さいごのころし。ばれても、いい

「ほら、おりろ」

「……」

「ん? まだ反抗しようとしてるの?」

「黙れ、クソガキ」

「……だまるのは、お前だろうが」


 ゴミのはらに一発入れる。苦しそうにうめきせきこむそいつを力づくで台車に放り込んで、いつものとこへ運ぶ。こんなものでは心が満たされることはとうていないけれど、しないよりはましだ。

 あのころと違って、ぼくには今こいつに対抗する力がある。こいつに殺されてきたみんなのうらみを晴らすけんりがある。


 はしごの口からゴミを投げ入れて自分も重厚に作られた口をていねいに閉じながら中へ入り込む。しかいにうつるのは、見なれたミートチョッパーとあの夜とまるで逆の光景。こどうが速くなるのを感じながら、この日のために行ってきたはずの、かこの出来事達がせすじを伝う。


「チッ、今のお前を見てお前の親はどう思うかな」

「……お前に殺されてんだよ、クソがッ!!!」

「いっ、てぇ!!!」


 手元にあった小がたナイフでうでに浅い切り込みを入れる。まだ殺すのには早すぎる。こんなゴミクズでもしんちょうに、ていねいにあつかわないと。


 はやる気持ちをおさえつけて、ゆっくりとゴミに向かって話かける。


「ねぇ、『さるゆめ』って知ってる?」

「『猿夢』? チッ、やっぱり……」

「へー知ってるんだ」


 どうやら、こいつは多分ぼくのしたい事に気が付いてるみたいだ。

 サプライズしようと思ったのに、とことん人をふかいにさせるやつだな。


「じゃあ、今から何やるか分かるよね」

「……クソが!!!」


 わめきたてているゴミクズをけとばして、今よりも身動きが取れないようにする。かべにかけてあるのこぎりを手に取る。


「次は活けづくり~活けづくり」

「……ぁ、あぁあっ!!!」


 何ともこぎみの良いきんぞく音をたてながら手にすいつくようにフィットした得物をふりかざして切り込みを入れようとした時、ふっと冷静な思考が頭の中をかすめる。多分、出血多量で死ぬし。ほうたいがいる。


「んーと」


 今まで、別に長時間いたぶるようなまねはしてなかったから止血用の道具をもってない。面倒くさいけど、買ってこないといけないか。


「……」


 ゴミをいちべつするけれど、とても身動きが取れるようなじょうたいではない。少しくらい放置してもいいかな。一応、しばってる縄を鉄格子の一柱にだけはくくりつけて置く。もし不注意で脱走されるなんてことがあったら、今までのぼくのしてきたことが全て無駄になってしまうから。


「止血用のほうたい買ってくるから。楽しみに待ってて」

「お、おい!!! クソッ! 俺を放置してくんじゃねぇ!」

「うるさい」




 彼は特に何の感情も抱かずに目の前の彼にとっての蛆虫のような男の土手っ腹に一発鋭い蹴りを入れつつ、包帯を買いに行く為に上へ上って行く。


「はぁ……はぁ……糞がッ!!!」


 しかしこの時の彼はまだ把握しきっていなかった。彼が見下している男がどれだけ狡猾であるかを。


「こんなもの……いってぇっ!」


 あの夜、間違いなく一番の悪であった男一人だけが警察の手から逃れた理由を。


「関節外したの……久しぶりだな、クソガキ……」


 自分で自分の顔を整形でき、縄を外すために関節を一時的に外すことができ、檻に閉じ込められていても錠の弱い部分に衝撃を与え続けて確実に脱出が出来るような学がありながら狂気を持ち合わせた人間である事を。包帯を買いに行った彼はまだ、知る由もなかった。


「それにしても、折角の人肉がこんなに腐らせてちゃ無駄じゃねぇか……なぁ?」


 男は誰に問いかける訳もなく、壁に掛けられた凶器をミートチョッパーに入れ処理しながら一番扱いやすそうな得物だけを懐に入れて外へ脱出する。幸か不幸か彼と男が鉢合わせることは、無かった。


○●○●○●○


「ねぇ聞いた? 近頃警察の人達がこの辺に捜査網敷いてるみたいよ~?」

「あら、そうなの~!? その話ちょっと聞かせて頂戴よ!」


 ん……流石に、ここまではでに人がいなくなったら事件性をうたがうか。それにしても遅かったな。警察はしょせん、事件性を確定させてからじゃないとまともに動こうともしないのは知ってた。だから痕跡を残さなければ、そうさすらされない。


 それに、ふくしゅうの対象なんてこの辺以外にも沢山いたし、足はつきにくいって思ってたんだけどな。まぁいいや、どうせ。




 次で、終わりだから。




 あいつも、ぼくも。



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