高校1年 慎二編 自分とのたたかい

幽霊に怯えながら眠りについた次の日。

僕はいつもよりだいぶ早めに目が覚めていた。昨日のことがあってからか、冷や汗がすごい。パジャマがびちょびちょになっていた。それにズボンが少しずれ落ちてもいた。

なんだかだるい気もする。幽霊の仕業だと思うと気が遠くなる気がしたので、これらについて考えることはやめた。


こんな最悪な目覚めをいままで体験した事があるわけもなく、僕の気分はどん底まで落ちていた。朝になっている今でも、近くに幽霊がいるのではないか内心ビクビクしている。

汗で濡れている今の状態じゃ気持ち悪いし、風邪をひくかもしれないからシャワーを浴びに行きたかった。しかし、昔見たホラー映画の「風呂に入っている途中に襲われるシーン」を思い出してしまい足がすくんだ。


 このままじゃ何もできないと思い、スマホにかけ寄り、手に取った。あまりに慌てていたので、ベッドの上に置いていたはずのスマホが床の、しかもベッドから結構離れているところに落ちていたことを気にすることは無かった。

 とにかく怖さを間際らせるために、急いでサファリを開き「幽霊 祓い方」と調べる。

出てきた検索結果を上から順に漁っていき、出来そうなこと かつ 多くのサイトで取り扱われているものを1つだけやってみた。


それは部屋の隅っこに塩を置くというなんともありきたりなものだった。正直効くのか怪しい。でも僕は藁にもすがるような思いでその対処法を行った。


 寝室、リビング、風呂場の着替えるところ、トイレなどなど自分の家の至る所に塩を置いた。なんだか変な達成感を得た僕は幽霊への恐怖心がうすれて、なんとかシャワーを浴びることができた。


 そん感じで幽霊とのバトルを行なっていたら、いつのまにか家を出る時間になっていた。早めに着くように設定している時間ではあったが、いつも家を出てる時間に家にいるという事実が僕を焦らせた。


 ダッシュで冷蔵庫の前に行き、昨日夕飯と一緒に買っておいたサンドウィッチを口に頬張り、制服を着て、急いで家を出た。


 めちゃくちゃ走ったからか、なんとかいつもついている時間から5分遅れたくらいのタイムで学校に着くことができた。あまりいつもの時間と大差なかったので時間には余裕があった。さっきまで焦ってヒィヒィ言っていた心を一度落ち着かせ、玄関に行き上履きに履き替え、ゆっくりと教室へと向かう。


 僕の教室は三階の端にある。そのため、5分くらいただただ歩くだけの暇な時間が出来る。僕はその間、昨日遥に起きた変化について考えていた。


 僕と別れた次の日に急変してしまった遥。別人にでもなったかのように光を失った瞳。明らかに化け物みたいに力が強くもなっている。前はよく話していたクラスメイト達を無視し続けてもいた。


 彼女はもう学校にいる頃だろう。昨日の朝、彼女は僕にいきなり掴みかかってきた。

今日も何をされるかわかったものじゃない。

好きな人になら何されてもいいという人はいるけれど、僕は痛いことをされるのは嫌だ。

だからこそ教室に入って彼女を見るのが少し怖いし近づいてきてほしくない...


それになるべく接しないとも決めてるから彼女からの接触はなるべく避けないといけない。だからこそ何か対策をしなければならない。まあ今日はもう無理だけど...


 


こんな感じで遥への対策を考えながら歩いていたら、一瞬で時間は過ぎていって、いつのまにか僕は教室の扉の目の前に立っていた。




 とりあえず今考えられることは、遥が昨日以上にヤバくなっているという可能性だ。

たった一日の間に人があそこまで変わるのなら今日もその変化があってもおかしくはない。つまり、遥がより闇堕ちしている可能性もあるわけだ。そんな状態の元カノと会う覚悟を決めないといけない...


 


 そうわかってはいても、なかなか覚悟を決めることができず、扉を開けることができずにいた。別れを告げる時に勇気を全て使い切ってしまった僕が扉を開けることなんてできるはずがなかった....

扉の前で棒立ちになってしまった僕はただただ無駄な時間を過ごした。













「何してんだ?アイツ」


「さあ?知らねw聞いてみれば?w」


「やだよw」


 結局、僕が扉を開けることはなく、登校してきたクラスメイトによって開けられることになった。僕の横を通り過ぎたクラスメイト達の目は不審なやつを見る目をしていた。

僕のことを笑いものにしていて少し腹が立ったが、今回に関しては僕が完全に悪いし扉を開けてくれたので、仕返しみたいなことはせずにただただ彼らから距離をとった。


 「ふぅ...」




深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


大丈夫だ。決して襲われる訳ではないはずだ。それに現状を把握することは大事だ。何より彼女がああいうふうになったのは僕のせいなのかもしれない。だからせめて現実から目を背けないようにしないといけないのだ。









....覚悟は決めた。一歩また一歩と教室へと近づいていく。

















いつのまにか湧いていた少しの勇気と共に、僕はついに教室の中へ歩みを一歩進めたのだった。




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