4話 琴崎の照れ顔
「俺、一応琴崎のクラスメイトなんだけど?」
「(それはさすがに知ってる、えっと、鈴木くん?)」
「真田だよ! 当てずっぽうで呼ぶな!」
「(下の名前は?)」
「こ、
琴崎はボーッとした顔で俺の顔を見つめながら「こうた」と呟いた。
「……(じゃあ洸太は)」
名前呼び、なのか……。
やっぱギャルなだけあるな。
「(いつからあやりんのオタクなの?)」
「中2、くらいかな」
「(あやりんのこと、どれくらい好き?)」
「一応、最推しだけど……」
琴崎は目をパチパチして、不思議そうな顔で見ていた。
「(あやりんを最推しにしてる人って、わたし以外にもいるんだ……)」
「当たり前だろ!」
まさかこいつ、自分だけがあやりんを推してるとか思ってたのか……? さすがにボケだよな?
でもフォロワー0人だったし、一人で推し活してたくらいだからな。
「(洸太はあやりんのどこ好き?)」
「好きなところなんてどれだけ挙げても足りないくらいだけど……そうだなぁ、あの天使の歌声とか、ロリキャラにマッチした甘え声とか」
「(……うんうん)」
琴崎は目を輝かせながら俺の方を見る。
推しの話になるといつもの鉄仮面が崩れるんだな……。
「琴崎はあやりんのどこが好きなんだ?」
「(わたし?)」
「お前のSNSの呟き見たけど……異常なまでに好きみたいじゃないか」
シコいとか言ってたし。
「(か、勝手に見るなこの変態。クズ)」
囁きながら毒を吐く琴崎。
照れ隠しのようにも思えたが、どこか殺気も感じた。
「SNSに上げてるなら見てもいいじゃんか」
「(それは……そうだけど)」
「琴崎はあやりんのどこが好きなのか、教えてくれよ?」
俺がそう問いかけると、琴崎は一口お冷を飲んでからまた俺の耳元に顔を近づけた。
「(全部好き……声も仕草も顔も名前もルックスも性格も、全部、全部……)」
「へ、へぇ……」
「(特にデビュー時の校庭の庭で遊ぶ少女Aの演技は〜〜)」
そこから琴崎は長々と俺の耳元であやりんの好きな所を囁いた。
俺はあやりんが最推しだが、琴崎の場合は好きの度合いが違いすぎるように思えた。
なんていうか「好き」が重い。
「(あやりんの美声のおかげで……永遠に眠れる)」
どうやらあやりんの声は無口ギャルを永遠の眠りに誘う力があるようだ。
「あやりんはもちろんだが、琴崎もいい声だと思うぞ?」
「(え……?)」
「今日、初めてお前の声を聞いたけど、めっちゃいい声してる。透明感があるというか、一度聴いたら頭に残るっていうか」
「(……っ!)」
俺が褒めたら、琴崎は急に席から立ち上がり、ドリンクバーの方へ歩いて行ってしまった。
「やべぇ……もしかして今の、地雷だったか?」
よく考えたら、琴崎が無口な理由とか知らないし、何か深い理由があるなら聞かない方が良かったかもしれない……。
俺は琴崎が戻ってくるのを席で待っていると、琴崎はメロンソーダの入ったコップと、氷がパンパンに入れられたコップを持って席に戻ってきて、氷のコップを顔に当てる。
「こ、琴崎? もしかしてさっきの、怒ってるのか?」
「(……ばか)」
「ご、ごめん! 悪気があったわけじゃ」
「(違う)」
「え?」
「(わたしの声、褒めるのは禁止。褒められると……顔が赤くなっちゃうから)」
琴崎の頬はほんのり紅潮しており、氷のコップでそれを冷やしていた。
もしかして、嬉しかったのかな。
「お待たせしました! チーズハンバーグステーキとベーコンピザでーす」
ウェイトレスがテーブルに料理を置くと、琴崎は黙々と食べ始める。
琴崎なりの照れ隠し、のようにも思えた。
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