第一章【第四話】「少女の見た世界」

 【少女】には、他人にはない特権がある。それは、誰が与えた権限なのか分からない。もしかしたら呪いかもしれない。何かから与えられたその呪い、その効果は…

     ◇◆◇◆◇

 【少女】の母方の祖父の葬式の日は曇りだった。

 死因は【少女】を庇っての事故死。少女の命と引き換えに自らの命を投げ打った。

 母親は彼女に向かってこう言った。

 ((おじいちゃんは、あなた自身の記憶の中でずっと生きてるのよ))

 何を言っているのお母さん?それよりこの歌は何?何の集まりなの?みんな泣いてるよ?何があったの?ねえ!今日は家族みんなで旅行に行こうって、前から言ってたじゃん!そうだ!おじいちゃんはどこ?おじいちゃん言ってたよ、私が分かんないことがあったら何でも教えてくれるって、おじいちゃんは物知りなんだよ!ねえ……どうしてなの……返事してよおじいちゃん!おじいちゃんはもういないって?嘘だよ!だっておじいちゃんはとっても健康だったんだよ…おじいちゃんは物知りなんだよ…

 【少女】は世界を知った。死んだ人間は蘇らないと。

 【少女】は世界に憤った。どうしておじいちゃんは死んだのかと。

 【少女】は世界に嘆いた。なぜおじいちゃんは死んだのかと。

 【少女】は世界を諦めた。おじいちゃんが生き返らないから。

 【少女】は世界を呪った。おじいちゃんを消したから。

 世界は【少女】を知った。底のない苦しみに蝕まれる存在を。

 世界は【罪】を知った。自身でさえ裁かれうるのだと。

 世界は【少女】を助けたかった。それは意志の問題だ。

 世界は助かりたかった。【罰】から逃れたかったから。

 その時からだった。その時、世界はこの少女の苦しみを取り除いた。

 「忘却」という麻薬を使って…―――

    ◇◆◇◆◇

かくして、【少女】は生まれた。世界を忘れた、まだ当時八つの女の子が…

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