1話 琴崎舞音の秘密01
俺、真田洸太は普通という言葉がよく似合う男子高校生。
好きなものはアニメやゲーム、あと声優なんかも推してる所謂オタクという生き物。
高校入学から1ヶ月が経とうとしており、少しは陽キャになりたいと願っていた俺だったが、根がオタクな人間が高校デビューなんか成功するわけもなく、俺はクラスカーストの3軍でベンチを温めるモブ男子になっていた。
「なあなあ真田。今日も琴崎嬢はキレキレの無視っぷりだな?」
「あ、ああ……」
俺の後ろの席に座る親友の
彼もまた俺と同類のオタクのフツメン男子。
俺たちみたいなオタクは、学園のアイドル的存在の琴崎みたいな美少女ギャルをヒソヒソ言い合うくらいのモブキャラでしかない。
脱モブキャラを掲げて高校に入ったものの、結局は陰キャなんだよな……。
「どうした真田? 浮かない顔して」
朝のHRが終わると安原が移動教室の教材一式を持って俺の机に来た。
「いやさ、琴崎みたいな美人が前の席にいると、異性とはいえ俺たちみたいなオタクは劣等感覚えるだろ」
「考えすぎだ真田。オタクに優しいギャルは存在する」
「そういう話をしてるんじゃない」
1限が移動教室ということもあり、琴崎が教室から出て行くのをぼーっと眺めながら、俺も準備を進めた。
「真田。ここは一つ、琴崎嬢に告白して一発逆転を狙うのはどうだ?」
「琴崎と付き合うとか無理ゲー過ぎるだろ。そもそも、無口な女とどうやって付き合うんだ?」
「それは……まあ、確かに」
琴崎舞音は美人でスタイルもいいのに愛想がなく無口なことで有名なギャルだ。
後ろの席の俺でも当選、話したことも挨拶すらしたこともない。
「でもこの前、3年のサッカー部の先輩が、琴崎に告ったらしいぜ」
「マジかよ……結果は?」
「言うまでもなく返答ナシ」
告って無視されるくらいなら、玉砕した方がマシなのに。
「まっ、俺たちには"あやりちゃん"がいるんだし、琴崎嬢のことなんか忘れようぜ兄弟!」
「琴崎の話題はお前が言い出したんだろ」
「週末のライブ楽しみだよなー?」
「それは確かにそう……だな」
俺たちには推しがいる。
オタクの精神的支柱は間違いなく"推し"だ。
リアルの女子みたいな汚い所が全くなく、いつも笑顔の推し声優を見ているだけで心が安らぐってもんだ。
クラスカースト三軍の俺たちでも、ちゃんと生きる楽しみがあるんだからそれでいい。
それに琴崎みたいなツンケンした女よりも愛嬌があって可愛い推しの方が何倍も……いいに決まってる。
まあ……推しとは恋ができないんだが。
✳︎✳︎
週末になった。
推しのライブへ行く時は、推しとデートする気持ちで行くべきだ。
俺は陰キャながら髪をワックスでセットして、そこそこ流行な服を着てからオタグッズをリュックに詰める。
安原との集合場所は豊洲駅。
俺は充電していたスマホのコードを抜いてポケットに入れようとしたが、安原からlimeの通知が来ていることを今知った。
『安原:悪りぃ。熱39度』
どうやら安原が熱を出したらしい。
安原から体温計の写真とオンラインチケットのQRコードが送られて来た。
『安原:当日だから厳しいかもだけど、SNSとかならワンチャン貰い手が見つかるかもだから後処理頼む〜(土下座)』
というlimeと一緒に、土下座のスタンプが届いた。
推し声優である"
SNSでチケットの取り引きか……。
一応、俺も推し活用にSNSのアカウントを持っているが……フォロワー50人とかだからなぁ。
ダメ元でやってみるか?
俺は今日の向日葵あやりのライブチケットが余った旨と、チケットの取り引きがしたいことを書き込んで呟く。
まあ移動しながらのんびり返答を待つことに——しようと思ったその時だった。
『ピコンっ』
SNSに呟いて2秒で反応があり、
『DMで取り引きお願いします』
と、やけにクールな返答があった。
アカウント名はK@LOVEあやり……。
フォロー数1(向日葵あやり公式アカウントのみ)、そしてフォロワー0という、まるで捨て垢みたいな推しアカウントだが、呟いた数は約1万件。
いいね0の投稿ばかりしてるのに、あやりのライブとか出演する作品のこととかめっちゃ呟いている。
俺のフォロワー50人には含まれていないので、全く絡んだことのない人だが……大丈夫だろうか?
俺は一抹の不安を抱えながらも、DMで取り引きを始める。
最終的に、俺とその人は会場の最寄駅である豊洲駅で待ち合わせすることになった。
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