は、ドンという、衝撃音から始まった。その後は、ただただ泣きながらやめてと懇願する女の子の声と、ひたすらその女の子の嫌いなところを言い続けてる男の声が入っていた。
その声のどちらにも、僕は聞き覚えがあった。
それもそのはずだ。
だって...
この声は僕と、遥ものだったのだから。
この音声を聞いた時、僕は悟った。
コレが、自分の気持ちに嘘をついて、遥を傷つけた罰なのだと...
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