第323話 コメツブツメクサの集落の場合

 シロツメクサの集落しゅうらくの猫たちは、全員無事だった。


 災害後さいがいご細菌感染症さいきんかんせんしょうで、くなった猫もいない。


 例え、集落しゅうらくがなくなったとしても、生きてさえいればなんとかなる。


 以前、シロツメクサの集落しゅうらくおとずれた時は、大変だった。


 集落しゅうらくの猫たち全員が、「猫ヘルペスウイルス感染症かんせんしょう」にかかっていた。


 猫ヘルペスウイルス感染症かんせんしょうは、早い話が猫風邪ねこかぜ


 ぼくもお父さんもお母さんも、猫風邪ねこかぜをうつされてしまった。


 さらにぼくは、猫汎白血球減少症ねこはんはっけっきゅうげんしょうしょうかかって、死んでしまった。


 猫の神様のおかげで、再び生き返らせてもらえたけど。


 動けるようになるまで、約1ヶ月くらい掛かったっけ。

 

 今回は何事なにごともなく、1日で旅立てた。


 次は、コメツブツメクサの集落しゅうらくへ向かおう。



 シロツメクサの集落しゅうらくからコメツブツメクサの集落しゅうらくまでは、かなり距離きょりがある。


 以前は、5日くらい掛かったはず。


 実は、この旅で一番確認したかったのが、コメツブツメクサの集落しゅうらく


 コメツブツメクサの集落しゅうらくは、若い猫が6匹しかいなかった。


 天敵てんてきおそわれたり、病気にかかったりして、たくさんの猫が亡くなったらしい。


 集落しゅうらくおさも、お医者さんもいなかった。


 病気の猫はみんなくなったから、薬草も必要なかった。


 猫たちに、薬草を教えることも出来なかった。


 他の集落しゅうらくへの引っしをすすめたけど、聞き入れてもらえなかった。


 ぼくはコメツブツメクサの集落しゅうらくの猫たちには、何もしてあげられなかった。


 あれからどうなったのか、ずっと気になっていた。


 若い猫なら、仔猫こねこが産まれている可能性かのうせいはある。


 だけど、洪水こうずい被害ひがいは受けなかっただろうか。


 どうか、みんな無事でいてくれ。



 5日後、ぼくたちはコメツブツメクサの集落しゅうらく辿たどいた。


 ここも、洪水被害こうずいひがいあとがあった。


 大量のどろ集落しゅうらくへ流れ込んだらしく、地面がボコボコに変形へんけいしていた。


 周囲しゅういの草も流されたのか、茶色い地面が広がっている。


 隅々すみずみまで探したけれど、集落しゅうらくには誰もいなかった。


 この集落しゅうらくは、近いうちに全滅ぜんめつするかもしれないと、心配していた。


 だけどまさか、こんなに早く全滅ぜんめつするとは思わなかった。


 ぼくはまた、何も出来なかった。


 自分の無力むりょくさが、とてもくやしくて仕方がない。


 いや、全滅ぜんめつしたとは限らない。


 洪水こうずいで、集落しゅうらくめなくなったから、どこかへ避難ひなんしたのかもしれない。


 どこかで生きてびてくれていると、信じたかった。


 誰もいない集落しゅうらくで、やれることは何もない。


 ぼくたちは、コメツブツメクサの集落しゅうらくを後にして、次の集落しゅうらくへ向かうしかなかった。

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