第274話 息子さんをください!

 アオキ先生の驚きの声を聞いて、集落しゅうらくの猫たちも「なんニャなんニャ?」と、集まって来る。


 集まって来た猫たちにも、「ぼくのお父さんとお母さんです」と、紹介した。


「お父さんとお母さんが、おむかえに来てくれて、良かったにゃお」


「じゃあ、シロちゃん、この集落しゅうらくからいなくなっちゃうニャウ? さびしくなるニャウ……」


 集落しゅうらくの猫たちは、「良かったニャー」と言いながらも、ぼくとのわかれをしんでくれた。


 約1ヶ月半も、この集落しゅうらくらしていたんだ。


 100年近く生きられる人間と、どんなに頑張がんばっても5年も生きられない野生の猫とでは、月日つきひの体感が違う。


 ぼくはもうすっかり、この集落しゅうらくの猫として、受け入れられていた。


 この集落しゅうらくの猫たちは、みんな良い猫ばかりだった。


 ぼくだって、仲良くなった猫たちとのわかれはつらい。


 だけど、ずっとここにはいられない。


 ぼくには、お父さんとお母さんがいて、旅の目的があり、帰る場所がある。


 ぼくは、集まってくれた猫たちに1匹ずつ、ちょんと鼻と鼻をくっ付けて挨拶あいさつをしていく。


「ミャ」


 長い間、お世話になりました。


 皆さんに助けてもらえなければ、ぼくはあそこで死んでいました。


 助けて頂きまして、本当にありがとうございました。


「シロちゃん、もう行っちゃうナォン? 悲しいナォン……」


 ハチミケはボロボロ涙を流して、ぼくをギュッと抱き締めてくれた。


「また来ます」と、約束は出来ない。


 この集落しゅうらくに、また来れるかどうか分からないから。


 ここでわかれたら、もう二度と会えないかもしれない。


 そう思ったら、ぼくも悲しくて涙があふれ出す。


「ミャ……」


 ハチミケお母さん、今まで本当にありがとうございました。


 ハチミケお母さんにやさしくしてもらった思い出は、一生忘れません。


 さようなら、ぼくのもうひとりのお母さん。


「こちらこそ、ありがとうナォン。短い間だったけど、あなたのお母さんでいられて、とても幸せだったナォン。行ってらっしゃい。どうか、元気でナォン」


 ハチミケはぼくをはなすと、頭をでてくれた。


 涙を流しながら、にっこりと微笑ほほえむ。


 そのやさしい笑顔は、子供を信じて送り出す親の顔だった。


「シロちゃん、行かないでにゃあっ! ずっと、ここにいてにゃあっ!」


 今度は、アオキ先生がぼくを抱き締めてきた。


 ハチミケと違って、アオキ先生はめちゃくちゃ引きめてくる。 


 お父さんとお母さんに向かって、懸命けんめいたのみ込んでくる。


「シロちゃんのお父さん、お母さんっ! 必ず幸せにしてみせますから、シロちゃんをボクにくださいにゃあっ! お願いしますにゃあっ!」 


「アオキ先生、シロちゃんを助けてくれたことは、感謝していますニャー。ですが、それとこれとは話が別ですニャー。シロちゃんは、誰にもあげませんニャー」


 お父さんはおだやかな口調くちょうでおことわりの言葉を言って、アオキ先生からぼくを取り上げた。


 アオキ先生には助けてもらったおんがあるけど、そのお願いは聞いてあげられない。


 ごめんなさい、アオキ先生。

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