第一章【第五話】「委員長君だけがいない教室」

 それからというもの、少女は毎日斜め前に座る少年に話しかけた。最初は困惑していた少年も、徐々に他人と話すことにも慣れていった。恒例の委員会決めも、「ペロス●ロ君」や「恭子さん」の本名を知る、またと無い機会と肯定的に捉えることができた。定期テスト終わりの席替えでは、一年分のガチャ石を注ぎ込んだ300連を直前にしたレベルの加持祈祷を夜通し行い、その姿を妹に見られて無事密教では無くなった。その甲斐あってか、窓際後列二番目というなかなかのポジションを獲得した。この少年がキ●ンなら「さらばハルヒ〜 フォーエバ〜(CV.杉田智和)」などと言っていいるところだろうが、この少年はキ●ンではない。あと、首の長い動物でもない。「久しぶりにふんもっふの声を聞くと、めちゃくちゃイケボに聞こえるよなあ」などと考えてしまう、そんな残念な少年であるのだ。

    ◇◆◇◆◇

 席替え――学校という「社会の縮図」において定期的に行われる、ただ座る席を変えるだけの行為でありながら、ほとんどの学生からは一種の祭りのような認識をされている学校行事の一つ。くじ引きや阿弥陀くじ、ランダム、果ては教員の都合などさまざまな決定方法があり、普段話さない人間との交流を主な目的と設定される場合が多い。このシステムは生徒同士の関係性の破壊のきっかけとなることがあるため、予測不能性を乗り越えようとする生徒が後を絶たず、くじ方式などでは利害の一致する人間同士での闇取引がしばしば見受けられる、それが「席替え」である。

    ◇◆◇◆◇

 現実逃避タイム(定期)を終えた少年は、考えていた。

 ((どうしょーかな。【少女】ちゃんとも春(かすが)君とも千綿(ちわた)さんとも離れ離れになってしまった…。いっそのことやるか、闇取引を……))

 そんな考えが少年の頭の片隅をよぎった時だった。

 「【少年】くーん、こっち来なよー」

 その声の主は、千綿さんだった。

 「こっちに席交換して欲しいって子がいてさー。お願いできない?」

 「うん。大丈夫だよ。」

 そんな言葉を交わして、席の交換をし終え、席に着こうとした……ができなかった。席に座る途中で、違和感があった。なぜならこの席には、とても交換したての席に忘れた、そうは思えないものが残っていたからだ。かといって、【少年】は、それを「忘れてますよ」などという勇気もなかった。そう。その机の上にあったのはズバリ……【少年】へ向けて綴られたであろう手紙だったのだ。

 横を見ると、にまぁと笑った千綿さんが座っていた。

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