第二章【第五話】「ファースト・ラブ」

 日曜日――中高一貫校である香龍学園においては、土曜日も半ドンで授業が存在する。そんな学校の生徒にとっての日曜日という日はまさにエデン、約束の地なのである。それはそうと、エデンという文字の格好良さは聖書を読もうか真剣に考えてしまうレベル。『親鸞上人絵伝』はそれの進化形みたいなもんだろう――

 何はともあれ、時は中間試験の中休みに当たる日曜日。きっと世の学生たちはいつもよりテストに向けての勉強を嫌々ながらにし、勉強をサボるような連中もまた居心地の悪さを抱える中、【少年】は……

     ◇◆◇◆◇

 ((そういや、……七子ちゃんはどこいったんだ? 学校にいないってことは、この世界にはいないってことか?))

などということを考えていた。

 い、いや、べ、べべべ別に、誰も構ってくれなくて寂しいなんてこと、ないんだかんな‼︎

 しかし本当のところ、【少年】は初めから七子の事を気がかりに思っていたのだ。この世界に変わって(?)からというもの、一応元の世界との差違を探していた――いたものの、やはりというべきか、特にこれといった追加情報はなかった。

 また、こういった事象は「トリガー」になる物事があってこそ、と【少年】は考えていた。「青ブタ」にしろ「ハルヒ」にしろ『暗殺教室』にしろ、日常が崩壊するには「トリガー」になるものが必要だったのだ。にぱー。

    ◇◆◇◆◇

 ((まあ、どうやら僕の身の回り以外では、特に変化もないしな…… 探すとしますか、「トリガー」。))

 どういった思考を回せばこの結論に至るのかわからない人向けに、一応説明しておくと、繰り返しになるが、今【妹】は【少女】の肉体を持ったまま、以前と変わりなく過剰なスキンシップをしてくるのだ。「お兄ちゃん」としては嬉しいのだが、「思春期男子」としては反応せざるを得ない。

 それを誤魔化すために、どれだけ【少年】が骨を折ったか‼️

 だってよお、(【妹】と同じくらい)可愛くて(【妹】と同じくらい)美しくて(【妹】より少し、ほんの少しだけ……)出るとこでてんだぜッ‼️ 反応すんなって方が、無理だッ‼️

 そんな現実逃避(恒常)を終えると、【少年】は外行きの格好に着替える。

 若干三ヶ月ぶりに、学校と本屋以外で外に出た。

 これから【少年】は探しに行くのだ。

 ――彼の、初恋の女の子を。

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