第9話
「チュン、チュ、チュン」
「ん?眩しい...。朝か。」
雀の声で目覚めた。詩織は隣でまだ寝ている。やはり気を張っていたのだろう。レスキュー米とインスタント味噌汁でも作っておこう。あ、まだ焚き火の残り火があるな。これで火を起こそう。さて、木の枝でも探してくるか。
そう思って林に入ろうとしたら
「お前が秦野だな?手荒な真似はしない。ついてこい。」
と黒の服に黒の防弾ベスト、黒のズボンの黒ずくめの男二人がやってきた。私は気が付いたら逃げていた。まずはテントの詩織の元へと。走っていると木の根に躓き転んでしまった。その瞬間に麻袋のようなものを頭から被せられ、甘い香りのするガスのようなものを吸ったら意識が遠のいた。
「詩織さん...。詩織さん...。」
気が付くと薄暗い倉庫のような場所にいた。隣には詩織もいた。
「詩織さん、詩織さん!」
と声をかけると
「んん...。あぁ、しゅんちゃん...。あなたも捕まったのね...。一緒でよかった。」
「ところでここは一体...?」
全く見当もつかない場所だった。薄暗い倉庫で柵の中に入れられている。しかしどうやら中国側ではないようだ。中国側だと恐らく拷問やら尋問などあるだろうし、まず柵のそばに兵士が立っているだろう。その兵士がいない所を見ると中国側ではないと考えられる。
すると誰かが近づいてきて声をかけてきた。
「よう、お二人さん。おはよう!」
「お前は!ジョージ!チョン・クィースー!」
「そうだ。駿一。俺だ。ジョージだ。」
「おおおー!何年振りの再会だ!お前に会えて嬉しいよ!ところでお前はここで何をしているんだ?」
「ん?俺か?俺は西日本人民解放戦線のリーダーをやっている。俺たちのような祖国でもない、かと言って中国側につきたくもない、そういう人間を集めて中国人たちと戦っているんだ。日本国籍を持たない俺たちは中国側は兵士として戦わせるからな。だから蜂起したんだ。そんな中『モグラ』の事を聞きつけ、辿ってみたらお前の名前に行きついた。だから中国兵より先に張ってたのさ。ところで『モグラ』とは一体なんだ?」
「『モグラ』とは俺が考えたメタンハイドレート掘削機のことだ。まだ考察中なんだが、格子状の穴が開いたドリルで中でザクザク粉砕するようになっている。初めは電動だが、途中からメタンハイドレートの燃焼で動いていく代物さ。中国側はそのドリルに爆弾をつけて東側に攻撃したいのだろう。」
「そうだったのか。とにかく奴らのトップが拠点としている場所は京都にある。日本の重要文化財がある場所でそこは攻撃しにくい場所だからだ。やつらを叩くなら一度人海戦術でそこから追い出さないといけない。そこでどうやって追い出すか悩んでるんだが、何かいい案はないか?」
とジョージが聞いてきた。
「そうだな...。気体ー液体コロイドでその中にLSDを入れて混乱させるのがいいかもしれない。」
と私が提案した。
「なるほど。それだと文化財も壊すこともないな。あとはスノーパウダーで奴らの居場所を割り出せばいい。」
とジョージが言った。
「スノーパウダー?」
と私が尋ねると
「ああ。これもさっき秦野が言ったようなもんだ。空気中に反射材料になるものを広範囲に散布して、低周波から高周波までの電磁波を出す。そしてその反射から割り出される時間などから周囲の形や物の場所を詳細にモニターに映し出すことができるんだ。これがあれば突入は容易い。」
「なるほど。」
「しかし西日本人民解放戦線に人がまだ足りない。それ相応の人を集めなければ。」
「それなら私の出番ですわ。」
と詩織が言い出した。
「私の携帯を返していただけないでしょうか?」
と詩織が言うと、ジョージが
「携帯が繋がっていると居場所が割れる。」
「そんなことはないわ。あれは高度に暗号化された衛星電話ですから大丈夫です。爺に電話をさせてください。そうしたら水面下で人員を確保できます。」
「で、お嬢さんは何者なの?」
とジョージが尋ねると
「私はJapan Fluorineの社長令嬢ですよ。それなりに伝手はありますわ。」
「そういうことか。それならば期待もしていいか。しかしイスカリオテのユダには気を付けろよ。」
「承知いたしました。」
「あとは各々の備えをし、来る日を待つだけか。」
3人は決意を固くするのであった。
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