きょうがそがれた

今は12時半ごろ


「一番大好きだいきらいな時間」


今のぼくが生まれた時間

ぼくの人生が変わったあの日の事件の時間


「今日は、空気がすんでいる。そんな気がする」


もちろん本当かどうかは分からない

だけど、やけに星がきれいにもくしできる

たくさんの星たちがいつもよりも強い主張をしている


「ぱぱとまま、あの中にいるかな?」


見ててね、かたきは取るから


「ふぅ・・・よし」


帰るための車はもう準びしておいた

ぼうはんカメラのないルート取りもできている

もうねただろうし、そろそろ入ろう


「死にたくても死なせないからな」


この世で一番むごたらしい殺し方をする


まずは・・・いや

まだいいや

とらぬたぬきの皮算用だったか?そんな言葉もあるくらいだ

用心して、完ぺきに計画をすいこうさせよう


ぼうはんカメラをかいくぐって家の裏に着く

マンションでなくてよかった。マンションはとてつもなく面倒くさいから

特に、あの男のように体が大きいとだるい


「よし」


外側から見ると電気はついてない

さて、入ろう


まどから入ろうか、それとも真正面のドアから入ろうか

幸いなことにどちらもぼうはんカメラには映っていないようだった

ドアの方が入りやすいものの、ばれやすい


「どうしようかな」


迷っていると中からかすかにこえがすることに気が付く


どうしよう、かくれるか?

いや、別に大丈夫だろう

万が一のためにかくれる場所の目星だけはつけておこう


目星をつけたところで、聞き耳をたてる


「ふざけんなぁああ!!!」


うお、なんだ


お前がふざけんなよ


こんな夜中に大声を出すな


ああ、計画がくずれる・・・


早く、早くねてくれ、たのむから早く


もう殺したくて殺したくてたまらないんだ


「もういい!俺は寝る!」


・・・!!!

ねたようだ、これがキセキというものか

神様もようやくふり向いてくれたか


「・・・ふりむくのがおそすぎるよ」


神が振り向いた?ふざけんな。神なんていない

いたとしたならば、まずこんなやつは生きていないはずなのだ

それがおかしいからぼくが殺しに来たわけだ


さっさと入ろう

ピッキングして、ドアのかぎを開ける

ゆっくりと足音を立てないようにすいみんガスを持ってしんしつを探す


「かい段がある家は大体二階にしんしつある」


もちろん絶対ということはない

でも人はなぜかしんしつを二階につくりたがる

これは何回も家にしんにゅうして得られたけいけん則だ


なるべく足音をたてないようにかい段をのぼる


「・・・」


ここか


無言ですいみんガスを入れる


ぼくはマスクをしているから、もちろん大丈夫


「・・・」


やつはねむっただろうか


ドアを開ける


気持ち悪いね顔だ、完全に眠っている


「それじゃあ運び出すか」


何か嫌な予感がする


でも周囲には何もないし、だれもいない


全然大丈夫だ


きょたいを引きずって、かい段まで運ぶ

さすがにかかえて運べないからかいだんから転がり落とす

もとよりかかえる気などさらさら無いが


いっそのこと頭でもうって死ねばいい


もちろん、このあとじっくり苦しんでもらうから。死なせる気は無いけど


「ぁ・・・」

「っ!?」


声が聞こえた


まずい、今落としたしょうげきで起きたか?

いやそんなことは無いはず

でも起きたら面倒くさいから一応こいつの鼻にちょくせつガスをふきこむ


「これで安心だろ」

「ぁ、ぇ」

「ぇ!?」


ちがう、声はこいつじゃなかった


少しきょりの空いた所にだれかが座り込んでいる


すいみんガスとか、そんなゆう長なことは言っていられない


「ぁ」

「・・・ん、お前」


ナイフを持ってずかずかと歩いていく

だけどこいつ、こわがっていない

というかさっきから言語を発していない


「なんだ、お前」

「・・・」


暗やみの中向けられた目は、ひときわ深い暗さを持っていた

鏡でみたぼくと同じ目だった


「・・・」

「・・・」


よく、かんさつすると体中があざやきずでおおいつくされていた

しかも、右うでと左足が無い

けっそんしている


「・・・DV、か」

「ぅ」


おそらく、このきょたいのつまだろう

顔もはれていてまともに口を動かせていない

けっそん修ふく部位もひどいもので、何度もこそぎ落されている形跡がみえる


何度もこそぎ落とされていた理由は、このきょたいがカニバリズムという理由で簡単に説明がつく


初めて仲間が出来た気がした


「死にたい?」

「ぅん」


小さな声でこうていしながら、首をびしょうにたてにふる


ぼくは再びナイフをにぎりしめて、後ろに回りこむ


「気のどくだったね」

「ぁ」


むねの少し左を全力で素早くさす

ちょうど心ぞうの位置だ

ナイフを抜いたしゅんかんにバタっと倒れる


「・・・」


ぼくはまたきょたいを引きずり始める


しんちょうに、ゆっくりと


ぼうはんカメラに映らないようにしっかり事前にかくにんしておいたルートをたどる


今日は最高の一日になると思ったのに


「きょうがそがれた」


あそこまでつまらない殺しは今までに無い


やっぱり、こいつは苦しまないといけない

空を見上げると一つ星が増えているような気がした


「君の分までかたき、取ってあげるよ」


ぼくに任せて

ゆっくり休んでて


「さて」


きょたいを車の後部座席におしこんでエンジンをかける


またゆっくりと、車が動き出した

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る