第2話 祭りへようこそ(その3)
夕食をともにしている間、里村夫人はずっとにこにこしていた。
話をしているのは、主に翠とメグとヒメ――ちなみに婦人は目が悪いのでヒメがヒトでもアンドロイドでもないことに気付いていない――で、人と接することが苦手な冬祐はたまに相づちを挟むくらいだったのだが。
ずっとメグとふたりきりで生活していた夫人にとっても、来客と食事をともにすることはそれだけで十分楽しく充実した時間だったのだろう。
婦人は日頃の生活で夜が早いこともあり、夕食後は早々に解散となった。
冬祐たちはすぐに
それから一時間ほどが過ぎた。
洗面台に用意されていた高級タオルでヒメのベッドを作り終えた冬祐が、ダブルベッドに身を沈めてうとうとし始めた頃、翠が戻ってきた。
上機嫌だった。
メグから新しい料理を習っていたという。
「夕食に出ていたカスティコオルを習いました」
得意げに胸を張る翠だが――
「なんだ、そりゃ」
――もちろん、冬祐にはなんのことだかわからない。
「カニ団子のスープです。ラクウィムド公国の家庭料理です」
そう言われても、この世界の地理も文化も知らない冬祐にはやはりわからない。
しかし、翠のテンションは高かった。
「これを快翔様――あたしのオーナー様に召し上がっていただくんですっ。カニが大好きでしたから、きっと喜んでいただけるはずです。うふふっ」
その様子を想像しているらしく、緩みっぱなしの表情で語った。
その翠が――泣いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。