第2話 祭りへようこそ(その1)

 冬祐が芦川由胡と知り合ったのは、十歳の時だった。

 その時、由胡は九歳だったが大人びたこどもだった。

 当時の冬祐が住む町の小学生は、男は野球、女は芸能人にしか興味がないのが当たり前だった。

 そして、それらに関心を示さない者を変人ヘンナヤツとして排斥するのも、よくある話だった。

 野球にまったく興味のなかった冬祐は、当然のようにどこにいてもひとりだった。

 それは芸能人に興味のない由胡にも言えた。

 いつしかふたりは出会い、一緒にプライベートを過ごすようになった。

 そして、知り合って二年が過ぎようとしていた夏休み、冬祐は由胡の家に招待された。

 珍しいことだった。

 あとになって思えば、それだけ当時の由胡は思い詰めていたのかもしれない。

 使い古されたサンダルや、靴や、カサが散乱する玄関から、半ばゴミ屋敷となっているリビングダイニングを経て由胡の部屋へと手を引かれて進む。

 三畳のその部屋にあるのは、通学鞄ランドセルと教科書を収めた小さな収納棚がひとつと、こどもサイズの布団が一組だけだった。

 その枕元には、どこかで拾ってきたらしい青年マンガ誌が数冊広げて置いてあった。

 それに影響されたのかもしれない。

 あるいは、その書かれていることに対して誤った解釈をしてしまったのかもしれない。

 由胡は身につけていたトレーナーとレギンスを脱ぎ捨て、戸惑う冬祐を見る。

「冬祐も早く」

 しかし、冬祐はその言葉に応えることはできなかった。

 ただ、未知の恐怖に怯え、その場から逃走した。

 夏休みが終わった。

 二学期の学校に由胡の姿はなかった。

 冬祐の母親が井戸端会議で仕入れた情報によると、由胡の母親は四年前に交通事故で他界しており、父親も最近は酒と博打に溺れて育児放棄状態だったらしい。

 それを知った近隣住人の通報により、由胡は施設に引き取られることになったという。

 しかし、そんなオトナの事情などこどもの冬祐にわかるはずもなく、興味もなかった。

 なによりも、由胡のことを一刻も早く忘れてしまいたかったのだ。

 正体不明の罪悪感から逃れるために。

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