第322話 猫の記憶力

 ぼくは真剣しんけんな顔で、集落しゅうらくおさのトビキジに言い聞かせる。


「ミャ」


 ヨモギは叩きつぶして、お薬にしてから飲ませて下さい。


 どんなに良い薬草も、使い方を間違まちがえると、ぽんぽんぺいんぺいんおなかがいたいいたいになりますよ。


「すみませんにゃん、次から気を付けますにゃん」


 トビキジは苦笑にがわらいをしながら、小さく頭を下げた。


走査そうさ』によると、ヨモギにふくまれるcineoleシネオールという成分せいぶんに、抗菌作用こうきんさよう免疫力強化めんえきりょくきょうかなどの効果こうかがあるらしい。


 だけど、りすぎると、効果こうかが強すぎて中毒症状ちゅうどくしょうじょうを起こすそうだ。


 万能薬ばんのうやくのヨモギだって、食べ過ぎたら毒になる。


 今回はたぶん、食べた量が少なかったから、大丈夫だったんだ。


 他の集落しゅうらくでも、間違った使い方をしているかもしれない。


用法ようほう用量ようりょうは正しく守るように」と、伝えたはずなんだけどな。

 

 もしかしたら、忘れちゃったのかもしれない。


 実は猫は、人間の約20倍の記憶力きおくりょくを持っている。


 猫は、自分にとって興味きょうみがあるものや、いや記憶きおくはずっとおぼえている。


 人間と同じように、むかし記憶きおくは少しずつうすれていくけどね。


 逆に、興味きょうみがないものはすぐ忘れる。


 興味きょうみがないものは、そもそもおぼえる気がない。


 もちろん、個体差こたいさはある。


 まぁ、これは猫にかぎった話じゃないか。


 ぼくも好きなものはずっとおぼえているし、興味きょうみがないものは全然おぼえられないもんね。


 トビキジもきっと、用法ようほう用量ようりょうを忘れちゃったんだ。


 だけど、ヨモギの見分みわけ方は、おぼえていてくれて良かった。


 薬草と毒草を間違まちがえると、最悪死ぬ。


 なんにせよ、シロツメクサの集落しゅうらくの猫たちが全員無事で何よりだ。


 みんなの無事が確認出来たところで、次の集落しゅうらくへ行こう。


 おっと、ぼくも忘れるところだった。


「ミャ?」


 この集落しゅうらくは、なんという名前なのですか?


「シロツメクサの集落しゅうらくにゃん」


 シロツメクサで、合っていた。


 どの集落しゅうらくも、その集落しゅうらく特徴とくちょうとなるものの名前を付ける。


 この集落しゅうらくは、シロツメクサの群生地ぐんせいち(たくさんえている場所)だから、その名前を付けたんだと思う。


 シロツメクサは、繁殖力はんしょくりょくがとても強い雑草ざっそう


 地面にしっかりとるので、地面を強くする効果がある。


 洪水こうずいにも流されにくいし、流されてもすぐに再生する強い草だ。


 猫草ねこくさとして食べる猫もいるし、薬草にもなる。


 薬草としては、風邪かぜ去淡きょたんたんや鼻水を出やすくして、病原体びょうげんたいを体の外へ出す)、鎮静作用ちんせいさよう止血しけつなどの効果がある。


 この集落しゅうらくの猫たちにも、シロツメクサのことを教えておこう。

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