第2話 祭りへようこそ(その8)

「さて――」

 ぐるりとシートを回転させて、冬祐を見る。

 回転に合わせて、ウェーブロングの髪がふわっと広がった。

 その顔の造作自体は美しい部類に入ることはまちがいないが、ここまでの所業を見てきた冬祐が、異性としても、ヒトとしても魅力を感じることはない。

 そんな冬祐の抱く印象など無関係に“ゴスロリ”が、ずいと顔を寄せる。

「――自己紹介がまだだったな」

 かつおだしの香りがした。

「私は默網塚白美。默網塚解体工場の社長で、オマエに殺された黒美の妹だ」

 その言葉に、冬祐が慌てて否定する。

「ぼっ、僕は殺してないっ」

「黙れっ」

 怒声を放つ。

「たれこみがあったんだ。いまさら、すっとぼけて逃げられるか、ぼけ」

 そして、立ち上がり、くねくねと身を捩らせる。

「とってもいい、おねえちゃんだったのにいい。おねえちゃあああああああああああん。白美は悲しいですううううううううう――」

 その豹変振りをぽかんと見る冬祐に、白美は一転して真顔になる。

「――というわけで死ね」

 ライフルの銃口を向けて、引き金を引く。

 身を固まらせる冬祐の身体を押しのけ、代わりに銃口から放たれた電撃を受けたのは――飛び込んできた翠。

 その様子に知佐がぼそり。

「迷い込んだ一体。ご到着」

 足元で全身を痙攣させる翠のかたわらに、冬祐がヒザをつく。

「翠っ」

 目を見開いて半開きの口元を震わせるその様子は、明らかに意識を失っている。

 一瞬、早く翠から離れていたヒメが、冬祐の襟元に潜り込んでささやく。

「この電撃銃は違法改造品だよ。人間の心臓だって止めるよ」

 その声に身をすくませる冬祐に、白美が改めて銃口を向ける。

「今度こそ終わりだ、おねえちゃあああああん、見てますかああああああああ」

 が、次の瞬間、引き金にかけた指がねじ曲がり、ちぎれ飛ぶ。

 なにが起きたかわからず、ぽかんとしている白美だが――その直後に、腕がずたずたに切り裂かれる。

 悲鳴を上げる白美に、幼い声が告げる。

「話が違うだろ」

 白美が声の方向へ怒声で帰す。

「おめえがこいつを連れてこさせたんだろーが。おねえちゃんの仇だと言って」

「言ったよ。で、脅してやれとも言った。でも、殺していいとは言ってない」

 白美を始めとして周囲の若者たちが目線を集中させるのは、キャップを被ったひとりのこども。

 めりめりとイヤな音を立てて、白美が崩れ落ちる。

 ゴスロリのスカートから鮮血を漏らしながら。

 こどもは被っているキャップを、床でじたばたと苦痛に身を捩る白美へと投げつける。

 キャップの下から露わになった顔は――由胡だった。

 思わぬ再会に、冬祐が呆然とつぶやく。

「由胡、なぜここに」

 そんな冬祐とは無関係に、我に帰った周囲の連中が騒ぎ出す。

「誰だ、こいつ」

「どこから潜り込みやがった」

「知らねえやつだ。殺せ」

 それぞれが手にした電撃銃を構える。

 が、次の瞬間、構えた全員の腕が裂けて血肉を散らせる。

 次々とヒザをついて崩れ落ちていく中で、由胡は表情ひとつ変えずにイヤホンから引っ張りだした受話器マイクを口元へ寄せる。

「警察ですか? ホワイト団の現在地にいます。この通話位置を逆探してください。以上です」

 そして、倒れた翠を抱き起こして自分を見上げている冬祐へ、にやあと笑う。

「冬祐には治せないよね。治せる知り合いもいないだろうし」

 その時、ヒメが叫んだ。

「冬祐っ、上っ」

 冬祐が顔を上げる。

 いつのまにか、ワームホールが頭上で口を開けていた。

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