第二章【第七話】「World is yours.」

 【少女】は要求を伝えると、忙しなく帰っていった。

     ◇◆◇◆◇

 「で、どうしようか? 自称【少年】くん?」

 「うっせ てか「最後は自分で決める」んだろ?」

 たった今どこからともなく現れた【少年】が、今までの【少女】との会話を聞いていたのを知っていたような口ぶりで、【世界】は言う。

 その声音こそ冗談めかしているが、【少女】と話していた時よりも態度が少し良くなっているように、【少年】には映る。が、それも「気のせい」で片付ける。

 「いやー、私も私で大変でね なんせ、前担当者がこの場所へのアクセス権限をいろんなところにばら撒いたもんだから、厄介事が毎日毎日舞い込んでくるんだ 『ここは何でも屋じゃねえんだよ』って言ってやりたいね!」

 「バイトあるあるかよ… っていうか最後の、それ一色に言うやつじゃねえか」

 「仰る通りで」

     ◇◆◇◆◇

 【世界】―――この世界の理を司る機関、およびその関係者を指す語。本来は非常に限られた者しか関与を許されないが、前代の【世界】がその干渉権を一部の人間にも与えたため、ここ最近の【世界】来訪者は激増していた。

 その人間も、【世界】と対話・交渉の余地を与えられるだけで、決定的な判断を下す権限は与えられていない。そのため、酷いものだと突っぱねられることもある。つまり、自身の都合を通すことについては多少のテクニックを要するのだ。

 無論、【少女】もそれらを熟知していたため、【世界】が外界に降りられないこと、担当官が甘味好きであることを利用して願いを通したのだ。流石は常連といったところだろうか。

     ◇◆◇◆◇

 「それで、だ、【少年】くんよ 君も何か頼み事があってきたんじゃないのかい」

 「……ああ、そうだ 僕は、雪白七子という人間を探している 情報の提供をお願いしたい」

 「雪白…… なるほどね……」

 なぜかどこか納得したような顔を浮かべる【世界】に、少年は訝しむような視線を送る。

 【しょうねん】のにらみつける!

 しかし、こうかはなかった。

 帰ってきたのは、なんの脈絡もない質問だった

 「一ついいかい、【少年】くん? 彼女は、君のなんなんだ?」

 その、真剣さに満ちた表情に【少年】は、【世界】からの強い怒気を感じた。

 ((無難に答えるか……))

 「……か、いやクラスメイト」

 「『ただの』クラスメイトなんだね?」

 「ああ」

 短く答えて、【少年】は家に帰るべく踵を返した。

 「じゃあ……」

 しかし、その背中に更なる質問が投げかけられる。

 「君は彼女の、雪白七子の、なんなんだ?」

 「え?」

 その予期せぬ追撃に、【少年】は虚を突かれる。

 そこに畳み掛けるかのように、【世界】は捲し立てる。

 「だってそうだろう? 君は、私が言うのもなんだが、赤の他人のために無理を通すやつじゃない 今だってそうなんじゃないか? でなきゃわざわざこんな面倒な手順を踏んでまでして、こんな面倒な女の元にやってきて、『ただのクラスメイトのため』だなんて言われても、とてもじゃないが信じられない 君は私を好きではないはずだ なぜ、ここまでしたんだい?」

 「………………関係、ないだろ 余計な詮索してくんじゃねえ」

 そして、【少年】は帰っていった。

 どこかで、誰かの初恋が、叶わなかった瞬間である。




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