3話 琴崎舞音の秘密03


 あやりんLOVEとプリントされた痛Tの裾を結んでヘソが丸見えで着ている白金髪のギャルが俺の背後に立っていた。

 彼女は俺のクラスメイトで無口ギャルとして校内で有名な琴崎舞音。

 クールで少し怖さすらあるギャル美少女。


 そんな彼女のイメージが今、ぶっ壊された。


「……(ギロッ)」


 豊洲のライブ会場までの道を二人で歩いていると、痛Tを堂々と着ている琴崎が俺の方を睨みつけてくる。

 何考えてるか分からないし、何であやりん推してるのかも理解不能だし……。


 それにしても……。

 俺はゴクリと唾を飲み込む。

 童貞陰キャオタクの俺は、琴崎が着てるTシャツの胸元の膨らみにばかり目が行ってしまう。

 白いTシャツが透けて見せブラのチラチラと見えるのが、なんていうか……えっろ。


「(……何見てんの?)」


 琴崎は隣を歩きながら、俺の耳元に顔を近づけて言う。

 話しかけるたびにわざわざ顔を近づけるのはやめて欲しい。

 そんなに近づかれたら心臓に悪いし、琴崎の香水が良い匂いすぎて……。


 スタイル良くてエロいし、良い匂いするし……俺は興奮で頭がおかしくなる。


「(……聞いてる?)」

「あ、えっと……さ!」

「(?)」

「ま、まま、まだライブまで時間あるし、どっか近くの店寄ってく?」

「(は? お店?)」


 な、なな。

 な、何言ってんだ俺ぇぇぇぇぇえええ!!!


「(キミ、もしかしてナンパ目的?)」


 琴崎は苦い顔で言う。

 やべぇぇ助けてくれ安原……っ。

 女性経験0の俺にギャルと二人でライブは無理だって。


「ち、違う違う! ナンパとかじゃなくて、琴崎とあやりんの話したいなぁって」

「(わたし……と?)」

「うん。だって俺たち、オタクとしてまだお互いのこととかよく知らないわけだし……」

「(………)」


 琴崎は苦い顔から一転、なぜか少し口元を緩めながら前方にあったファミレスを指差した。


「(キミが奢ってくれるなら……そのナンパ、乗ってあげても良いかな)」

「は、はいっ! 喜んで!」


 陰キャすぎて敬語が飛び出した。


 ✳︎✳︎


 ファミレスに入ると、店内はあやりんファンと思われる格好のオタクがチラホラいるだけで、結構空いていた。

 普通二人で席を座るなら、向かい合って座るものなのだが……。


「お好きな席にどうぞー」


 と言われ、琴崎は真っ先に四人掛けテーブルの奥の席に座ると、自分の隣の椅子をポンポンと叩いた。

 隣に座れという事なのだろうか……。


 二人でファミレスに来たのに同じシートに隣り合わせで座るとか。


「あの、俺、向かいの席に座っても」

「(こうしないとキミに耳打ちできない)」

「ええ……」


 まあ、確かに会話するたびにテーブルから身を乗り出して耳打ちするわけにもいかないもんな。


「お水をお持ちしま……ふふっ」


 水を持って来たウェイトレスに小さく笑われてしまう。

 こんな四人席にわざわざ隣同士で座ってるから、きっとバカップルだと思われたんだ……は、恥ずい。


「(ねぇ……ドリンクバーとチーズハンバーグステーキ、あとベーコンピザチーズマシマシで頼んで)」


 ハンバーグとピザ⁈

 ら、ライブ前なのによく食うな……。


「ご注文お決まりでしょうか」


 水を持って来たウェイトレスがそのまま注文用端末のハンディを取り出して訊ねてくる。


「えと、チーズハンバーグとベーコンピザの、チーズ多めで。あと、ドリンクバー二つ」

「(キミ、もっと食べなよ)」

「お、俺はいつもライブ前とか食べないし」

「(男子なのに?)」

「男子とか関係ないから」

「(ふーん……胃袋弱いんだね)」


 胃袋の強弱関係ないだろ。


「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「あ、は、はい」


 俺が軽く頭を下げながらそう呟くと、ウェイトレスはキッチンの方へ下がっていった。

 隣に座る琴崎はお冷をチビチビ飲みながら、左隣に座る俺の横顔を見つめてくる。


「(ずっと、気になってたんだけど)」

「へ?」


 気になってた……?

 一体、な、なんのことだろうか。

 もしかして琴崎、実は後ろの席の俺のことをずっと"気になってた"とかいうオタクとギャルのラブコメ特有の展開⁈


「(キミの名前、教えて)」


 そっからかよっ!!

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