第372話 石焼きカイロ

 最近は、お日様が沈むとすっかり冷え込むようになってきた。


 焚火たきびをしていると、あったかさを求めて猫たちが集まって来る。


 猫は寒さに弱い動物だから、あったかい場所が好き。


 猫会議ねこかいぎのように、焚火たきびかこんでくつろいでいる。


 ぼくはずっと、火のばんをしている。


 一度火をけたら、消すまで火の側からはなれられない。


 それに、ぼく以外の猫は火のばんが出来ないからね。


 焚火たきびであったまりながら、たくさんの焼き石を作っている。


 この焼き石は料理用じゃなくて、石焼き懐炉カイロ


走査そうさ』によると、「温石おんじゃく」というらしい。


 平安時代へいあんじだいの人々は、火やお湯であっためた石を布で包んで、ふところに入れて寒さをしのいでいたそうだ。


 温熱療法おんねつりょうほうにも、温石おんじゃくを使ったんだって。


 これからの時季じきおなかをゴロゴロこわすピーちゃんになる猫もいるから、おなかをあっためるのに使えるかもね。


 焼き石を火から取り出して、さわっても火傷やけどをしないくらいの温度おんどまで冷ましてから、猫たちにくばった。


 猫たちは、「あったかいニャー」とよろこんで受け取ってくれた。


 これで火を消しても、あったかくねむれるだろう。


 猫たちが巣穴すあな温石おんじゃくを抱きかかえて、寝静ねしずまる頃。


 ぼくは火の始末しまつをしたあと、焼き栗を持ってこっそりと集落しゅうらくを出た。


走査そうさ』でグレイさんを探して、る。


「グレイさん!」


『シロちゃん! 会いたかったぞっ!』


「ぼくも会いたかったミャ」


 グレイさんはぼくを見ると、めちゃくちゃうれしそうな笑顔でしっぽをブンブン振る。


 ぼくもグレイさんと会えたことがうれしくて、抱き合ってスリスリした。


 気が済むまでスリスリしたあと、焼き栗の皮を丁寧ていねいいてグレイさんに差し出す。


「はい、グレイさんの為に作った焼き栗ミャ」


『シロちゃんがオレの為に作ってくれるものは、なんでも美味おいしいからな。ありがたく、いただこう』


 グレイさんは焼き栗を食べると、うれしそうな笑みを浮かべる。


『おおっ? なんだこれはっ? 甘くてほくほくして、とっても美味おいしいぞっ!』


よろこんでもらえて、良かったミャ」


 食べ終わると、すがるような目でおねだりしてくる。


『やはりこれも、おかわりはないのか?』


「これ以上食べたら、病気になっちゃうからダメミャ」


『シロちゃんは、いつも美味おいしいものを作ってくれるのはうれしいのだが、たくさん食べられないのが悲しいな……』


 グレイさんはブンブン振っていたしっぽを、しょんぼりとらす。


 そんなこと言われても困る。


 ぼくだって、美味おいしいものはおなかいっぱい食べたい。


 いくら美味おいしいからって、たくさん食べたら病気になってしまう。


 グレイさんには、出来るだけ元気でいて欲しい。


「ごめんなさいミャ。おなかがいているなら、狩りをしようミャ」


『いや、腹はいていない。シロちゃんと一緒に、お散歩がしたいな』


「じゃあ、お散歩するミャ」


 ぼくたちは気を取り直して、のんびりと夜のお散歩を楽しんだ。

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