第2話 祭りへようこそ(その3)

 夕食をともにしている間、里村夫人はずっとにこにこしていた。

 話をしているのは、主に翠とメグとヒメ――ちなみに婦人は目が悪いのでヒメがヒトでもアンドロイドでもないことに気付いていない――で、人と接することが苦手な冬祐はたまに相づちを挟むくらいだったのだが。

 ずっとメグとふたりきりで生活していた夫人にとっても、来客と食事をともにすることはそれだけで十分楽しく充実した時間だったのだろう。

 婦人は日頃の生活で夜が早いこともあり、夕食後は早々に解散となった。

 冬祐たちはすぐにゲストルームここへ通されたが、メグとなにかを話し合っていた翠は“先にお休みください”と言い残し、ゲストルームを出ていった。

 それから一時間ほどが過ぎた。

 洗面台に用意されていた高級タオルでヒメのベッドを作り終えた冬祐が、ダブルベッドに身を沈めてうとうとし始めた頃、翠が戻ってきた。

 上機嫌だった。

 メグから新しい料理を習っていたという。

「夕食に出ていたカスティコオルを習いました」

 得意げに胸を張る翠だが――

「なんだ、そりゃ」

 ――もちろん、冬祐にはなんのことだかわからない。

「カニ団子のスープです。ラクウィムド公国の家庭料理です」

 そう言われても、この世界の地理も文化も知らない冬祐にはやはりわからない。

 しかし、翠のテンションは高かった。

「これを快翔様――あたしのオーナー様に召し上がっていただくんですっ。カニが大好きでしたから、きっと喜んでいただけるはずです。うふふっ」

 その様子を想像しているらしく、緩みっぱなしの表情で語った。


 その翠が――泣いている。

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