第4話 瓦礫に埋まる街(その1)
冬祐が乗っているのは定睦奪還作戦の時と同じワゴン車だが、その乗り心地は別のクルマのように快適だった。
同乗しているのが、身長二メートルの箱形ロボットと身長百四十センチ台の翠の違いである。
サダチカ・シティのある山を下りて、海岸伝いのハイウエイを走る。
やがて、市街地が遠くに見えてきた。
ボラガサキ市である。
「ん?」
冬祐が目を凝らす。
ボラガサキ市から数条の黒煙が空に伸びている。
冬祐がいた世界の感覚では、明らかになにかが起きて被災しているようにしか見えない。
それは、由胡の切羽詰まったような仕草と表情に関係があるのだろうか?――冬祐は言いようのない不安と胸騒ぎを覚える。
「あれって普通なのか?」
フロントガラスを指差す冬祐だが、翠は答えない。
「翠?」
再度、呼ばれた翠が慌てて冬祐を見る。
「は、はいっ。な、なんでしょう」
その様子に冬祐は、定睦の言葉を思い出す。
“バッテリーが限界に近い。”
それを翠は知っているのか、気付いているのか。
自覚がなければ伝えた方がいいのか。
少し迷って……伝えないことにする。
伝えたところでどうしようもないのだから。
改めて正面を指差す。
「あの煙って、いつも出てるものなのか?」
無意識に“普通ですよ”という答えを期待しながら。
しかし、翠の答えは。
「そんなはずはありません。ニュースを確認し……」
そこまで言った時、いつのまにか隣の車線を走っていたトレーラーにも装甲車にも見える巨大な車両が幅寄せしてきた。
「なんだ、おい。あぶねえな」
つぶやく冬祐だが、翠は気にしない。
「大丈夫です。車間距離は自動制御されてますので」
「そういう問題じゃなくてさ」
冬祐の心中に不安が広がる。
黒美の仇として白美が襲ってきたように、頼子の手下が報復に来たのかもしれない。
あるいは、欠坂と知佐以外にもホワイト団の生き残りがいて、そいつらが自分たちを逆恨みしている可能性もある。
そんなことを考えて緊張する冬祐だが――装甲トレーラーは速度を上げて冬祐たちのワゴン車を追い越していく。
「無関係だったか」
冬祐は安堵の息をつく。
その直後だった。
装甲トレーラーが、すぐ先でワゴン車の進路を塞ぐように停車した。
冬祐は、改めて噴き出る冷や汗を感じる。
しかし、気付く。
カーキ色のコンテナの側面に大書された、ピンク色の言葉に。
そこに書かれている意味を理解すると同時に、全身から力が抜ける。
「なーんだ」
「どうしたんです? あのクルマにココロアタリが?」
「ああ、そうか。翠は知らないんだな。あれは先生のクルマだ」
“進行方向に現れた巨大な障害物”である装甲トレーラーを前に、冬祐たちのワゴン車が停止する。
そして、コンテナの側面に設えられた扉がぎいと開く。
そこから降り立って親しげに手を振るのは、やはり、さっき別れたばかりの定睦だった。
改めて冬祐は、定睦の背後に停まっている装甲トレーラーのコンテナに書かれた文字を読む。
書かれているのは――“ホーネットはワシのヨメ”。
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