第二章【第八話】「『スコット・フォールド(CV.神谷浩二)』は沈黙付与の呪文」
【少年】が帰った後も、【世界】は悩んでいた。【少年】の願いは、【少女】と相反するものであり、どちらの願いも叶えると言ってしまった手前、断ることはできない。加えて、【世界】は相談・交渉の内容を他者にみだりに伝えてはならないのだ。
((いや待て、【少女】の相談内容である事は伏せておいて、「与えられる情報はない」という真実だけ伝えたら…… いや、それもダメか その誤魔化しに気付かない【少年】くんじゃないしなあ……))
そう考え、【世界】はまた頭を悩ます。
((ま、遅れてもいっか 締切なんて言葉は、私を脅すためだけにあるからな かの有名な渡航大先生も仰っていたし……))
しかし、久々の現実逃避タイム(定期)を使用し、無理やりにでも思考をやめる。それでも、仕事から解放された【世界】の思考は止まる事を知らず、気付けば「『寄●学校のジュリエット』って、ペルシアと蓮季のドタバタ百合コメディって考えると……」などという、大半の読者が「何でだよ!」とか「せめてシャルちゃんだろ!」とか「え? 朱奈は?」とか「それより胡蝶×手李亞だろ」とか「あの二人の苗字『王』とか知っとるやつおるのん?」とか、さまざまな反論(?)を呼ぶこと必至の禁断の思考に囚われていた。
◇◆◇◆◇
『寄●学校のジュリエット』―――嫁、違った読め。以上。
◇◆◇◆◇
そして、現実逃避タイム(定期)を終えた【世界】は、とある決断をした。【少年】の願いも【少女】の願いも叶えよう、と。別に最初から方法がないではなかったのだ。ただ、【世界】の心情が、【少女】の願いの真意が、それらを否定していたのだ。しかし、【少年】の話とあれば話は変わってくる。
結局のところ、【少女】は【少年】と恋仲になりたいだけなのだ。
それだけ聞くと何の問題もないのだが、【恋人】によって、【世界】にアクセス権を持つ者が他人を愛するのは禁じられていたのだ。そうとも知らずに、【少女】は【世界】に対し幾度となく、相談をしに訪れていた。それだけに、【世界】としても気掛かりだったのだ。
◇◆◇◆◇
【恋人】《ラバーズ》―――この世の恋愛に関する事象を一任され、【愛】を司る機関、またはそこに帰属する者を指す語。主だった仕事は無く、割と神代の中では暇しているところの彼らだが、そのスペックは一流。権限こそ少ないものの、自身の仕事の範囲はきっちりこなし、後進育成も忘れない。どこぞの男とは大違いである。あ、それ僕の上司か。
◇◆◇◆◇
「命乞いをするときのコツ」を思い浮かべながら、【世界】は【恋人】のもとを訪れる準備をする。
彼女の台詞は、確かこうだった気がする。それを頼りに、手土産を何にするか考えよう。
―――一つは、命を握る者を楽しませる事。もう一つは、その人間を納得させる理由を述べることだ。
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