第266話 番のお医者さん

 ぼくとアオキ先生が話しているところへ、薬草をいっぱい抱えたハチワレミケネコがやって来た。


 ぼくを見ると、心配そうに声を掛けてくる。


仔猫こねこちゃん、やっと起きたナォン? ケガはどうナォン?」


「ミャ」


 今はまだ、体が痛くて動けませんけど。


 アオキ先生のおかげで、だいぶ良くなりました。


「そう、それは良かったナォン。アオキは、腕の良いお医者さんだから、きっとすぐ治るナォン。仔猫こねこちゃん、お名前は?」


「ミャ」


 ぼくの名前は、シロといいます。


「ワタシは、アオキのつがい(夫婦)で、ハチミケナォン。ワタシのことは、『お母さん』って呼んでナォン」


 ハチミケはニッコリと笑って、 ぼくの頭をでてくれた。


 アオキ先生とハチミケは、つがいでお医者さんをやっているのか。


 患者かんじゃ診断しんだんし、薬を作って飲ませるのが、アオキ先生。


 薬草を正しく見分みわけて、ってくるのが、ハチミケ。


 考えてみれば、ぼくも家族で、お医者さんをやっていた。


 ぼくがお医者さんとして、『走査そうさ』で診断しんだん


 お父さんとお母さんが、薬剤師やくざいしとして薬を作っていた。


 最初は、診断しんだんから薬作りまで、全部ひとりでやっていたんだけど。


 お父さんとお母さんが手伝ってくれるようになって、本当に助かった。


 今にして思えば、ふたりが薬草を見分みわけられるようになってくれていて、良かったな。


 ケガをっても、病気になっても、ふたりなら治せるはずだ。


 ぼくがいなくなっても、きっと大丈夫。


 ぼくが連れ去られた場所からイチモツの集落しゅうらく は、かなり距離があるけど。


 ふたりが無事に、イチモツの集落しゅうらくへ帰れることを祈ろう。




 そういえば、ここはあそこからどれくらい離れているんだろう?


 Argentavisアルゲンタヴィス(巨大なたか)の飛行速度ひこうそくどは、時速40km/hくらいだったはず。


 ぼくの記憶きおくが確かなら、数分で落とされたよね?


 もしかしたら、あそこからそれほどはなれていないかもしれない。


 ここからどのくらいはなれているか、教えて、『走査そうさ


errorエラー目的地もくてきち未設定みせってい


 ちゃんとした目的地もくてきちを言わないと、ダメってこと?

 

 あそこから一番近い集落しゅうらくは、ノアザミの集落しゅうらくだったはず。


 じゃあ、ここからノアザミの集落しゅうらくまでは、どのくらい距離があるの?


直進ちょくしん3.3km先、右折うせつ1.1km、左折うせつ800m』


 うわっ、思ったよりはなれていた!


 知らない集落しゅうらく辿たどいている時点じてんで、気付くべきだった。


 アルゲンタヴィスは、ぼくたちが目指していた場所とは、別の方角ほうがくへ飛んでいたんだ。


 近くだったとしても、おむかえに来てもらえる可能性かのうせいは低い。


 3匹は、ぼくがこの集落しゅうらくにいることを知らない。


 ぼくが生きていることすら、知らないんだから。


 やっぱり、ケガを治して、自力じりきで帰るしかないか。

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