第8話
秦野と詩織は屋敷に急いで戻った。
「爺、何か連絡はあった?」
詩織が急いで連絡の有無を確かめた。
「はい。何かしら秦野を探しているという一報がありました。」
「そうですか。では、うちのワイン蔵の地下通路から郊外へ抜けましょう。」
と詩織が言ったので、思わず
「え?そんなのあるの?」
とびっくりしてしまった。
ひとまず二人は地下通路を通ることにした。
「うわ、蜘蛛の巣やネズミなどがたくさんですね。」
と私が言うと詩織が
「これくらいは想定ないよ。ウフフ。」
と微笑んだ。なんとなく男気のない私は恥ずかしくなった。
しばらく歩いていくとうっすらと光がさす天井のところに着いた。
「これ、動かせるかしら。」
「やってみます。」
その辺にあった棒でぐりぐりと天板をつつきこじ開けた。眩しい光がさしてきた。
外を見渡すとどうやら湖畔の草原のようだった。青々とした草原と白樺の樹が湖とコントラストを織りなす美しい場所だった。
「綺麗な場所ですね。」
と私が言うと
「そうね。私が一番好きな場所なの。しゅんちゃんと見れてよかったわ。」
と詩織が遠くを見るように言った。恐らく彼女の多くの思い出がこの場所にあるのだろうなと察しはついた。
「それよりこれからどうします?詩織さんまで巻き込むことはないのですよ?詩織さんは帰ってください。」
と私が言うと
「ここまでついて来させて何をおっしゃるの?私も一緒に逃げるわ。ついてきて。近くに我が家の別荘があるから。」
「いえいえ、そこまでお世話になるわけにはいけません。本当に私一人で大丈夫ですから。」
そう言うと
「私に恥をかかせる気なの?」
「はあ、ええと、そんなつもりはないです。はい。」
「じゃあ私に任せてちょうだい。別荘だと足が着くからそこにあるテントを持って行きましょう。」
「そうですね。そのほうが安心ですね。」
お嬢様育ちの割に結構しっかりしてんだよな、この人は。などと思いつつテント一式と保存食を持ち出して近くの山まで登って行った。
そしてテントを張り、夜になった。焚き火を二人見つめていた。すると詩織が
「こうやってよく父とテントを張って焚き火をしてたわ。母は幼い頃亡くなって、父が私の面倒を見てくれてたの。父は技術者でとても忙しくしてたわ。それでもわずかな時間でも私のために時間を割いてくれたの。とても嬉しかった。そしてとても誇らしかった。でも今は中国軍が己が利益のためにずっと父を監視し、酷使してるの。許せないわ。本当にいつ死んでもおかしくないぐらいの扱いらしいから。私は奴らを本当に憎んでる。だからしゅんちゃんが逃げることに力を貸したくなったのよ。」
と初めて彼女が自分の本音を吐露したように感じた。普段の彼女はあくまでお嬢様を演じているに他ならないのであろう。芯が強く、信条を持っている。
「そうなのですね。私は本当に流されて生きているタイプなので、詩織さんがとても強い人ということがよく分かりました。私のような者に力を貸していただいてありがとうございます。」
「ところでしゅんちゃんは中国軍に追われる心当たりはないの?」
「う~ん。」
「あ、ちょっとまって、爺から電話!」
「爺、何か分かったの?」
「ええ、お嬢様。何やら奴らが探しているのは『モグラ』というものらしいです。」
「モグラ?」
「あ!わかった!」
と私の頭の上の電球が光った。
「爺、ありがとう!また何かあったら連絡ちょうだい!」
と詩織は電話を切った。
「どういうこと?何が分かったの?」
と詩織が問うと
「私が書いた論文にモグラとなずけたメタンハイドレートの掘削機があるんだ。それは地底を掘削しながら、掘削したものがある程度貯まるとガスを噴射して、そのガスで海面まで浮かんでくるっていう論文なんだ。でも恐らく奴らが目を付けたのは掘削機の方だろう。地上から攻撃できないなら海底から攻撃しようって腹なんだろう。」
「なるほどね。その掘削技術を知りたいわけね。」
「でも肝心な掘削技術は今のところ考察中なんだ。だから曖昧に書いてあるんだ。そこら辺のことを調べているんだろう。」
「しゅんちゃん割と凄いことしてたのね。」
「え?なんですかそれ?バカにしてました?」
「ウフフ。そんなことはないわ。今日はもう寝ましょう。」
そう言って二人はテントで野営した
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