第271話 懐かしい声

「せめて、成猫おとなになるまで待ちなさいにゃあ」


「ミャ」


 ぼくはもう、成猫おとなです。


「にゃはははっ、シロちゃんは仔猫こねこにしか見えないにゃあ」


 確かにぼくは、体の大きさが成猫おとなの半分くらいしかないけど。


 もう2歳だから、立派りっぱ成猫おとななんだよね。


 猫の2歳は、人間でたとえると、24歳くらい。


 それに、半年以上、お父さんとお母さんと一緒に旅をしている。


 集落しゅうらくの外がどれほど危険かは、アオキ先生よりも知っていると思う。


 Argentavisアルゲンタヴィス(巨大なたか)に連れ去られたのも、旅をしている途中とちゅうだった。


 ぼくがどんなにくわしく説明しても、アオキ先生はちっとも信じてくれなかった。 


 タビーとサビーは、「アオキ先生の許可がないと、次の集落しゅうらくまで送ることは出来ない」と、言っていた。


 これじゃ、一生、この集落しゅうらくから出られないぞ。




 どうしたものかと、なやんでいた時だった。


「ウォ~ン……」と、オオカミの遠吠とおぼえが聞こえてきた。


 集落しゅうらくの猫たちはみんな、ビックリして大きくび上がった。


「この声は、トマークトゥスにゃあっ!」


「大変ニャウッ!」


「早く逃げるにゃおっ!」


 集落しゅうらくの猫たちは、おそれおののいて逃げまどう。


 猫たちは、大慌おおあわててで巣穴すあなへ飛び込んでいく。

 

 その場には、ぼくひとり取り残された。


 ぼくだけは、その声に聞き覚えがあった。


 スンスンとにおいをぐと、風に乗ってけものにおいがただってくる。

 

 猫にとっては、とてつもなくいや天敵てんてきにおい。


 だけどぼくは、どこかなつかしいと感じた。


 きっと、この声とにおいはグレイさんに違いない。


 そうだよね? 『走査そうさ


対象たいしょう食肉目しょくにくもくイヌ科イヌ目トマークトゥス』


個体名なまえ:グレイ』


位置情報いちじょうほう直進ちょくしん1.8km』


 やっぱり、グレイさんだっ!


 ぼくは大喜よろこびで、集落しゅうらくを飛び出した。


 走っている時に、体のあちこちに草や枝が引っ掛かるのも気にしない。


 とにかく早くグレイさんに会いたくて、全力ぜんりょくで走る。


 今まで一生懸命いっしょうけんめい、走る練習をしておいて良かった。


 息が苦しくなっても、足が痛くなっても、必死になって走った。


 そうしてようやく、グレイさんを見つけた。


 グレイさんは、相変あいかわらず凛々りりしくてカッコ良かった。


 たった1ヶ月半くらいはなれていただけなのに、なつかしさで胸がいっぱいになる。


 よろこびの涙をボロボロ流しながら、グレイさんの胸に飛び込む。


「グレイさんっ!」


『シロちゃん! 無事だったんだなっ? 良かった、本当に良かったっ!』


「グレイさん、会いたかったミャ! 探しに来てくれて、ありがとうミャッ!」


『オレもずっと会いたくて、仕方なかったぞっ! もう離さないからなっ!』


 グレイさんもボロボロと泣きながら、ぼくをギュッと抱き締めてくれた。

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