5話 琴崎とじれあまな道中
「(……ごちそうさま)」
ファミレスから出ると、琴崎は満足そうに腹を摩りながら俺の耳元で呟いた。
「(洸太は何も食べなくてよかったの?)」
「逆に俺が食べるって言ったら、ピザ分けてくれたのか?」
「(……分けない)」
だろうな。
琴崎はその物静かな見た目や雰囲気からは考えられないくらいのスピードで、パクパクモグモグとハンバーグやピザを平らげてたし。
「(ライブ前の栄養、大事)」
「え? でも琴崎はコーレスとかしないだろ?」
「(……する)」
そのウィスパーボイスでコーレスはキツいだろうに。
プラチナブロンドの長い髪をゆらゆら揺らしながら俺の隣を歩いていた琴崎は、足を止めると一呼吸置いた。
「(…………)」
「こ、琴崎、さん?」
「(……き、キミが邪魔で、声が出ないだけだから)」
「俺が邪魔で声が出ないってなんだよ」
「(……教えない。このアホちん)」
琴崎はふんっと鼻を鳴らして前を歩き出した。
アホちんって……ちょっと可愛いな。
「(なに照れてんの? キモイよ)」
「キモっ……て、また徐々に毒が回ってきてるぞ」
「(キモイ顔はしてた)」
「おまっ、普通に悪口だからなそれ」
「(……でも、今日はキミが隣にいるからコーレス無理かも)」
「そういや、琴崎っていつもは一人でライブ行くのか?」
「(うん。そうじゃないと心置きなく推せない)」
ソロの推し活が好きな人はいると思うが、一人じゃないとコーレスできないって理由の人は初めてだ。
「(自分のこと知ってる人に声聞かれるの……やっぱり恥ずい)」
さっきも俺が声を褒めたらそんな事言ってたな。
「声に、コンプレックスがあるのか?」
「(コンプレックスではない……けど)」
「けど?」
「(昔のわたし、声は褒められたけど見た目が地味で恥ずかしかった。だから、見た目が相応のモノになるまで喋らないようにしてたら、今度はしゃべるのが下手になってた)」
な、なんだ、それ……。
要するに、声は昔から褒められてたけど、見た目が釣り合って無かったから、今度は見た目に気を遣っていたら会話が苦手になってたってことか?
地味な見た目を変える努力……すっげぇ成功してるけど、その間全然喋らなかったって、どうしてそうなる。
「琴崎って……不器用なんだな?」
「(うっさい)」
琴崎は青色のネイルでデコピンしてくる。
「(けどキミ……洸太の前なら、わたしもパーフェクトフォルムでいられる)」
「なんだよパーフェクトフォルムって」
「(見た目も喋りも完璧な自分。ドヤぁ)」
うっざ……いけど、実際見た目はクッソ可愛いし、エロ可愛いギャルだし、声も良いし、見た目とギャルと声の三拍子が揃ってるんだよなぁ。
「じゃあ、これからはみんなの前でも話せるだろ? あとこの後のコーレスも」
「(それは……恥ずいから)」
「自信家なのか恥ずかしがり屋なのかハッキリしろ」
「(ウッザ。ちょっと話してあげただけで彼氏ヅラしないで)」
「してねえっつの!」
隣同士、カップルみたいな距離感で会話しながら歩いてきた俺たちは、会場の前の列に並ぶ。
「(……そうだ。チケ代払うの忘れてた)」「いいよ。元々一緒に行く予定だったヤツが金とかはいいから空席は作るなって言ってたし」
「(ダメ。ちゃんと払う)」
琴崎は律儀にも俺の懐にチケ代が入っている封筒を押し付けてきた。
「(わたし、チケット取れなくて絶望してた。でも、キミの呟きのおかげで助けられたから……これは、感謝の気持ちもある)」
「琴崎……俺も、お前みたいな可愛い子とライブを観に行けて普通に嬉しいよ」
「(か……かわっ⁈)」
「だってお前の呟き見てたら、ヤバいおっさんかと思ってたから尚更そう思ったし」
「(むぅ……っ!)」
琴崎は少し頬を膨らませながら、俺の耳たぶを思いっきり引っ張ってくる。
「い、いだだ! やめろよ琴崎!」
「(もう口きいてやんない)」
「な、なんだよそれっ!」
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