第8話 手紙 〜ネイマの季節〜
ウェンリー子爵家 執事 ザック・マルク・レーゲン殿
陽光の季節、恵雨祭が終わり、始祖ネイマの季節、感謝の奉納品を考える時期となりました。
毎年ザックから貰うばかりでしたので、今年はわたしから。そちらに向かう隊商に預けたので季節が変わるまでには届くかと思います。
ブラッド辺境伯家の紋章が入った箱に、海竜の骨で作られたペン軸とペン先を、わたしが編んだペンケースに入れて送りました。
オスカー様にも見立てて頂いていて、とても良い品質なのは間違いなく、魔道具としても使えるほどだそうです。
それと、わたしからオスカー様へは自分で編んだ飾り紐を渡したのだけれど、まだ使っては頂けていません。
最近はそのことを考える時間が増えています。
ペンが届いたら使い心地を教えて下さい。
海の見える部屋からザックの健康を願って。
ジェラルド・ウェンリーの子 マリアンヌ
◆
ブラッド辺境伯家 マリアンヌ・ウェンリー様
カティアの実が落ち、始祖ネイマの苦難に祈念する日々を迎えております。頂戴致しましたペンにて書き付けていますが、嬉しさのあまり、文字が躍るように少々乱れをみせ、お見苦しいかと。
ご容赦頂ければ幸いです。
鳥の報せから、十日後には隊商が現れ、どうしたことかと思いましたが、隊商いわく、ブラッド辺境伯家の紋が入った品物だから先んじて届けに来たと。
ブラッド辺境伯家の御威光、感じいってございます。
ペンは手に吸いつくように馴染み、離れようとしません。他のペンはもう不要と思えるほどです。
マリアンヌ様へ感謝を捧げます。
オスカー様へも謝意をお伝えしたく、礼状を同封させて頂いております。
マリアンヌ様。ご存知のように
しかし始祖ネイマはそれらを、不死石と同じく使うことはなかったのです。
近年では奉納品は親しい者への感謝の贈り物として習慣化しましたが、古くは無償の愛、思いやりを実現するための願掛けとしての習わしがございました。
始祖ネイマにならい、受け取ったものを手元に置くが使わない、というもので古くから続く一部の貴族に受け継がれております。
また、それらの行為を行なった理由を口にすると成就しないとされていますので、マリアンヌ様におかれましては、どうか心安らかにお待ち頂くのが宜しいかと存じます。
マリアンヌ様の幸福を願って。
ウェンリー子爵家 執事 ザック・マルク・レーゲン
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