第273話 猫の巣穴を覗く時、猫もまたこちらを覗いているのだ

 お父さんとお母さんと3匹で集落しゅうらくへ戻ると、誰もいなかった。


「あれ? 誰もいないニャー」


「シロちゃん、本当にここなのニャ?」


 しずかな集落しゅうらく見渡みわたして、ふたりは不思議そうに首をかしげた。


 みんな、グレイさんの遠吠とおぼえを聞いて、トマークトゥスがおそって来ると勘違かんちがいして、逃げちゃったんだ。


 さっき、集落しゅうらくの猫たちが、大慌おおあわててで巣穴すあなへ飛び込んで行くところを見た。


 みんな、巣穴すあなの中で息をひそめてかくれているんだ。


 ぼくは、猫の巣穴すあなをひとつずつのぞき込み、声をけていく。


「ミャ」


 皆さん、トマークトゥスはおそってきませんよ。


 だからもう、出てきて大丈夫ですよ。


「ほ、ホントかにゃあ?」


「シロちゃん、ずっと外にいたニャウ?」 


 ぼくの言葉を聞いて、半信半疑はんしんはんぎといった顔で、数匹の猫たちが顔をのぞかせた。


 少し待つと、おそおそるといった感じで、猫たちは巣穴すあなから出てくる。


 キョロキョロと周りを見回したり、鼻をフンフン鳴らしてにおいをいだりしながら、やんのかステップをしている。


 しばらくすると、猫たちは安全を確認かくにん出来たらしく、ホッとした顔で緊張きんちょういた。


 アオキ先生が、心配そうな顔でぼくに向かって走って来る。


「シロちゃん! 大丈夫だったにゃあっ?」


「ミャ」


 トマークトゥスは、この集落しゅうらくに来ませんから、大丈夫ですよ。


「にゃにゃっ? シロちゃんの体から、トマークトゥスの臭いがするにゃあっ!」


 あ、しまった。


 グレイさんと抱き合ったから、においがうつっちゃったんだ。


 ぼくは、どうにか言い訳を考える。


「ミャ」


 トマークトゥスがこの集落しゅうらくおそわないか、調べに行ったんですよ。


 その時に、においが付いちゃったかもしれませんね。


「シロちゃんひとりで、調べに行ったのにゃあっ? そんな危ないことは、しちゃダメでしょーにゃあっ!」


 途端とたんにアオキ先生は怒り出して、ぼくをしかり付けた。


 ぼくがしょんぼりすると、ぼくの後ろにいたお父さんとお母さんが前に出てくる。


「うちのシロが、ご迷惑めいわくをおけして、すみませんニャー」


「シロちゃんが、大変お世話になったそうで、ありがとうございましたニャ」


 お父さんとお母さんを見て、アオキ先生は首をかしげる。


「おや? 見ない顔にゃあ。おふたりは、どちらさまにゃあ?」


「ミャ」


 アオキ先生、こちらがぼくの本当のお父さんとお母さんです。


 ぼくを探して、ここまでおむかえに来てくれたんですよ。


「にゃんとっ? このおふたりが、シロちゃんの本当のお父さんとお母さんにゃあっ? 本当に、生きていたんだにゃあっ!」


 アオキ先生は、お父さんとお母さんを見て、とてもおどろいていた。

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