クリーニング店からワイシャツをハンガーのまま持ち帰る人

18:48

 駅を出てすぐのクリーニング店は価格が高くなく安くもなく対応も特別良くはないけれど、帰路から10歩逸れただけで仕上がった服を受け取れるので納得している。

 8月も3週目の月曜夜、外に出ている人の数はいつもより少なくて、線路の高架に沿って伸びるレンガ敷きの道を風が楽々とすり抜ける。

 地上に吹き下ろした風は横断歩道の白線を撫でパチンコ店の入口に流れるヱヴァンゲリヲンのテーマ曲を乗せ、スーパーの自動ドアから出てきた小学生が保護者に何か話しかけようと振り返った店内から冷風をめいっぱい取り込み、付近で稼動する室外機のいくつかから生暖かい空気もミックスしてから、手に持ったハンガーのままのワイシャツを覆うビニールをカサカサと震わせる。

 先週までこの時間でも明るかった空はもう深い青だ、日が暮れるのがぐっと早くなった。横を見ると移動パン屋の夜の半額セールは終わりかけで、その先の犬小屋の主はすでに家の中に入れてもらった様子だ。俺も家に帰ろう。

 ものの3分でたどり着く2階建ボロアパートの階段を上がった先の角部屋は内装だけは意外と綺麗で、壁だけでなく備え付けクローゼットの中も白い。手に持っていたワイシャツをクローゼットへ引っかけ、カバンをその下に立て掛け流れるようにズボンのベルトを外しS字フックへ、段上のリモコンでエアコンのスイッチを入れて、脱いだズボンはそのままクローゼット内のプレッサーに挟むと、残りの洗濯物は玄関横へ戻って洗濯カゴヘ。

カゴから振り返ってトイレに寄りシャワーを10分ほど使ったら冷蔵庫から麦茶のボトルとグラスを取り出した。

座卓にゲーム用のノートパソコンと共にセット、再度クローゼットに行きズボンプレッサーの退勤を確認して、掛けてある部屋着の中からお気に入りを取り出すと、両側から扉を閉めて封印した。

 今日はこのあと注意報が出ているから、来たる感情の波に備えるのだ。

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