第3話 駆け込み寺の大騒動(その8)
「默網塚白美のとこで、翠たちアンドロイドは砂風呂に入れられてたんだけど……」
「ああ。僕も上から見た」
その光景を思い出す。
大量の砂とともに翠を含めたアンドロイドたちが、鉄壁の中にあるフィールドへ流れ込んだ光景を。
「あの砂って……一粒一粒が
「追跡機?」
「たぶん、ホワイト団がフィールドから逃げたアンドロイドを追跡したり、再捕獲したりするのに使ってたんじゃないかな。“
しかし、それでも疑問は残る。
「いや、でも、ここの場所はわかっても、ここに先生がいるってことまでは……」
ヒメが最後まで聞くことなく答える。
「“砂”にマイクロホンが内蔵されてたんじゃないの。最初に冬祐が
確かに管理庁舎の入口でそんなことをつぶやいた気がする。
「あちゃー、だな」
自分たちがここに災厄を連れてきたらしいことが確定事項となり、冬祐はがりがりと頭を掻く。
ヒメが続ける。
「で、今、先生はカンパーナの本部ビルに軟禁されてるっと。もういい?」
「それだけわかればいいよ。ありがと」
冬祐は、怪訝な表情で自分を見ているアンドロイドたちに告げる。
「先生はカンパーナの本部ビルに捕らえられてるらしいです」
しかし、アンドロイドたちは反応しない。
冬祐としては、ここから奪還作戦に話が進むことを期待していたのだが、そんな気配すらない。
たまらず、周囲のアンドロイドを見渡す。
「いや、あの、助けに行こうとかそういう声は……」
タンクトップのアンドロイドが目を落とす。
「どうしようもありません」
「どうしようもない?」
「私たちには、たとえ、相手がどんな人物であっても、人間である以上は対抗することはできないのです」
アンドロイドだからしょうがないのか――理由を聞いて落胆する冬祐だが、すぐに次の一手を提言する。
「じゃあ、警察へ通報しよう」
そこへタブレットからヒメが姿を現す。
「ただいまあ」
冬祐がヒメに頭を下げる。
「お、お疲れ様でした」
「で、どうする?」
問い掛けるヒメに、冬祐が自案を告げる。
「警察に通報しちゃどうかと思うんだけど」
しかし、ヒメはあっさり却下。
「そんなことしても意味ないと思うよ」
「なんでだよ」
「探してた身内が見つかったことに違いはないから。そもそも、ここに隠れてた先生を親戚が連れ戻したことってなんの罪になるの?」
「ぐぐぐぐ……」
そう言われては返す言葉がない。
しかし――。
「じゃあ、どうするんだよ。翠はどうなるんだよ」
ヒメは不敵な笑みを浮かべる。
「決まってるっしょ。解決策はひとつしかない」
「ひとつしか?」
「アンドロイドたちが動けないなら、人間に任せるしかないってこと」
「人間……?」
「そう。ここにひとりだけいる“先生
冬祐は、少し考えて、それが誰を指すのか理解する。
「……僕?」
ヒメが楽しそうに頷く。
「解体工場から翠を助け出したんだから大丈夫っしょ」
「そんな気軽に言ってくれるなよ」
などと口では言いながらも、冬祐の腹は決まっている。
定睦を取り返しに行く。
そうしないと翠が助からないのだから。
なによりも、今回の騒動の原因は自分たちにあるのだから。
「私も同行させてください」
掛けられた声に、冬祐が振り返る。
いるじゃないか、アンドロイドの中にも気概のあるやつがっ。
しかし、目を疑う。
そこにいたのは、あの、旧型ロボットだった。
「先生がさらわれたのは、私にも責任があります。不意を突かれたうえ、満足な可動範囲もない死角だらけのこのボディのせいで、気付いた時には電磁ネットで押さえ込まれて、不覚を取りました。私も連れて行ってください」
冬祐としては申し出自体は心強いものの、見るからに旧型な容姿に不安がわき上がる。
しかし、すぐに“かなり優秀な性能を持っている”という定睦の言葉を思い出す。
ということは、少なくとも、クラスの中でもあらゆる点において
「よし。じゃあ、一緒に行こう」
「お願いします」
「こちらこそ」
そこで冬祐は忘れていたことを思い出す。
「こっちはどうなるんだ?」
誰に訊くともなく口にして、目線を向ける。
その先ではずっと放置されていた知佐が、半ばふてくされたような表情を浮かべて冬祐を見ていた。
答えたのは、ジャケット女性のアンドロイド。
「お世話をさせていただきます。食事、シャワー、寝室、すべてご用意できますので、知佐様のご意志に基づくままに。もちろん、お帰りになることもご自由に」
その言葉を受けて、知佐がぼそりとささやく。
「ここの場所をしゃべるかもよ」
ジャケット女性が、きょとんとした大きな目で知佐を見る。
「それがなにか?」
「だって、ここって秘密の場所なんだろ。それを知った私を逃がしていいの?」
挑発するような目を向ける知佐だが、ジャケット女性はにっこりと答える。
「先生が身を隠していた相手――先生をさらった一味にばれた時点で、秘密にする意味はなくなりました。それよりも、人間である知佐様にご満足いただく時を提供するのが、われわれアンドロイドの使命です」
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